リレー小説第3部第1話
「あー・・・今日もカンフー疲れたー・・・」
都内の飲料メーカーに商品開発担当で勤務している鈴木流斗。彼は仕事を終え、久々のカンフーの
レッスンに足を運んだ、もうゴールデンウィーク目前の2016年4月27日の帰り道の事だった。
思わずそんなぼやきが出る程和美とのカンフーのトレーニングをしていた彼は、赤いTシャツに黄色いズボンに
着替えて家路につく。 愛車の161アリストも長年乗っているだけあって、自分と同じくボディに
ガタが来ているがまだまだ自分もアリストも現役だ・・と思わざるをえない。
しかしそのアリストに乗って帰宅し、マンションの駐車場にアリストを停めて自分の部屋のドアを開けて
部屋の中へと入る。
「ただい・・・ま・・・?」
目の前に広がるその光景。
玄関脇に置かれている筈の、オークションで競り落としたばかりの中古タイヤやジャンパー、
それからリビングに続くフローリングの床・・・が無い。
その代わりに目の前に広がっていた光景は、何処かの路地裏・・・としか思えない様な場所だった。
「・・・・」
何だこりゃ、と思いながらも後ろを流斗は振り向いて、一旦外に出ようとする。
だがその後ろにあった筈の、今しがた開けて部屋に自分が入って来たばかりだった筈の玄関のドアすら無い。
「・・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・」
待て、これは夢だ。疲れてるんだ俺。
そう思って流斗は、カンフーのレッスンで自分のカンフーの師匠から譲り受けた真剣の青竜刀を抱きかかえて眠る事にした。
これは夢だ、これは夢だ・・・と思いながら目をつぶって石造りの壁に座って寄り掛かる。目が覚めればきっと自分の部屋だ、と思いながら。
だが、それが夢でも何でも無い事をこの後に聞こえて来た誰かの足音で流斗は思い知る事になるのであった。
「あーりゃりゃ?こーんなとこでなーにやってんのかなァ?不審者発見ってやつゥ?」
足音の主は薄ブロンドの短髪に、緑のカチューシャで前髪をあげた、緑色の軍服と思わしき服を身にまとったいかにも軽薄そうな男だった。
男は薄っぺらい笑顔を貼り付けながらへらへらと流斗に近く。と、流斗が抱えている青龍刀に気がつくと、目の色を変えた。
「あんた、もしかして戦えちゃったりしちゃうかんじィ?いいねいいねえ!俺様ちょうど退屈してたんだよ!なあ、相手になってくれよ」
そう言うや否や男は相手の返事など待たずに腰のホルスターに手をかける。
そしてそのまま引き抜き、両手に一丁ずつ拳銃を構え、流斗につきつけた。
「まあ、拒否権はねえけどなァ!」
「うーん・・・専務・・この新商品のアイディアなんですけどぉ・・・」
仕事の夢から逃れられない流斗。
だが・・・何だか妙な気配を目の前に感じて意識が覚醒して行く。
「ん・・・あ、え・・ん・・・・ん!?」
目の前には1人の男が何時の間にか立っていた。しかも、何かを自分に向けているかと思えばそれは・・・。
「えっは、い、あ・・はぇ? お、おお!? な、なん・・あ、え、あれ、いい・・お、こ、ここ俺の部屋・・・え、や、ちょ・・あ、え・・・」
全く持って意味の分からないその光景に飛び起きた流斗はパニック状態に陥る。
目の前に立つ、今年の1月14日で46歳になった自分よりも明らかに若いであろうその男が自分に向けていたもの。
それは紛れも無くハンドガンだった。
とっさに青龍刀を地面に投げ捨ててホールドアップ。
「あ・・アイ、ハブノーマネー!! プリーズヘルプミー!!」
男はそんな流斗の行動に、すっかり拍子抜けしてしまった。
そのまますっと構えた拳銃を下ろし、腰のホルスターに戻す。
与えられたおもちゃに興味を一瞬で無くしてしまった男は、そのままくるりと流斗に背を向け路地裏から出て行く。
「あーあ、せっかくいいおもちゃを見つけたと思ったのになァ…俺様の見込み違いか、チッつまんねーの…」
そう、ぶつぶつ言いながら男は歩き去る。
「こうなったら、あいつらんとこでも行こっかなァー。この国は刺激がなさすぎてつまんねーんだよなァ…それかまた
誰かが異世界から遊びに来るとかしねーかなー」