Rescue request of a dragon第3話
「成る程、大体事情は分かった」
「逆異世界トリップって奴か」
「ああ。相当ややこしい話だろうよ。その7匹は何処かに飛んでったのか?」
「ああ。だが今は何処に居るのか検討がつかない」
「くっそー、それじゃあ俺達もどうしようもねーぜ」
バリバリとサエリクスが頭をかきながら呟く。
European Union Fightersの5人はVSSEから手配されたヘリコプターに乗って
VSSEの本部までやって来た訳だったが、正直に言えばこの5人も頭の中が凄く混乱している。
だが、そんな5人とVSSEのエージェント達を更に困惑させる事態が!!
「んっ? 何だこの音……」
「え?」
アイトエルが耳を澄ましたのを見て、そばにいるバラリーも耳を澄ましてみる。
すると何処からとも無くバッサバッサと、凄く嫌な予感がする音が聞こえて来た。
「お、おいこの音って……」
「まさ、か」
嫌な予感が的中してしまった様だ。
その不思議な音の正体は、物凄いスピードで夕闇に紛れて飛んで来た大きな黒いドラゴン……
知能が発達して人間の言葉を理解し喋る事が出来、人間の姿になる事も可能な生物。
異世界ヘルヴァナールの、7色の伝説のドラゴンのリーダーであるイークヴェスであった。
「うおっ!!」
「い、イークヴェス!?」
「お、おい止めろ!! あいつは俺達の仲間だ!!」
European Union Fightersの5人が必死にVSSEのエージェント達が発砲するのを止めている間に、
イークヴェスがドスンと大きな音を立てて土の地面に着地した。
「すっごく久しぶりって訳でも無いが、久しぶりだな……イークヴェス」
『ああ、久しぶりだな、異世界の人間よ。余達もまさかこちらに卵が転移されてしまうとは思いもしなかった。
それにこちらに飛ばされた卵は1つでは無いのだ』
「は?」
卵は何と1つだけでは無かった様だ。
「全部で幾つ……?」
バラリーが恐る恐る尋ねると、イークヴェスから衝撃の答えが。
『全部で7個だ』
「あー、更に嫌な予感が的中」
ジェイノリーはやれやれと言った様子で首を横に振った。
「それを、この地球の中から探し出して回収しなければならないって訳だな」
『ああそうだ。卵の近くに行けば波動が余達ドラゴンには分かる。案内するから一緒に来てくれないか』
サエリクスの予想に頷いたイークヴェスの要望だったが、どうやらそうも行かないらしい。
「……と言う訳だから、後は俺等に」
「任せられる訳が無いだろう」
ハリドのその続きにバッサリとNGを出したのは、VSSEの最強のエージェントであるリチャード・ミラー。
その後ろではキースもロバートもアランもウェズリーもジョルジョもエヴァンもハックリーもネイトも
ルークもマークも、その他のエージェントやVSSE関係者全員が疑いの眼差しを向ける。
そう言われるのは予想の範囲内だったので、今度はアイトエルがこんな提案を。
「じゃあ、俺達と一緒にその卵を探すのを手伝って……」
だがそのアイトエルの言葉を遮ったのは、モナコで出会ったルークとマークの指導係であるロバートだった。
「悪いがそれも無理だ。俺達はそのドラゴンに襲われているのでな。そっちにとっては味方でもこっちにとっては敵。
かくまうつもりだったら俺達だって容赦はしねぇ」
「えっ!?」
バラリーの疑問の叫びに、ロバートの相棒のキースも何時も通りの冷静な口調で返した。
「当たり前だろう。御前達はここから飛び立つつもりだろうがこっちはそんな珍しい存在を
目の前にして、このままみすみす黙って逃がすとでも思うのか? それに駆除した後に良い研究材料にもなりそうだ」
あれ、何だか雲行きが怪しくなって来たぞとEuropean Union Fightersの5人は冷や汗が出て来る。
「だが、まだ6匹この世界にドラゴンが居る。そっちを見つけるのが先じゃないのか?」
冷や汗をかきつつも5人の中で1番冷静沈着なジェイノリーが当たり前の疑問を呈する。
しかしそれにはアランとウェズリーが反論。
「はっ、目の前に獲物が居ればまずそいつから倒すんだよ、俺達は!!」
「そうだな。VSSEのエージェントは世界中に居るから、他のドラゴンも見つかったらすぐに連絡してやる」
ますます雲行きが怪しくなって来た様だ。
この只ならぬ雰囲気に、5人を代表してスペインのバラリーが次の疑問をぶつける。
「と言う事は……俺等の事も見逃してくれないのか?」
「そうだな、どうやら尋常では無い位の関わりがそのドラゴンと御前達にはある様だ」
「もうこれから俺等VSSEに尋問されるのはあんた達にも分かるだろ?」
不敵な笑みをジョルジョは浮かべ、エヴァンはニヤニヤとした笑みを浮かべる。
