Run to the Virtua City with VSSE Agents Story第5話
「っ逃がすかよっ!てんめぇ、俺の頭蓋骨粉砕する気かっ!一発殴ってやらないと気がすまねえ!」
エヴァンの頭には、肘打ちを食らった時のじんじんとした強い痛みと、怒りしかなかった。
自分を振り落とそうと蛇行する車の枠にしがみつき、窓を割ってやろうと銃を振りかぶった時、
急激な旋回に身体がついていけなくなる。
「っ馬鹿、へこむから乗るんじゃねぇ!!」
弘樹は後継モデルのFD3SRX−7のエンジンを載せた、自慢の愛車のFC3SRX−7の
アクセルを思いっ切り踏み込み、ドリフトの第1歩の定常円旋回の要領で派手に
アクセルターンをしてボンネットに乗って来た男を振り落とした。
「覚悟しやが…っちょ、ぉわっ!?あだっ!」
そのまま振り落とされ、地面に転がった時にはもう、エヴァンに見えるのは森に消えていく車のシルエットだけだった。
「……っあーー!!逃がしたっ!」
悔しさが勝り叫ぶことしかできないエヴァンに、少しふらつきながらも走ってきた相棒が追いついた。
「……っはぁ、おい、どうしたエヴァン!」
「どうしたもこうしたもねえ、逃がしちまったよ…あーもー、腹立つぜっ」
立ち止まり、頭を抑えながらジョルジョが呟く。普段より少しばかり、心許ない。
「っくそ、けっこう効いたな今のは…走るだけでも響く…、…逃げられたか。キャサリン、追えるか?」
「ええ、こっちで追ってみるわ。銃を持ってないことを祈るわね。二人にも進行場所を伝えるから、
体調が回復したら追ってちょうだい」
「ああ、悪いが少し休むぞ。車はどの方向へ向かっている?」
休むとは言ったものの、足を止めている暇はない。トンネルを出、車の進行方向へ足を進めながら問う。
「…市街地の方面へ向かっているようね。ルークたちとレイジたちが見つけられればいいんだけど。
4人にも情報を送っておくわね」
「頼んだぜ。あーっもー、ほんと腹立つぜ…まだ頭のてっぺんが痛む…」
見事に肘を食らった部分を労わるように撫でながら、二人は足を進めた。
水面に反射する太陽を見渡すためにかけていたサングラスを定位置に押し上げる。
「港なあ…カモメが平和だなあ…」
ビットに足をかけつつ、アランが口を開く。
「黄昏ている時間はないからな」
「もう、無駄口を叩かないでよ!」
ぴしゃりと間延びした空気を断つような冷静な声と、語気の強い声。
「はいはいっと」
「ほら、さっそく来たわよ。前方に6人!」
キャサリンの声と同時に目の前から、敵兵が姿を現す。
「あーあ、情緒も風情もないのかよ」
ぼやきつつも同時に的確な射撃を行うことは忘れない。伊達にベテランに足を踏み入れているわけではないのだ。
「本当に…その軽口は治らないな」
言いつつも、自分もしっかり後続手を片付けていく。
だが、何度かこの相棒の癖で気持ちが助けられているのも事実だった。
海沿い方面の敵を倒していきつつ、捜索対象の人物を注意深く捜していくが、それらしい影は見当たらなかった。
「…この辺りにはいないのか。キャサリン、傍にコンテナ置き場があるが、そこはどうだ?」
目をやると、うず高く詰まれたコンテナ群が見える。
少し間を置いて、キャサリンの分析が終わったようだ。
「そうね、熱源がたくさんあるけれど…全員兵士かしら…?適度に散っているからわかりにくいわね」
キャサリンが見ているモニターには、動いていたり止まっていたりする一団が多く映っていた。
「とりあえず、倒しがてら確認していけばいいんだろ?」
銃を構えてアランが突出していくが、それもキャサリンのサポートが入るのを信じての先読みだ。
「順番が逆よ!そっち方面だと左に3人、右に5人!」
ほら、やはり自分の予想通り。やっぱり彼女は優秀なサポーターだ。
口元ににやりと笑みを浮かべつつ、鮮やかに銃弾を放っていく。
突出した相棒の後ろを補佐するのは自分の役目だ。それを間違えてはいけない。
アランの背後に銃を構えると、やはり数人の兵士が姿を現した。
この程度ならキャサリンに数を聞かずともなんとかなるが、不意を突かれてはたまったものではない。
「キャサリン!」
「左の赤いコンテナの影に身を潜めているのが1人よ!」
呼ぶだけでこちらの期待にしっかり応えてくれる。
敵を排除しつつコンテナ群の中腹へ進んでいった頃、兵士の他に動く人影を見た。ような気がした。
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