Resistance to the False Accusation第1話
2人の男が山の中を駆け回り、息を切らせていた。1人は水色の髪の男。
もう1人は青髪の男だ。必死に何かから逃げる様に……と言うよりも、逃げる為に
今こうして山の中を駈けずり回っている訳なのだが、それは自分達には全く身に
覚えの無い事であり、何故こんな事になったのだろうかと言う思いと共に、
絶対に逃げ切ってやるんだと言う強い決意が苦しそうな表情の中からも読み取れる。
そしてその2人を追いかけているのが金髪の槍を持った男とハルバードを持っている
ピンクの髪の男の2人である。この事件のそもそもの発端は、この王国全土を
揺るがす様な事件が発覚した事から始まったのである。
「そう、そこで……そうだ、槍をもっと自分の手足の様に扱う様に心掛けるんだ」
金髪の男が、ピンクの髪の男に城の鍛練場で槍の使い方を教わっている。
槍の教えを受けているのはクレガー・ヴァスロール。ヴィーンラディ王国には2つの軍が存在している。
1つは王に忠誠を誓ってその身を国に捧げる王国騎士団。そしてもう1つが王では無く国民を守る為に
日々治安維持に奔走している王国警備隊だ。地球で言えば警察組織と軍人との違いではあるが、
どちらも国の治安を守る為に存在している組織と言って差し支えない物であるのは地球と何も変わらない。
その王国警備隊で30歳の若さで副総隊長を務めているのがクレガー・ヴァスロールだ。無口な男ではあるが
内に秘めた情熱は熱く、元々は17歳の時にイディリークからやって来た孤児院育ちの旅人であったが、
丁度開催されていた武術大会で3位に入賞してしまいそのまま王国警備隊に入団した。今はそのまま
13年間ずっと王国警備隊で働いている。
そして、そのクレガーに槍を教えているクレガーの上司であり、クレガーにヴィーンラディ警備隊仕込みの
武器の使い方やその他の知識、礼儀作法等を入隊当初から教え込んだ先輩であり、今では警備隊の
総隊長を務めているのがヴェンラトース・ジルトラック。由緒正しい家柄で育った為か傲慢な性格で友人は
余り多くないものの、警備隊の総隊長を務めるだけあって才覚がある事は間違いない。元々は騎士団への
入団を強く望んでいたのだが、入団したいと思った時には騎士団が特に募集を行っていなかったので警備隊に
入隊した。それでも家柄から来るプライドのせいもあるのだろうか、自分にも他人にも厳しいストイックな性格も
持ち合わせているからこそ、今の35歳と言う若さで警備隊の総隊長を務める事が出来ているのだろうと自他共に思っている。
そんな2人が鍛練場において槍の特訓に励んでいると、入口から1人の騎士団員が姿を現した。
その騎士は鍛錬中の2人に話しかける。その話の内容は、自分達の主君がクレガーとヴェンラトースの
2人を呼んでいるとの事であった。
「えっ? 俺達ですか?」
「そうか。良しクレガー、行くぞ」
「はい!」
鍛練を一旦終了させ、2人はヴィーンラディ城の長い廊下を歩く。
このヴィーンラディでは自然が多く、人が住んでいるのはこの王都とその周辺位の物である。
国の規模としては小国であり、隣国であるアーエリヴァ帝国と比べてしまうと
ヴィーンラディの領土は3分の1位の広さであり、国の規模でも負けてしまう。
北に位置するアーエリヴァ、それから北東で隣接するラーフィティア、更に東で隣接する
イディリークがそれぞれ隣国であり、大陸中央寄りの西にある王都は森や山に囲まれ西側は海になっている。
いわば自然のバリケードで守られている様な物なので、他国が侵攻するのも一苦労だ。
しかも、アーエリヴァとの国境は渓谷になっているのでアーエリヴァに入る為にもこのヴィーンラディに
来る為にも渓谷を通るか他の国から来るか西から船を使って海を渡って来るかしか無いのだ。
それを考えると、小国であるとは言え意外と立地条件が良いと考えられる事も無くは無いのがこのヴィーンラディ王国。
だが、だからと言って国としての軍事力に力を入れていない訳では無い。ヴィーンラディが軍事力に力を
入れている訳は魔物の存在があるからだ。自然があれば生物が生まれる。その中には凶暴な魔物も存在している。
その魔物を討伐するのが騎士団と警備隊の主な任務であるのだ。領土を駆け回り、魔物を討伐して国民の安全を
確保するのが騎士団であるしそのサポート全般を行うのが警備隊であるが為に、軍事力に力を入れるのは当然なのである。
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