この展開になってしまったら、どうやらもうそろそろこの後の展開もEuropean Union Fightersの
5人には予想がある程度ついていた。
サエリクスは諦めにも似た息を吐き、腕を組んでVSSEのエージェント達を見つめる。
「そうか。なら交渉は決裂って奴だな」
その呟きに反応を見せたのはモナコで出会ったルーク・オニールだ。
「決裂も何も、俺達VSSEは世界の脅威を排除してんだよ。だからそれだって十分脅威
じゃねぇのか? そうだろ、いかにも危険だろ?」
「だったら、脅威をもたらす前に芽を摘むべきだと俺達は思う」
相棒のマーク・ゴダートも冷静な口調で、5人とイークヴェスにとってとんでもない事を口にした。
「……で、イークヴェスはどう思うんだ?」
European Union Fightersのリーダーのハリドは、横に居る黒いドラゴンに意見を求める。
『どうやら話し合いで解決は無理な様だ。余としては研究の対象にされるのも気が進まないが、
それ以上に他のドラゴンと卵の行方が今1番気になるのだ。それにシュヴィリスとグラルバルトで
楽勝だったと言う話を聞いている。だったら余も負ける筈が無い』
「……ここから逃げられるのか?」
『ああ大丈夫だ。出でよ……異界の槍!!』
イークヴェスがそう叫んだ瞬間、地面からオレンジに近い赤くて細長い光の槍が何本もエージェント達の周りに突き出す。
「うおわ!?」
「うお!?」
「くうっ!?」
「うわあ!」
「はっ!?」
「くっ!」
「な、何だ!!」
「うわっ!?」
「ま、まぶっ!」
「ぬわ!」
「う、うろたえるな!!」
エージェント達が阿鼻叫喚となっている所で、イークヴェスはーロッパの5人に指示を出す。
『乗れ!』
5人は即座にイークヴェスの背中に乗り、大空へと飛び立った。
下からはVSSEのエージェント達による銃撃がやって来るが、イークヴェスは
空高くまで飛び上がってすぐに身を翻してさっさとその場から離れる。
「あーあ、やっちまったぜ……」
「でも俺、久々にイークヴェスの異界の槍見たぜ」
ため息を吐くバラリーと興奮気味のサエリクスだが、アイトエルが疑問を1つイークヴェスに投げ掛けた。
「異界の槍、もしかして当てる気が無かったんじゃないのか? そもそもこちらの人間に魔術が通用するのか?」
「そうだな……言われてみれば上手く魔術の位置を調整して脅しただけか」
考え込むジェイノリーにイークヴェスが答える。
『どうやら、こちらの人間には……いや、この世界では余の魔術が効く様だ』
「何だそれ。だったら当てない様にしたのか?」
『ああそうだ。余だってこちらの世界に危害を加える気は無いからな。シュヴィリスとグラルバルトには
ここから逃げ出す為に足止めをして貰った。あいつ等はどうやら余達を驚異的な存在だと認識しているらしいが、
余達は別に戦争を仕掛けにこの世界に来ている訳じゃないから、不必要に争う事は避けるべきだ。
それにこの世界では余達の存在は異質なのだろう? だったら大事になる前に
さっさとヘルヴァナールに帰った方が良いだろうしな』
冷静に淡々とした口調で喋るイークヴェスにハリドも同意する。
「今の発言は不必要に争う事は〜の部分ですっごく矛盾してるけど、もうやっちまったし先に向こうが攻撃して
来たんだったら正当防衛だな。あんたの言う通り時間が経てば経つ程まずい。念話が使えるのであれば他のドラゴン達、
それから日本の連中にもそれで通話してくれ。なるべく人気の無い場所に集まろう。それと、他のドラゴン達もビンは持っているのか?」
『ああ。前に御前達と約束した時から、何時でも人間に戻れる様に首から鎖で何本も余達は全員ぶら下げている』
「じゃあ、それで人間の姿になっていて欲しいって言うのも伝えてくれ。元の姿じゃ絶対目立つからな」
『承知した』
そして今度はイークヴェスから5人にこんな質問が。
『さっきの連中、あれは一体何なんだ? どうやら御前達とは知り合いの様だったが……』
「ああ。あいつ等はだな……」
ハリドが代表して、VSSEの事やあのドラゴンの事件の事を話した。
『なるほど。となれば前回の暴れん坊の時は味方で、今回は敵になってしまったと言う訳だな』
「誰かさん達のせいでな。特にあいつ等は世界中にエージェントが居るから厄介だ。
絶対に俺達の事を追いかけて来るに決まってるぜ」
サエリクスはやれやれと言った表情で首を振る。
『なら、ますます長居する訳には行かないだろうな。個人情報も握られているなら尚更か。
一先ずはこのヨーロッパから離れた方が良さそうだ』
イークヴェスはそのまま、大空を飛んで西……アメリカへと翼を動かすのであった。
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