Resistance to the False Accusation第6話
クレガーとヴェンラトースの聞き込み調査は次の日も行なわれていたのだが、
その時に思いもよらない情報を目撃する事になる。
「ギルドのガラムと、団長の部下が昨日から行方不明なのか……」
行方不明になったのは昨日となると、自分達が聞き込みをした後に
居なくなった事になるから随分急な話である。そして聞き込みの後に突然
姿を消した、と言う事にも不信感が募る。
「隊長、これはまさか……」
「まだ決め付けるのは早いが、疑わしいのは確かだと言う事だな」
この事件は麻薬に関する事件であり、原材料は薬草の変種である。
表向きには国王に認められる程の薬草畑を所有しているガラムであるが、
その裏では薬草畑の中でこうして麻薬を栽培する事も可能なのだ。
「とりあえず、この件を陛下や団長に報告するとしよう。それ以外の騎士団員には
漏らさない方が絶対に良い。そしてその後にそいつ等を追うのかどうかを決めるぞ」
「はい!」
一旦王城へと戻った2人は、まずジェラルドとピエールに聞き込みの内容を報告し
その後にエルシュリーとレラヴィンの元へと向かった。
「……以上です」
「そうか、あのガラムがな……」
そう呟き、ギシリと椅子をきしませて深く腰掛けるエルシュリー。
「それで、その2人の逃げた先については分かっているのですか?」
そのレラヴィンの質問にはクレガーが答える。
「はっ。聞き込みを続けた結果、北へ逃げたとの情報が入って来ました。
それもかなり目立つ様に行動していたとの事。なので、追跡をこれから俺達で
始めようと思います。その為には陛下の御判断を頂きたいのです」
クレガーの言葉にエルシュリーは腰を上げたが、思いも寄らない条件が追加される事になる。
「わかった、ただし……ジェラルドとピエールも一緒に連れて行け」
「えっ?」
疑問の表情を浮かべるクレガーに対して、エルシュリーがレラヴィンに顎で指示をする。
その真意を汲み取ったレラヴィンが口を開く。
「重要参考人が行方不明になったとして、考えられるのはどこかに隠れているか、
もしかしたら国外に逃亡しようとしているのかも知れないと言う事も考えられます。
しかし、多くの兵を動かすとなれば向こうにも警戒されてしまう。そこで団長と副団長も
一緒について行って貰うのですよ。ですが、もしかしたらその重要参考人は思いも寄らない
行動を取っているかもしれません。北では無く、南東へと向かった方が宜しいと思います」
エルシュリーとレラヴィンから下されたその命により、すぐに軍馬が準備されて
南に向かって出発する事になったクレガー、ヴェンラトース、ジェラルド、ピエール。
しかし、彼等の頭の中ではあの後に言われたレラヴィンの一言がどうしても気になっていた。
『ですが、もしかしたらその重要参考人は思いも寄らない行動を
取っているかもしれません。北ではなく、南東へと向かった方が宜しいと思います』
その南と言う言葉にどうしても引っかかりを覚えているのは4人共同じであった。
「どうして、宰相は南だと判断したのでしょうか?」
ピエールの疑問に、ジェラルドがしばし考え込む。
「うーん、南東には確かに自然がたくさんあるし、俺達の目を眩ます為には
丁度良い筈だ。だけど国外逃亡するのであれば時間が掛かりすぎるな。俺だったら
そのまま西へ行き、船を使って海を渡って逃げると思う」
悩むジェラルド。しかしその横でヴェンラトースがはっとした顔つきになる。
「俺……もしかすると分かったかもしれません」
「え?」
そうして語り始めたヴェンラトースの推測に、他の3人の顔つきが変わって
行くのはそう時間が掛からない事であった。
王に忠誠を誓う騎士団員達は厳格な雰囲気が漂っている事が大半なのだが、一見すると彼はその辺をブラブラ
している軽薄な若者にしか見られない事が多い。しかし、そんな彼の正体はヴィーンラディ王国騎士団において
33歳で副団長を務める程の腕前と才能の持ち主であるピエール・プレデバーグ。大剣を使いこなすスタイルだが
決して大雑把ではなくどちらかと言えば正確に相手を仕留めるテクニックを持っている。それは彼がその
軽薄そうな外見に似合わない真面目な性格だからであろう。真面目な性格であるからこそ努力をする事が出来た
彼はその甲斐あって、こうして今現在王国騎士団で団長を務めている。もともと平民出身であり実家は雑貨屋なのだが、
平民出身でも騎士団でこうして重要なポジションに就く事が出来ると言う事を証明して見せたのであった。
次世代を担う若手を育てるのが最近の任務の1つであり、新米騎士のシェオルを上官のジェラードと一緒に
教育している姿を鍛錬場や執務室でたまに見かける事が出来る。
そんなピエールは、部下である総警備隊長のヴェンラトースの推測を聞く事に。
「そのガラムと部下が目立つ様に逃げたなら、恐らく騎士団や警備隊もその目立つ様に逃げた方を
重点的に警備したり捜索したりする筈。しかし、もしそれが罠だったとしたら?
そっちの方に俺達の目を向けさせておき、俺達の目が逸れているその間に別の方角へ逃げるの
だとしたら? そうでも無ければわざわざそんな目立つ様に逃げる様な事はしないと思います」
「もしそうだとして、何か策でもあると言うのか?」
そう問い掛けて来た騎士団長ジェラードに、ヴェンラトースは当たり前の答えを返す。
「オーソドックスですが、人数はこちらの方が有利です。ですから分かり易い様にこちらも
わざと罠にかかった振りをしてそちらの警備を強化しましょう。ですが、その他の地域に
関しても警備を強化して、あの2人の行方を追いましょう」
「ふむ、今の所はそれしか無い……か」
と言う訳で普通に警備を強化する事と、行方を捜す為に聞き込み調査を続ける事、そして
レラヴィンから言われた様に4人は南東へと向かう事が決まった。
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