Outsider fighting Quest第3部第5話
「あーあ、何で俺だけこうなっちゃうのかな……」
連行されながらぼやく大塚だが、特にフェレークからのリアクションは無い。
それでも溜め息を吐きながらぼやきを続ける大塚。
そして大きな窓の下にバルコニーが見える廊下に差し掛かった時、大塚は窓の外を見上げて声を上げる。
「あれっ、UFOだっ!!」
大きく声を張り上げてそう言う大塚。
そんな大塚を見たフェレークは鼻で笑う。
「ふっ、俺が何回も同じ手に引っかかる訳が無いだろう」
冷静沈着なフェレークはそれでも動じずに大塚を連行して行くが、大塚にとっては予想済み。
こんなファンタジーな世界にUFOなんて居る訳が無いと内心では大塚も思いつつも、むしろ少しでも
気を逸らす事が出来ればそれで良い。それこそが大塚の真の目的だからだ。
それが分かっただけでもまだチャンスはあると思い、大塚は素直にバルコニー沿いの部屋に造られた会議室に連行される。
そこにはフェレークの他に、ファルテレオが壁に寄りかかって腕組みをして待っていた。
「よーう、来やがったな」
「さて、それでは尋問を始めさせて貰う」
「……何でファルテレオまで居るんだよ?」
「俺はお前が逃げ出さない様にする為の見張り役として連れて来られたんだよ、大塚。
手錠がかかってないからと言って逃げられると思うなよ?」
何処までも用心深い奴だ、と思いながらも大塚は既に頭の中で決意を固めていた。
後ろには丁度良く窓がある。
椅子に座らされる時その窓から下を覗いてみれば、丁度バルコニーの端辺りにこの部屋がある様だと推測出来た。
(やるなら今しか無い!)
逃げられないと思っているのか、大塚の手には手錠が掛けられていない。
それを自分の目でじっくりと1度見てから、大塚は1つ申し出をする。
「なー、その前に御茶位出してくれないか?俺の地元はお茶が有名だからさ、異世界のお茶ってのも飲んでみたいんだよ
「……認めない」
「何故だ?」
静かに、しかし明らかに怒りの色を含んだ声色でNGの意を示すフェレークに対して
大塚が聞いてみれば、当たり前の話をフェレークがし始める。
「御前は犯罪者だぞ、大塚。そんな奴にお客様気分で居て貰っては困るな」
「……そうか。ならこうだな!」
大塚の声が取調室に響いたその瞬間、彼は自分の前にあるテーブルを足で蹴りつけて椅子ごと後ろに転がった。
まさかの行動にフェレークとファルテレオはキョトンとしていたが、先に我に返ったのはこう言う荒事に慣れている傭兵のファルテレオであった。
そんなファルテレオに自分が座っていた椅子を思いっ切り投げつけて怯ませれば、その光景を見ていたフェレークも我に返った。
「貴様っ!?」
「っの野郎……!!」
クリーンヒット……とまではいかないもののそれなりの勢いで椅子を当てる事に成功し、次にフェレークがロングソードを抜く前に
そばに置いてあるもう1つの椅子をフェレークに向かって大塚は投げつけた。
この一連の流れで2人が怯んだ所で、大塚はテーブルの上に置いてある自分の荷物を掴み窓の外に向かって走り出す。
しかし、寸での所でファルテレオにガッチリと手首を掴まれて窓から飛び出そうとするのを阻止された。
「まだ話は済んでないぞ!」
「うるせぇ、こうするしか俺には手が無いだろう!!」
「てめぇ、良い加減にうおっ!?」
以前、アレイレルのドライビングテクニックの弟子同士の兼山信也から習ったカラリパヤット式の手首を掴まれた所から
抜け出す方法を実践してスパッと抜け出し、大塚は窓からバルコニーに向かって斜めにジャンプ。
スタッとギリギリで着地し、バルコニーから下を覗き見る。
(ここは2階部分、中庭は芝生……だったら!!)
迷っている暇は無い。
大塚は決意を固めてジャンプし、空中に向かってフリーダイビングを決行する。
フェレークが窓から身を乗り出して下を見てみれば、そこには下の芝生をクッションにして
上手く受け身を取って着地してから逃げて行く大塚の姿があった。
大きなリスクを承知で、一か八かの賭けに出てそれが成功したのだろう。
「逃がすな、捕まえろ!!」
フェレークがファルテレオに向かって大声で叫び、笛が吹き鳴らされる。
一方の叫ばれたファルテレオは当然、窓から飛び下りて行った大塚を追いかけ始めた。
だが城の敷地内では被害を最小限に抑える為に大規模な魔法の使用は禁止となっている以上、
ファルテレオは下手に手出しが出来ないのもまた事実だった。
一方のフェレークも増援を呼んだ後、大塚追撃部隊に加わる。
「世話の焼ける事をしてくれるものだ……」
大塚の元の世界に帰りたい気持ちも分からないでも無い。
だが、フェレークはこの王国に住まう人間達を始めとした国民達を守るのが職務である。
だからこの王国に対して危害をもたらす様な存在は、例えそれが違う世界からやって来たとされる人間であろうとも許す訳には行かない。
これ以上の揉め事と厄介事を起こせば王国の治安がまた悪化するだろうと考えながら、
フェレークは黒いマントの長い裾を揺らして騎士団本部の廊下を疾走した。
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