リレー小説第3部第5話
「あー・・・あ・・えー・・・ニーハオ? シャーシーナーリ? ニーグゥイシン?」
どうすれば良いのか分からず、流斗はテンパる余り中国語で話しかけてみる。
マスターは何だかきょとんとした顔をしている。
「通じないか・・・こんにちは・・・・? ここは何処ですか? あなたは誰ですか?」
日本語に訳して再チャレンジ。最後に「もしかして空白の魔女って人ですか?」と付け加えるのを忘れずに。
マスターはしばらく惚けた顔をした後、あはは!と愉快そうに笑いだした。
「あらぁ、久しぶりのお客さんね!ここは空白の喫茶店よ?!で、おっしゃる通りアタシが空白の魔女。フランさんって呼んでちょうだい」
男…フランはくねくねしながら流斗にウインクをする。
「あんたはベッドのスプリングか」
関西人の性分なのかそう突っ込んだ流斗。しかし、次の瞬間フランと名乗った男の態度が急変する!!
「あーそう言えば、アレックス? とかいう凄くハイテンションな軍人からチケット貰って来たんだよ。喫茶店の兄貴が
どうのこうのってその軍人が言っててさぁ・・・って、魔女さん? どないしたん?」
関西弁に変わった流斗に対し、フランの様子も変わった。
「誰が…兄貴だって…?」
フランはにっこりと笑顔を浮かべながら流斗に話しかける。しかしその目は笑っていない。
ただ微笑んでいるだけなのに、フランからは圧倒的な威圧感が放たれ、空気がゴゴゴ…と揺れる。
そこで流斗はしまった、と自分の失言に気づいた。
でももうここまで来たらもう・・良いや・・と思う。異世界に来てしまった以上、もうどんな事があっても驚いたら負けかも知れない。
その勢いのまま流斗は負けじと返答する。
「御前さんの事に決まってるやろ。ってか、そもそも俺が最初に言うたんちゃうねん。文句ならそのアレックスに言うてくれ。
と言うか、俺はかっこええと思うで? 俺の地元じゃ頼れる人間は兄貴、兄貴言われて慕われるんや」
そこで一旦言葉を区切り、ポンポンと1度、2度フランの肩を叩く。
「ちゅー事は、兄貴って言われるのは御前さんが慕われているって事の証拠やと俺は思うんや。呼び方1つで良い方向に
転がってくれる事もある。少なくとも、俺はそう言う地域で生きてきたんや。・・・って、俺はこんな話をしに来たんちゃうねん。
えっとな、色々事情があるんやけどな・・ってあれ、兄貴?」
「アタシは兄貴じゃなくて「お姉さん」よッッッッ!!!!!」
とフランは叫びながら流斗にビンタを喰らわせる。
「おぐっ!」
お、俺が何したんや・・・と呟かずにはいられない流斗だった。
「この店に来たってことは何かアタシに用があってきたんでしょうけど、あんたみたいな失礼な人には何も協力したくないわ!」
フランは苛立ちながら流斗の服の後ろ襟を掴むと、ずるずるとドアへ引きずる。
「だいたいなんでまたあんたみたいな異世界の人間がきてるわけェ!?どいつもこいつもアタシの監視を
かいくぐるんだから!もう面倒なのよ!だから!」
と、フランはドアをガチャッと開け
「彼に丸投げするわ!」
そう叫びながら流斗をぽいっとドアから放り出した。
「あだっ!! もう・・なんやねん・・・」
全部あのアレックスのせいだよ、と流斗は心の中でアレックスに責任転嫁する。
ふと周りを見ると、ここはどうやら何処かの丘の上の様だった。
何故そう分かるのかと言えば、今の場所が小高い丘になっており・・・その下には大きな街が見えていたからだった。
(あそこに行けば何か分かるかもしれへんな・・・・)