Rescue request of a dragon第19話
「それじゃあ後は夜を待つだけね」
『ああ。ここ等で待っていれば人気の無い夜に元の姿に戻れる』
和美の確認にグラルバルトは頷く。
「後で何か食べ物を買って来るから、わりーけどそれまでここで待っててくれよ?」
『私は別に犬と言う訳では無いのだがな』
まるで飼い犬に諭す様な口調で話す哲に若干ムッとしながらも、グラルバルトは
大人しく海の近くの放置されて長そうな物置小屋の中で待つ事に。
「あー腹減った。飯ー」
「俺達の乗る飛行機までまだ時間があるから、和美お勧めのスポットとかはあるか?」
「そうねぇ……」
腕を組んで和美が考え始めた次の瞬間、突然聞き慣れない声が5人に話し掛けて来た。
「あのー」
「んっ?」
「もしかして、あなた達も日本人?」
声をかけて来たのは茶髪の日本語を喋る男。そしてその隣にはその男と同じく茶髪の
白人が1人立っている。その2人を見て5人は違和感を覚えた。
(殺気……)
(うわ、普通の人に見えるけど隙が無さそうだ)
(只者じゃないな、この2人……)
(この感じ、凄く緊張感が漂うぜ)
(何だろう、まず一般人では無さそう。でもこの日本人っぽい人は何処かで……)
まさかVSSE? と5人は身構えたが、当の2人はきょとんとした顔をしている。
「おい、どうした?」
ちょっと片言気味だが白人の方は日本語で問い掛けて来た。
「あなたも日本語を話せるの?」
「ああ。日本には住んで長いからな。日本語が聞こえて来たもんで俺の連れが話しかけたんだ」
由佳の問いかけに白人が返していると、何かを思い出したかの様に連れのアジア人が声を上げる。
「……俺の勘違いなら済まないが、もしかして藤尾精哉と白井永治か?」
「え!?」
「な、んで俺の名前……そうか、VSSEだな!?」
藤尾はシラットの構えを、永治は柔道の構えを取ったがまだ男2人はきょとんとしている。
「おいおい、VSSEって……俺等は違うよ。あんた等と同じ首都高の走り屋仲間だ」
「俺はC1グランプリにも出てたからあんた等を知っている」
「えっ? 首都高?」
「C1グランプリだと?」
和美と哲がその単語に真っ先に反応を見せる。
「そうだ。俺はSPバトルの灼熱の嵐、黒羽真治だ」
「チームアルファって言う湾岸線のチームでリーダーをやっていたスティーブだ」
男2人の自己紹介に、藤尾と永治はそれぞれ目を見開いてから構えを解いた。
「まさ……か、オレンジのV35スカイラインの?」
「今はベージュだがな。あんた等5人はドリフトの選手だから俺等の事は余り知らないのか」
言葉数の少ない真治だが的確にズバッと5人の過去を言い当てる。それを聞いていて
残りの3人もようやく2人の事を思い出した。
「あ、ああ〜! そう言えば居たわね! ファイヤーバードに乗ってたりZ32に乗ってたりしてた、
横須賀の兵隊さん達のチームリーダーでしょ? 私も湾岸線でチームステッカーを良く見たわ!」
「もう1人はあれだ、ドリフトの谷本仁史と並ぶ凄い奴でしかも現役の傭兵か。思い出したぜ」
「へー、奇遇じゃない。でも私達の事も知っててくれたなんて嬉しいわね」
と言う訳で一緒にモナコで飯を食う事になり、ドラゴンの事を伏せつつVSSEに狙われている事を
2人の男に5人は話した。
「成る程な。つまり色々勘違いとかがあってそのVSSEに追われてここに逃げて来たのか」
「うん。私達はこれからまた当ても無く世界中を回ってみるわ」
リーダーの和美が向かい側に座るスティーブにそう漏らす。勿論合流ポイントの事も伏せておいた。
「俺も傭兵だからVSSEの話は良く聞くけど、実際関わった事は全く無い。これは断言する」
「米軍だと8年前位に生物兵器を使ったテロがあった時にVSSEが活躍したって聞いたが、
俺は日本に居て全く関わっていないから安心してくれ」
力強い2人のコメントだが、5人の胸中ではまだ半信半疑だ。
「うん、分かったわ。でもVSSEの活躍って日本でもゲームになってるから、余り意味が無い気もするけど」
由佳のコメントにうんうんと藤尾も頷く。
「確かに。俺もクリアするまでやった事あるからその事件は知ってる。テラーバイトだろ?」
「そう言えばそんな内容だったっけ、最新作は」
「来年5作目が出るって話だったから、そうなると1個前だな。でもまさか俺達が関わるなんて
思いもしなかったぜ。こうしてモナコまで来ちゃった訳だけどよ」
若干疲れ気味の哲のコメントに真治もスティーブも苦笑を漏らさざるを得なかった。
そしてその近くのテーブルでは1人の男が会計の為にテーブルを立つ。
男は店を出た後に持っていた携帯端末を開いて何処かへアクセスし、画面をタップして
1通のメールを書き始めた。
(情報が正しければ……あの5人でどうやら間違い無い様だな)
まだ店の中で昼食を摂っている5人の姿をチラッと見て、男は黙々とメールを書いてから
最後に送信ボタンを押し、今度は何処かへ電話を掛け始めるのであった。
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