リレー小説第3部第16話
(最悪な形を最高の形で撃破してやる…か)
先ほど流斗が言った言葉が、頭で繰り返される。
(それができたら、苦労しねえよ)
その仮面で隠された顔には、今どんな表情が張り付いているのだろうか。
「……」
幽は胸の心臓部分をぎゅっと掴んだ。
流斗はそんな幽の様子に気がつきながらも、あー・・・何か色々な事があったんやろなとあえて気がつかない振りをしていた。
そうしている間にたこ焼きが出来上がる。
「へい、お待ち。焦げてるし、形も良くあらへんけど・・・パッションだけはたっぷり入れたつもりやからな。
あー・・トッピングは自分で決めて」
そう言いつつ流斗は自分でも味見をしてみる。
「・・・ああ、うん・・・」
たこ焼き、そう言えば久しぶりに食べたなーと思いつつその微妙な出来具合に顔が無表情にならざるを得ない流斗だった。
しかし付き合ってくれた・・と言うよりもたこ焼きの作り方を見学したいと言い出したフロレアと、流斗と同じくたこ焼きを
口に運んだ幽に感想を聞いていると、何だか厨房の外が騒がしくなって来た。誰かが騒いでいる。
「ん・・・何や?」
その騒いでいる人物は、今の流斗にとってこの世界で会いたくない人物であったのである。
「フロレア!!!無事かい!!!」
厨房の扉を勢いよく開けて飛び出てきたのは、赤い髪に翡翠の瞳。赤いマントを羽織った件の王子、フレアだった。
「フ、フレア様!?って、レオさんも一緒じゃないですか!どうしたんです…」
「どうしたもこうしたもないだろう!!なぜ僕に護衛を頼まなかったんだいフロレア!!!」
フレアはフロレアの返事をかき消してガーッと詰め寄る。あまりの勢いにフロレアは「あう…あう…」としか答えることができなかった。
助けた方がいいのか、と流斗が動こうとすると、「やめとけやめとけ、ただの痴話喧嘩だ」と緑のハチマキの男に制されてしまった。
「あんた、異世界から来た人間だったんだってな。だからあんな挙動不審だったんだなー。ああ、俺はレオ。で、あっちで
痴話喧嘩してる赤いのがフレア。魔女さんから話は聞いた。俺たちもこの問題、手伝ってやるぜ」
「ほ、ほんまか・・」
まさかここまで追いかけて来るとは思って居なかったこの2人に、流斗は若干引き気味になりながらも戦力が増えたと内心喜ぶ。
そして幽とフロレアからたこ焼きの味の感想を聞いて厨房から出ようとしたのだが、フレアが恐ろしい形相で流斗に詰め寄って来た。
まだ問題は解決していなかった様である。
「君、フロレアに手を出していないだろうね?」
フレアはいつもの落ち着いた様子と打って変わってかなりイラつきながら流斗に啖呵を切る。
「だいたい君、中年もいいところじゃないか。年齢差というものを少しは考えたらどうだい?…もし手を出していたら殺す」
そう言うフレアの目は本気だ。
「ちょちょちょ、何か勘違いしてへん? 熱くなる前に俺の話も聞いてくれ。俺はそこまで下種な人間ちゃうで・・・そもそも俺はもう結婚してるんや」
中年云々はこの際置いておくとしても・・と王子の剣幕にまぁまぁ・・となだめる感じで流斗は落ち着く様に諭す。
「君達が幾つかは分からへんけど、手を出す事は無い。それだけは言える。フロレアに聞いてみたらええやろ・・・」
自分に聞くより、まずは彼女の話を聞くべきじゃないのかとフロレアの方を見ながら流斗はフレアに言う。
「それに、その事よりももっと大事な事を話し合いせーへんとあかんと思うで、俺は」