Outsider fighting Quest第3部第1話


2018年1月26日。

一昨年の1月、そして去年の2月と年明け早々に大きな事件に巻き込まれてしまったのが、

首都高速新環状線を走っている大塚誠。

40代も中盤に差し掛かろうとしている今年だが、一昨年から毎年大塚はこの場所を通る度に事件に巻き込まれていた。

(……この時期にここ通るの嫌だな……)

そう思っても家へと帰るルートがここが1番近い。それに新年の仕事明けで早々大きな取材が入って、

徹夜続きだった上にようやく今日家に帰る事が出来るのだがその帰りも遅くなった。

若者のバイク離れが叫ばれてもう長いが、それでも何とかこの業界を生き残っているバイク雑誌の編集者である大塚。

そんな大塚も徹夜続きで居眠り運転の危険性があった為、仕方無くパーキングにS2000を停車させて眠る事にした。

(何か前と似た様な展開……今回は何もありません様に……)

そう思いながら眠りに就く大塚を、明るく輝く月が見下ろしていた。

何時もとは違う、真っ赤な月が……。


その頃……異世界シェノトゥルアでは3人のメンバーが集まって談話を交わしていた。

シェノトゥルアで1番栄えている王国騎士団員のフェレーク、傭兵のファルテレオ、そして創作家のミャルマスである。

3人はこの時期になると思い出す「あの男」の事について思い出していた。

「お前達、あの異世界人のことを覚えているか?」

「ああ、大塚のことだろう? あいつのことは嫌でも忘れないさ」

「彼との邂逅は今でも鮮明に覚えているわ。あの後、彼はクリスタルの光に呑まれて消えたけれど……」

「お前にとっては一回目だが、俺等は二回目もあいつを逃がしている……。全く、これじゃあエンレデドレイ騎士団の恥晒しだぜ」

「しかし、二度もこの世界にあいつが来ているのは確かだ。またあいつがこの世界に来てもおかしくないだろう」

「その可能性は有り得るな。その時こそ……あいつを捕まえてみせる。俺のため王国のため、

そしてお前の創作のためにもなるな、ミャルマス」

「ええ、次に彼が現れた時は、全力で捕まえてみせるわ」



「……」

大塚は頭を抱えていた。

何故なら目覚めた自分の身体はS2000のシートの上では無く、見慣れない町の

路地裏に出て来てしまっていたからである。

まさか、この展開は。

大塚は頭を抱えてしゃがみ込んだ。この展開はもう……毎年の恒例行事みたいな事になっているのだろうか。

しかし、こんな恒例行事はもうこれっきりにしたい。

(俺の予想が正しいなら……この町がある世界って……シェノトゥルアとか言う……)

「うおおおおおおあああああああああああ!!」

路地裏に響き渡る大塚の絶叫。しかし誰も来る気配は無い。

叫び終えた大塚はすっくと立ち上がり、一先ず路地からの脱出を目指して歩き出した。第1町人発見の為に。


その頃、エンレデドレイ王国の王都の酒場で話し合っていた3人はそれぞれ仕事に戻る。

フェレークは騎士団の詰め所に戻り、ファルテレオは仕事探しの為に町の張り紙を見に行き、

ミャルマスは創作活動の為に散歩する。

その中で、1番最初に「あの男」の姿を見つけたのは傭兵のファルテレオであった。

「ん? あいつは、まさか……!」


(何か、今までとはまるで違う雰囲気のする町だな……)

まだこの世界がシェノトゥルアだと知らない大塚は、これだけ賑わっていた町並みがシェノトゥルアにあっただろうか? との疑問を隠せなかった。

だがその疑問はすぐに解消される。

誰かにこの世界の名前を聞いたとか、この町の名前を聞いたとかそう言う生易しいものでは無く、物凄く因縁のある相手の登場によって……。

「噂をすれば影がさすとはこのことか。 久しぶりだなぁ、大塚よ」

「……!?」

聞き覚えのある……いや、もう聞きたくなかった筈の声に大塚がバッと振り向くと、そこには筋肉質でガタイの良い黒髪の男が立っている。

裏が水色の黒いマント、黒いブーツに黒い手袋……それは紛れも無く、何回も戦った記憶のあるファルテレオとか言う男だった。

「……な、んで……と言うよりも、あんたが居ると言う事はこの世界はやっぱり……」

「そうだ、お前にとっては最悪かもしれないがこの世界は紛れもなくシェノトゥルアだ。 二度あることは

三度あるとはよくいったものだな、悪いが今度こそは捕まえさせてもらうぞ」


だが、そんな事を言われても大塚は捕まる訳にはいかなかった。

捕まってしまえば最後、どうなるか分かったもんじゃない。

今はとにかく逃げる。

それだけを考えて走り出す大塚だがファルテレオはそれを読んでいたらしく、仲間の傭兵軍団を呼ぶ事の出来る警笛を懐から取り出して吹き鳴らす。

そして警笛に集まって来た傭兵軍団に、大塚のことを少し説明して捕まえる様に指示を出す。


更に、その警笛の音は他の2人の耳にも届いたのであった。

「あの黒い服を着た2色の髪色の男を捕まえてくれ、名前は大塚だ。 奴は素手だが油断はするな、中々の曲者だぞ」

「今の警笛は……一体何があったんだ?」 「とにかく、向かってみましょう……!」

大塚はダッシュで逃げる、逃げる、ひたすら逃げる。

人を掻き分け、突き飛ばし、更には小柄な身体を利用してそのまま狭い路地裏に入り込み、更に逃げる。

土地勘こそ無いものの、身軽さを利用して屋根の上に上がってまた逃げる。こう言う時は自分の小さな身体に感謝していた。

だが、頭の中は感謝している暇も無い程にパニック状態が持続する。

(くっそぉ!! 何でこんな目に遭うんだ俺……何か悪い事したのかよ!?)

何か悪い事したかな……と思ってもまるで記憶に無い。

今はとにかく逃げ続けるだけなのだが、そんな彼に追いすがって来るのはファルテレオ率いる傭兵軍団だけでは無く

エンレデドレイ王国騎士団もだったのだ……。


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