Outsider fighting Quest第3部第6話


フェレークに警笛で呼ばれた騎士団員達が大塚追撃の為に騒ぎ出しているその頃、

静岡からやって来た大塚はまだまだ一息つけそうには無い状況が続く。

ターゲットである大塚が城の中をメインに逃走を続けているのと、魔力の被害を懸念した城の中の規定で魔力による追撃は無い。

その代わり追撃に加わる騎士団員の数は少し増えて、大塚の後ろから追いかけて来るのがフェレークとファルテレオを含めた4人。

外からの追撃部隊は大塚も詳しくは分からないが、そこまで多くの人数は居ない様に見える。

(俺が外に出ないようにする為の外のブロック要員で、こっちに割ける騎士団の人員の少なさが影響してるのか?)

追っ手が少ないなら少ないでそれは自分のアドバンテージになるので、大塚はもっと数が減る事を願っている。


その大塚は58kgの体重の軽さと168cmと言う、日本にしては小柄な身長と体重を最大限に活かして逃げ続ける。

伊達にキックボクシングで跳躍力の下地を作っていた訳では無い。

「少し」の時間であれば翼が無くても人間は空を飛べる。

大塚はそれを、追撃して来ている王国騎士団員達に思う存分見せつけるかの如くアクロバットに、

そしてスピーディーに城の中を逃げ回る。


「素早い奴だぜ」

「見失うなよ、ファルテレオ!!」

「分かってるって」

息を切らしながらも何とか大塚に追いすがるとフェレークとファルテレオだが、そんな2人がまだついて来ている

今の状況を見て大塚は舌打ちを漏らす。

(まずいな、このままでは振り切れない!!)

いずれ追いつかれて捕まってしまっては全てが台無しになってしまう。

追いかけ回されるのは覚悟の上で大塚はこうして走っているが、絶対に追っ手を振り切ってやると言う覚悟も同時に持っている。

その覚悟が、大塚を追いかけているフェレークとファルテレオのコンビと配下の騎士団員達にボディランゲージで

伝わり始めるのはこの後すぐだった。


今走っているのは3階部分の廊下。

突き当たりの窓が開いているのを発見した大塚は、その前の曲がり角の前から見えた景色からその窓の先に

渡り廊下を挟んで隣の建物の屋上に飛び移れるかも知れない、と考える。

屋根の上から何処に飛び移るか、と言うのを周囲を見渡して瞬時に判断する大塚だが、上手く飛び移れそうな

高さの場所は目の前に1つだけある窓だ。

その代わりかなりの距離がある様で、1階分の高低差を考えると届くか微妙な所だ。

しかしここで立ち止まってしまえば間違い無く捕まる。

大塚は足に力を込めて度胸一発、死ぬ気で開いている窓枠に足を掛けて2度目のフリーダイビングをする為に突っ込んだ!!

「ふんっ!」

掛け声と共に抜群の踏み切りを見せ、空中で少しでも距離を稼ぐべく両腕をグルグルと前後に回して足もバタバタと同じく前後に動かす。

その甲斐があったかどうかは分からないが、踏み切った3階部分から渡り廊下を挟んだ隣の2階建ての建物の屋上へとギリギリで着地。


「飛んだ!?」

「くっ……」

フェレークとファルテレオは勢いが足りずに踏みとどまったが、後ろから追って来ていた騎士団員は勢いをつけてそのままジャンプ。

それを見ていた大塚は、飛び移った先の屋上に干していた洗濯物を掛けている木製の干し竿を手に取って、

ジャンプして来た騎士団員の腹目掛けて突き出す。

「んなああああ……ぐふぇ!?」

竿の先端が騎士団員の腹に食い込み、大塚もその衝撃でたたらを踏む。

空中でストップしてしまった騎士団員はそのまま落下し始め、下にある渡り廊下の屋根に背中から突っ込んで行った。

屋根の上で呻いているのを見ると、どうやらその屋根が上手くクッションになったらしく死んではいない様だ。

それを確認した大塚は一安心したが、まだ一息つける状況では無いので踵を返して再び走り出した。


「くそっ……おい、御前は向こうから回り込め! 俺はあっちからだ!」

ファルテレオがもう1人の走って来た騎士団員にそう大声で指示を飛ばす一方、フェレークは遠くに走り去って行く

大塚の姿を見据えてポツリと呟いた。

「正気の沙汰とは思えんな……」

まさかこれだけの距離を、追われていたとは言え飛び移る事が出来るだけの度胸があるとは……と感心しながら

フェレークも踵を返して再び追跡を開始した。

あの魔力の無い人間がこのまま逃げ切ってしまうとなれば、真面目に騎士団員としての面子が立たなくなってしまうし

3回目の敗北を喫してしまう事になる。


そんなフェレークの心境が一切分からない大塚は、屋上から降りた後にさっさと建物の中へと入る。

この建物は隣の取調室がある建物からも一本道で歩いて来る事が出来るのだが、それは同時に

騎士団員達が目を光らせている区域であるとも言える。

ここが100パーセント安全とも言えないので、人気の無い場所に身を隠して夜になるまで待った方が

良いのかも知れないと考える。

(仕方が無い、こうなれば……)

大塚は1つの賭けに出る為に、建物の中を用心しながら進み始めた。


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