リレー小説第1話


「おい!何をするんだ!離せ!」

「黙れ。俺等の組織にたてつくとは、セオリー的に考えてこうなることは分かってるっしょ?」

この男は一体何を言っているんだ。フレアは突然置かれた状況を理解できずにいた。

フレアはただ、訪れた街の商店街を仲間とともにうろついていただけだった。

もう少しだけ見て回ってくると駆け出した仲間の帰りを、広場で待っていただけだった。…はずなのだが。

「貴様は何を言っているんだ…?僕はただここで仲間の帰りを待っていただけだ!」


裏組織の警備隊長として活動している京は、任務を終えて組織の本部ビルへと戻る時に以前

取り逃がした男にそっくりな人物を商店街で発見した。

(あいつは確か……)

商店街の広場はこの時間帯は人通りも多く、取り逃がしてしまえば逃げられて見失いやすいので

先手必勝でその男の腕を掴む。すると男はひどく動揺している。だがそんなことで京は騙されない、と

更に黒の革手袋越しに男の腕を強く掴んだ。

「本部まで来てもらおう。いやだと言うなら力ずくだ」


(この男…、ますます何を言っているのかわからない…)

相変わらず男の言葉を理解できないうえに、男に掴まれた腕はギリギリと締め上げられる。

「はあ…だから、僕は関係ないと言っているだろう。人違いだ」

どんどん腕を掴む力を強める男に、フレアはため息混じりに呟く。

「ならその本部とやらに行ってもいいぞ?どうせ人違いなのだから、すぐ帰されるに決まっているからね」


意外に物分りが良い青年に、京は違和感を覚える。

(ん……?)

何だか反応が違うな、と思いつつも、良く見てみると男の格好は現代のそれには似つかわしくないものだ。

赤を基調とした現代っぽくない服に、腰には細身の剣を携えている。

「……1つ聞くが、あんたは何処から来たんだ?」


いきなりの質問に、フレアは少し戸惑いつつも正直に答えた。自分はヴァルクオーレから来たのだと。

そもそもここで嘘をつく必要など無いわけで、正直に答える以外の選択肢は無かったのだが。

(しかし何故今更出身地を…?確かにここは他の国とは違った文化を持つ土地のようだが…)

色々な場所を巡ってきたフレアにとっては異国の文化に触れることはどうということは無いのだが、この地の人間はそうではないのだろう。

だから自分の格好が珍しいのではないか?とフレアは思ったが、男はどうやらそう思ったわけではなさそうだった。


京は考えた。自分は今、とんでもない勘違いをしたのではないかと。

「ヴァルクオーレ? セオリー的にそんな国は存在しないっしょー?」

でもこの男が嘘をついているようには思えない。

嘘をついている人間は少なからず目が泳いだり声が震えたりと何かしらのアクションがあるはずなのだが、この男にはそれが無かった。

そう考えた京は腕を掴む手を緩め、この世界は何と言う世界なのかを聞いてみた。


「…この世界?世界は世界だ。色々な国が集まった世界だよ。ただ、魔竜ネビロスによって一度めちゃくちゃにされてしまったけどね」

フレアは誰もが知っている常識を尋ねてきた男を不審に思いながらも、そう答えた。

確かにこの男はこの世界ではあまり見かけない格好をしているようだが…何故こんな常識を聞いてくるのだろう。

もしかして、自分は何か試されているのだろうか?なんてトンチンカンなことをフレアは考える。

その横で、男が少し動揺しはじめていることにも気付かずに。


自分は今、とんでもない状況になっているのではないか? と京は感じ始めていた。

(まさか……いや、そんな筈は……)

しかしこれは現実だ。今自分は男から手を離したが、手袋越しでもしっかりとその感触が焼きついている。

(まさか、俺が今居るこの商店街って……)

「すまん、どうやら俺の人違いだったみたいだ。それじゃこれで俺はさらばっしょ!」

だがそんな京の手を男が今度は掴み返してきた!!


「ちょっと待ってくれないかい?人違いをして騒いでおきながら、そんな軽い謝罪だけとは頂けないね」

フレアはニッコリと微笑みながら男にそう喋りかける。

別に、土下座して欲しい!じゃないと許さないよ!というわけではない。…ないのだが。

「君に締め上げられた腕、結構痛かったぞ?(ニッコリ)」

フレアは男のせいで地味に痛めた腕の怪我に怒っていただけだった。

「本当にすまなかった、俺の勘違いでとんでもない事をしでかしてしまった。許して欲しいっしょ」

しかしその謝罪で男は許してくれず、怪しい人物と言うことで京はヴァルクオーレの城まではるばる連行されてしまう事に。

後で分かったのだがこの男は、なんとそのヴァルクオーレの王位継承権を持つ紅蓮の王子フレアだった。

そして、自分はいわゆる「異世界」と言うものに来てしまったのだと、これもその城での取調べで京は知る事になってしまうのであった。


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