リレー小説第3部第6話
大きな街は、城下町だった。
たくさんの人々が行き交う中を流斗はあてもなく彷徨う。
しかしこのまま街中をぶらぶらしていても仕方がないので、人が集まりそうな酒場へ入ってみる。
酒場へ入ると、何やらとあるテーブルに人混みができている。気になったのでそこへ近づいてみると、
赤い髪の青年と紺色の髪の青年が腕相撲をしているようだ。それにギャラリーがつき、人混みとなっていたのか。
「…ぐっ、僕の負けだ」
赤髪の青年の腕が、ゆっくりと下がり勝負に決着がつく。周りのギャラリーからわっ、と歓声が沸きあがり、
両者を讃える声が次々と上がる。
「いやいや、実に見事な勝負だったな!」
「ハチマキの兄ちゃん、やるじゃねえか!」
「王子もなかなか良かったですぞ!」
流斗はその観衆の声にひっかかった。
(ん・・王子?)
確かにそんな単語が今聞こえた。
聞き間違いでなければ、王子・・・となれば何処かの国の王子様が城下町に出て来ている事になる。
んー、何だか場違いだったかなーと思いつつも流斗は観客の1人に話しかける。
「ちょっとええ?」
「何だい?」
「王子・・って?」
「ああ、あの赤い髪の男がフレア王子。このヴァルクオーレの次期国王さ!! あんたはこの国の人間じゃ無さそうだな」
えっ・・と流斗はその観客の言葉に対して赤い髪の男に視線を向ける。
(この国の王子・・・? でも、こんな大っぴらにこんな場所に出て来てええんか・・普通お忍びとかそういう形で
城下町に出てくるもんやあらへんの・・・?)
そんな流斗の訝しげな視線に気がついたのか、ハチマキの男の目が流斗の姿を捉えた。
「…おい、フレア。お前のこと見てる奴がいるぞ」
ハチマキの男は流斗から目をそらさず、フレアにだけ聞こえるよう囁いた。その言葉でフレアも流斗の姿を確認する。
「…そこのお方。僕に何か用だろうか」
フレアは相手が動く前に自分から相手に近づいた。
「いや・・・良いバトルやったで。特に用は無いんや」
そう言ってすっと踵を返した流斗だったが、両方の肩にそれぞれ別の手が置かれる。
「そうかな?では僕に向けた視線は何なのだろうか。ねえ、レオ」
「そうだな。お前、まさかフレアの命でも狙うつもりだったんじゃねえか?」
「・・・え?」
まさかの発言に焦る流斗。何だか勘違いをされている様だ。
しかし、自分が今持っているこの青竜刀を見ればそう思われるのも無理は無い。
「ちゃうちゃう、ちゃうねん!! ただおおおおおお俺はあああのそのえー・・せ、せや! 王子様が何で
こんな場所におるんかなーって思って見てただけでべべっべ別にさっささ殺害とかSATSUGAIとかそんな事ちーとも
考えておらへんよ!! いや、これほんまやねんって何やその目、俺を疑ってるんか!? 俺はどっから如何見ても
善良な一市民にしか見えへんやろ!? なー周りのみんな、せやろ、なぁ、せ・・やろ・・・」
「どっからどう見ても殺す気満々な感じだろ…お前の抱えてるそれは何だよ」
と、先ほどレオと呼ばれたハチマキの男は流斗の抱えている青龍刀を顎で指す。
「そういうことだ。…少し城で話を聞かせてもらおうか」
フレアはにっこりと微笑みながら流斗にそういった。
だけどこのままでは明らかにまずい。絶対にまずい。さっきの兄貴よりも確実にまずい。
そう考えた流斗は「あーっ!」とフレアとレオの肩越しに指を差し、2人がその指の方向に気を逸らした所で一目散に
酒場のドアを蹴り破ってダッシュで街中に逃げ出した。
(あかん!! こら絶対あかんて!! あー、何でこんなあかん事ばっかり続くんやろ!?)
流斗は何処に逃げれば良いのか分からなかったが、何処か・・・街中では囲まれる危険性が高い事だけは分かる。
何故なら先程、フレアかレオかは分からないがどちらかが大きく息を吸って警笛を吹き鳴らした。
その音はすでに酒場の外に出ていた流斗にも聞こえた。
けたたましい笛の音が酒場周辺に響き渡る。兵士がやって来るのも時間の問題だろう。
(この世界に神様がおるのかは分からんけど・・・マジで今の状況恨むで!!)
居るのかどうか分からない神に恨み言を心の中でぶつけながら、流斗は一先ず入り組んだ路地裏へと逃げ込んだ。