バーチャコップ&タイムクライシス小説 前編
だが、その戦いの一部を上の階から、バーチャコップとVSSEの4人が見ていた。
合流した後、探しに行こうと歩き出した瞬間だった。
下の階から、物凄い破壊音が聞こえてきた。
「…何だ?」
「下か?」
6人が下の階を覗き込んでみると、そこでは正方形状に吹きぬけた、下の階の奥側で、素手で勝負をしている2人の男の姿が。
そのうちの1人を見て、ロバートが「あっ」と声を上げた。
「どうした?」
「あいつだ! 俺が逃がしちまった奴は!」
「何?」
だがここから飛び降りようにも、下の通路は今6人が立っている通路の真下にあるため、飛び降りることが出来ない。
それに銃を構えて警告を発しても、たぶん耳には届かないであろう。
「…とにかく、すぐに下に行ってみよう!」
「ああ!」
(くっ、今度はもう逃がさねぇぜ!)
ロバートはギリッ、と歯軋りをしながら、他の5人と一緒に非常階段を1階分駆け下りる。
そして21階の吹き抜けの通路に達したが、何とさっきの男達の姿が無い。
「き、消えた?」
「いや、下だ!」
キョロキョロと辺りを見回すレイジに対し、キースが下を覗き込んで指を指した。
下の20階は吹き抜けが終わっている。そこでは2人の男の内、ロバートが追っていた2色の髪の男が
もう1人の白髪にオレンジのカッターシャツの男に対して、左のストレートパンチを決めノックアウトさせたところであった。
「うわ、あれは痛いぞ…」
アランがその光景を見て、思わず眉をひそめた。
その2色の髪の男は携帯を取り出す。だが、すぐに携帯をポケットにしまうと座り込んでしまった。
どうやら2人の戦いは終わったようなので、6人は下へと飛び降りて2色の髪の男に銃を向ける。
「動くな! バーチャシティ警察だ!」
「そのまま両手を頭の後ろで組め! 早くしろ!」
突然上から飛び降りてきて、しかもハンドガンを構えている6人の男達に対してその男は、右手に携帯を持ったまま訳がわからないといった表情をする。
「な、何? え?」
しかし、その男がレイジとスマーティと顔をあわせた瞬間、更なる驚きの表情を浮かべた。
「あれ? もしかしてあんたら、レイジとスマーティ…か?」
「……木下…!?」
そう、この男こそ探していたうちの1人、木下であった。
どういうわけでこんな状況になったのかは知らないが、とりあえず警戒の糸は緩めずに、
木下には銃口を向けたまま、倒れこんだ男の顔を見る6人。
が、今度はVSSEの4人のうち、キースとロバートの顔が驚きの表情を表した。
「なぁ、こいつは…西山じゃないか!?」
「…本当だ!」
「知り合い…なのか?」
レイジ、スマーティ、アラン、ウェズリー、木下は訳が分からない状況だ。
「…とりあえず、1から10までお互いに、状況を再度整理して、説明する必要がありそうだな」
という訳で、先ほど自分達が出会った倉庫へと逆戻りになった、木下と意識を取り戻した西山。
木下と西山、バーチャコップコンビ、VSSEカルテットで、お互いにどういう関係があるのかを1から10まで自己紹介と説明。
「…わかった。木下卓真に、西山貴之だな」
「よろしく、レイジ、スマーティ」
「VSSEの人達も、俺は耳が聞こえないけど、カバーよろしくお願いします」
「わかった。無理はするなよ」
その後、部屋から出るときに、西山と木下はこんなことをポツリと呟いたという。
「…誤解とはいえ、タイマン勝負を吹っかけて、正直すまなかった。勘違いって、恐ろしいな……」
「……ああ、俺も悪かったよ、西山……」
「見つかった!?」
倉庫で待機していたジョルジョとエヴァン、そして日本人メンバーに木下と西山が見つかったという報告が入った。
「…わかった。なら、その2人はこっちに来てくれるんだな?」
ジョルジョはそれだけ言って通信を切る。エヴァンも安堵の表情を浮かべた。
「ふぃ〜! これでまずは、1つの問題が解決だな、オッサン!」
