リレー小説第3部第18話
「あっ、ちょ・・おい・・・!」
流斗はものの見事に置いて行かれてしまった。森の中と言うだけあってすぐに木々で全員の姿が
見えなくなってしまった以上、下手に動いて迷うよりはここに居た方が良いと判断する。
「・・・詳しい事は聞かへんけど・・・・まぁ、相当因縁がありそうだという事は分かったわ。・・・だったら、主犯を
探すだけやと思うけど・・皆が走って行った方から何か気配とかそういうのを感じたりせぇへんか?」
幽にそう問い掛ける流斗だが、幽の反応は芳しく無かった。
「俺は別に忍者じゃねえ。それに…魔物の気配が強すぎてそれ以外は捕捉できない」
幽は首を振った。
「…でも、俺は行かねえと。主犯はあいつらに任せて、俺は魔物の処理をする」
そう言って幽は追いかけて行った一同を追おうと歩き始めた。
そんな幽に対して、流斗は文句を言われるのを覚悟で口を開く。
「・・・でも、1つだけ聞かせてくれへんか。その魔物は身体が先に動くタイプなんか? 頭が先に動くタイプなんか?」
それだけはどうしても聞いておかなければならなかった。その魔物の特性を利用するのが主犯にとっても
もしかしたら都合が良いんじゃないか? と言う素人の考えだったが。
「……体が先に動くタイプだ」
そう吐き捨てるように言うと、幽は瞳を閉じ、意識を集中させ魔物の気配をたどる。そして気配を感じた方向へダッと走り出した。
流斗も幽を追いかけて走って行く。時折り突き出ている枝や木の根っこに足を取られそうになったり、足元の悪い道を
走り抜けるので幽かに引き離されそうになりながらもしぶとく食らいつく。
そのまま幽について行く事1分30秒。どうやら、幽の目標としていた魔物に再会する事になってしまった様だ。
「・・・何か、えもいわれぬオーラがあるな」
そう言いながら流斗は周りの様子を探る。すると、視界の片隅でフッと何かが動く気配を感じた。
「・・!!」
その方向に向かって流斗は駆け出す。どうやら気配の主も流斗に気がついたらしく、隠れていた茂みから立ち上がって逃げ出した。
「おい、待てや!」
一方幽はそのまま魔物と対峙する。
魔物は女王の言う通り幽にしか興味を示さず、流斗がその場からいなくなったことなど気にもとめやしない様子だった。
「……お前、意識はあるみてえだな」
そう幽は語りかけると、魔物に近づいていく。
「…抗えなかったのか」
顔が半分溶けたような魔物の顔からは、表情は全く読み取れない。が、それは今の幽も同じ。だからこの仮面は都合がいい。
「二度も同じことになるなんてな。…もう疲れたろ」
そのまま魔物の眼の前までいくと、幽は魔物を抱きしめる。
「おやすみ」
抱きしめたその腕に忍ばせた小刀を、魔物の背中に深く突き刺す。その間も魔物は一切抵抗せず、ただじっと動かず、だんだん体温を失っていった。
最後に、一瞬だけ人の姿に戻ったような気がした。
「はぁーっ、はぁ・・・ここまでやで・・・!! 御前さんが黒幕やな!!」
流斗は森の中で、上手い具合に主犯の男を行き止まりまで追い詰める事が出来た。
それにしても他のメンバーはどうやら散り散りになってしまった様である。
その男は銀髪を耳の辺りまで伸ばした、まだまだ若い・・年齢で言えばフレアとかレオとかよりもう少し上だろうか?
およそ10代後半から20代前半と言う顔立ちの若者だった。
右手には短剣、左手には魔法使いらしきステッキ。ファンタジー世界には疎い流斗だが、厄介そうな相手だと言う事は容易に想像がついた。
「魔物が如何のこうの言うのは俺には分からへんが、逃がす訳にもいかんのや!!」