Resistance to the False Accusation第7話


王国騎士団の頂点に存在しており、43歳と言う初老の年齢ではあるが現役をまだまだ退くつもりは

無いと豪語するのが王国騎士団長のジェラード・シュヴェリオルである。王国騎士団長の肩書きを

持つだけあって、43歳になった今でも武術面だけをとっても若手の一歩も二歩も先を行く

スピードと身体のキレ、そして大柄な体格も兼ね備えた正に屈強な騎士団員の鏡であり御手本の様な存在だ。

戦場に出る時は大斧を駆使して戦うスタイルで、その戦闘スタイルと同様に本人の性格も豪快。

多少の失敗は笑って吹き飛ばし、何時でも明るく元気が良いので騎士団長らしくないと副団長の

ピエールから言われる事もある。元々は孤児であり、先代の王に拾われてから家族同然に育てられた。

なので身も心も全てヴィーンラディ王国に捧げている一方、現在の王は自分にとっては弟の様な存在である。


そんな騎士団長の自分が自ら動くと言う事はよっぽどの事であろうと言う事で、

追撃に向かう部隊のリーダーとしても活動するジェラード。

普段の出撃であれば自分はよっぽどの事が無い限り前線に立つ事は無いが、本心では

今でも希望が通れば前線に立ちたいと常日頃から思っている。

なので今回、自分がこの追撃任務のリーダーに選ばれた事で気分が高まっているのだが、

気分が高まり過ぎて油断してしまってはいけないのでなるべく平常心を保つ様にしたいらしい。

が、今回は戦場に部隊を送り込むのとは勝手が少し違う。

確かに多くの部隊が逃げた2人の事を探し回っているのは事実なのだが、多くの部隊を

1箇所に送り込むのでは無くそれこそ国内の何十箇所に分散して行動させている為に、

部隊の動かし方がまた変わってくるのだ。


それと、戦場では大部隊……つまり大人数で行動するのだが、同じ集団行動とは

言えども今回はたったの4人で自分は行動を共にしなければいけない。

つまり機動力は大規模な軍勢を率いる時よりも遥かに高くなるのだが、その反面

戦闘力不足になってしまう事はどうしても避けられない。仮に敵が数人ならまだしも、

数百人、数千人、数万人と言う大部隊だったら一旦体勢を立て直す為に軍人達や

警備隊員達を集めなければいけない。

いや、集められる状況になったならそれでまだ救いがあるのだが、その大勢の軍勢に

たった4人で包囲されてしまったとしたら……考えただけでも恐ろしくなる。

幾ら騎士団長であるとも言えども所詮は人間なので限界がある。これが仮に

ドラゴンとかの大型魔物であればまた話は変わって来るのだが、それは机上の空論にしか過ぎない。


それでも、あの聞き込みをした後に急に姿を消した2人の事についてはきな臭く感じない方が不思議だ。

どうやら調査によると居なくなってしまった2人の内、部下だとされているのは騎士団員のシェオルと言う

若手の男の様だ。

(シェオル……か)

ジェラードはそのシェオルと言う騎士団員に執着している。

それもその筈、騎士団員の中で有望な若手の成長株だとされているシェオルにガラム、ピエール、

そしてジェラードまでが目をつけて自分達の知識や技術を叩き込んでいるのだ。

そんなシェオルが突然、騎士団に何の報告もせずにガラムと共に姿を消してしまった。

これは怪しい臭いがしない筈も無い、と何としても探し出す事をジェラードは頭の中で決意を固めていた。


軍馬も来たのですぐに出発するとは言えども、他の準備やら何やらでまだ少しだけ時間があるので

各自で武器をチェックしたり装備を整えたりする。

そんな中でふと、クレガーが一緒に準備を進めるヴェンラトースにこんな事を言い出した。

「思ったんですけど」

「何だ?」

「遠征って久々ですよね?」

そう問われて、上官である総隊長もあー……と納得した表情になる。

「確かにそうか。俺達は王都から滅多に出て行かないからな。大きな戦がある時位は遠征に

行くにしても、大体の場合は後方で指示を出すからな」

つまり自分達がこうして自ら前線に出て行く事は余り無いのである。他の国の軍では、例えば

ファルス帝国であれば軍の士気自体が高い為騎士団長達が積極的に前線へ出て来る話を聞いた事があるし、

逆にバーレン皇国の場合は余り団長達が前線に出て来る事は無い。


国の方針の違いもあるだろうし、戦争や遠征の時の攻め方だって国が違えば戦略だって違う訳だから

一概に軍の攻め方はこうだ! と言い切れない。

バーレンにも好戦的な人間が居るのは何人か知っているが、戦術の方針でそう言った人間も

自分の都合ばかりで勝手に動く訳にもいかない。

つまり、軍隊の自分達は出撃の許可が無ければ前線で武器を振るう事も出来ない。

「要は、俺達も使われる側の人間なんですよね」

何処かもの悲しそうな口調でクレガーが呟くが、今更分かり切っている事だ。

自分達は国家の狗にしか過ぎない。だがそれでも、王国に入って来る脅威を排除する為に

集まって来たのは警備隊も騎士団も同じなのだ。

その思いだけは絶対に忘れないようにしよう、とクレガーとヴェンラトースは誓い合いながら、

準備が出来たので姿を消した2人を追いかけ始めるのであった。


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