「ああ。だが、引き続きあんたらの見張りは続けさせてもらうぞ。…こう言う事言うのは何だが、あんたらの内誰かが、
取引連中と繋がっているという可能性も否定できない」
「なっ…」
そのジョルジョの言葉に、思わずカッとなりかけた直樹。だが、それを止めたのは隆だった。
「そう熱くなるな。この人の言うことも一理あるっちゃ、あるぜ」
「でもよ…」
「疑いが晴れれば、それで全て解決だと思うんだが…」
「う…」
隆の言葉に落ち着きを取り戻したのか、直樹は黙り込んでしまった。
そんな直樹に対し、ジョルジョが声をかける。
「…疑っているのは正直、すまない。…だが、あんたら4人のことは完全に信用できていないんだ。どうか許して欲しい」
「分かったよ…」
すると、今度は慎太郎がこんな質問をぶつけてみる。
「…そういえば、さっきからずっと思っていたんだけど、聞いてくれるか?」
「何だ?」
「こう言う展開ってさ、よくハリウッド映画とかでは普通、敵は逃走する為に屋上にヘリとか呼んだりすると思うんだけど、
このビルは大丈夫なのかなって思って」
それを聞き、由紀も賛同する。
「それは私も思ったわ。ビルの中を刑事が1人でさ迷い歩いて、敵を殲滅させる映画とか、そういうのは例外だったとしても、
お決まりの展開にはならないのかと、不思議に思っていたわ」
その2人の問いに対し、答えたのはエヴァンだ。
「たぶん、ヘリを着地させることは無理だと思うぜ?」
「何で?」
「屋上、屋上言ってるけど、そもそも屋上が無いんだよ、このビルは。このビルの屋根はドーム状になっているんだぜ。
屋上に上る事何ざ、出来やしないさ」
そのエヴァンの見解に、日本人メンバー4人は感心したようにうんうんと頷く。
「ああ〜、なるほどね」
そしてジョルジョは目を丸くしている。
「…お前、今日は本当にどうした? 何か変なものでも食べたか?」
「へっへー! な訳ねーだろって! 俺だって見えないところで戦術とか、結構勉強しているんだぜ!」
そんな掛け合いが続き、5分が経過した頃か。
部屋のドアをノックする音が聞こえてきて、続けざまに声が聞こえてきた。
「…誰だ?」
「俺だよ。スマーティだ。アランも一緒に居る。西山と木下を連れて来たぞ」
一応用心のために、ジョルジョとエヴァンはグリップを握り締めてドアを開ける。扉の向こうにいたのは宣言どおりの人物達であった。
「…何だよ、緊張していたのか?」
「いや、用心のためにな」
「ああ、なるほどな。よし、ならあんたらは、ここで待っていてくれ。不用意に行動すると危ないからな。
ジョルジョとエヴァンは引き続き、見張りと護衛を頼むぞ」
「了解した」
スマーティとアランが下へと行ったのを見て、ジョルジョがドアと鍵を閉めて日本人メンバーを振り返る。
「あんたらが木下と、西山だな?」
「ああ、そうだ。VSSEのジョルジョと、エヴァンって人でいいのか?」
「当ったり〜! 俺がエヴァン、このオッサンがジョルジョだぜ!」
そしてついに、日本人メンバーが6人全員合流することに成功した。
「西山! 無事でよかった!」
「木下君…!」
感動(?) の再会をする6人。後はレイジやキース達が、上手くやってくれるかどうかである。
そのレイジやキース達は、20階から下で銃撃戦を繰り広げていた。使う武器は違えども、お互いのコンビネーションは抜群だ。
しかし下に行くにつれ、敵の攻撃もものすごくなってくる。
「くっ、きついな!」
「そっちも気をつけろよ!」
お互いに励ましあい、気力を削がない様に踏ん張るのだ。戦場の中ではこういった、小さな思いやりが心の支えになったりもする。
しかし、VSSEのメンバーには気がかりなことがあった。それは「奴ら」が今回かかわっているのか? と言うこと。
VSSEにとって宿敵の「奴ら」は、事件への関与に関してはどうなのだろうか。
(奴は関与しているのか?)
ウェズリーが内心、もう定番だとばかりに呟いた。VSSEが関与する事件の裏には必ず、「奴ら」の姿ありだ。
果たして今回は、どこで戦うのかが気がかりだ。
ここから先、どんどん下へと逃げていく犯罪組織のメンバーを追っていく。ローカルポリスの突入班も、下のほうからこっちに合流するために向かっているはずだ。
最初に銃撃戦を始めたときに、既にバーチャコップはローカルポリスに連絡を入れておいた。
後は本署が何とかしてくれるであろう。自分達だけではさすがに人手不足だ。
「ローカルポリスの突入班は、現在10階まで到達しました。ビルの職員やテナントの人々の避難も進めています。
そのまま下へと犯人グループを追い込み、挟み撃ちにしてください」
ジャネットからの通信が6人に入り、6人は下へ向かって突き進む。
「よし、後もうちょっとだ。気を引き締めて行けよ!」
レイジが5人に対して元気をつけ、それに応える5人。物語はクライマックスへと突き進んでいく。
その情報は、倉庫で待機しているジョルジョとエヴァン、日本人グループにも届いていた。
「もう少しでこの事件も、幕を下ろしそうなんだってよ。やったな!」
「本当!? 良かった…!」
エヴァンの言葉に、由紀達が安堵の表情を浮かべて笑い合う。しかし、そんな中で西山とジョルジョ、そして隆が複雑な表情を浮かべている。
「……」
「どーしたんだよオッサン! これでやっと帰れるんだぜ?」
「……何だか…おかしい」
「え? どういう意味だよオッサン?」
ジョルジョの言葉に、エヴァンが疑問をぶつける。それに対して木下にもわかるように、日本人グループの方を向いて話すジョルジョ。
「下へ下へと大勢逃げているってことは、わざわざ撃ち合いしに行くようなもんだろう? 逃げるだけだったら、一般人の振りをして逃げれば良いだけだ」
そのジョルジョの言葉に続けたのは隆であった。
「ああ、確かにそうだな…。一般人に変装した服装をしている奴らは、難なく逃げられるはずだからな。
「わー」とか、「きゃー」とか、「Don't shoot me!」って悲鳴上げてパニックになっているフリすれば、警官達は騙せるし、
取引した物資は大勢の組織なら、分けて運ぶ事だって出来るはずだし」
そして最後に西山がまとめてみる。
「そうそう…俺らみたいな服装だったら、ズボンのポケットやジャケットの内ポケットに入れれば麻薬は運び出せる。
例えば、そうして逃げた奴らは地下駐車場へ行き、騒ぎを尻目に車のトランクとかに、大量に物資を詰め込んで逃げたりとかな」
その3人の言葉に、木下が震える声で反応した。
「つ、つまり…銃撃戦に駆りだされた奴らは、使い捨てってことなのか?」
「そういうことに…なっちまうかもな」
くそっ、とエヴァンが舌打ちをする。もしそうだとしたら、このまま犯人グループを逃がしてしまう可能性も出てきてしまったわけだ。
「…とにかく、連絡を入れたほうがよくないか?」
直樹の提案に、ジョルジョはインカムのスイッチを入れた。
「……というわけだが、俺らも調べに行く。それと平行して、この人達も逃がそうと思う」
「その前に…身体検査だけはさせてもらうがな」
「わかった」
と言うわけで、犯罪組織の仲間で無いことを証明するために、怪しいものを持っていないか服を脱がせて
身体検査と手荷物検査が行われることになった。
が、やはり女の身体を男連中の前でむやみに明かすわけには行かないため、男連中はジョルジョが由紀の
身体検査をしている間、後ろを向いててもらうことに。
「この緊急事態だからな、男も女も言ってられない。我慢してくれ」
「はい、それはわかってます」
検査の結果、由紀はクリア。続いて直樹、隆、慎太郎もクリア。残るは西山と木下だ。
と、西山の大き目のバッグからはこんなものが出てきた。
「…何だこれ?」
白い、ごわごわした素材の服。それから筆記用具に財布。
「ああ、それ? 柔道着」
「…日本生まれのスポーツか。俺の国じゃ凄く人気だな」
エヴァンが感心したように、西山の柔道着をしげしげと眺める。フランスでは日本を凌ぐほど柔道が普及しており、
競技人口は56万人を数え(日本は21万人)、世界最大規模である。その実力もかなりのものである。
「確かにオリンピックでも、よくフランスの柔道家が活躍しているしな」
木下のスポーツバッグからはこんなものが。
「パンフレット…でも、旅行用じゃないみたいだな」
「あ、それはな…ああっ!」
何かを思い出したのか、突然大声を上げる木下。その声に全員が注目する。
「ど、どうした?」
「今夜のD1…間に合うかな」
D1グランプリのアメリカシリーズに参加する、と言う当初の1番の目標をすっかり忘れていたのと、
こんな大事件にここまで深く関わってしまった以上、事情聴取が待っているんだろうなぁ、と2重の意味で木下はマジで落ち込んでいる。
それを見た由紀が一言。
「ま、まぁ、シリーズ戦なんだからさ、間に合わなくても次来た時に参加すれば良いでしょ。今は身の安全が最優先だと思うわ」
「…そう…だな…」
がっくりとうなだれつつも、木下は肯定の言葉で返したのであった。
ジョルジョとエヴァンは木下達を連れて、非常階段での脱出を試みる。
下へ下へと降りるのだが、犯罪組織の連中はもう、始末してくれているので大丈夫そうだ。
それでも用心に越したことは無いので、1つ1つ角を曲がる前にしっかり敵がいないかチェックするVSSEの2人。
「よし…いいぞ」
焦って急ぎすぎてしまうと、敵に見つかるリスクが大きくなるだけだ。緊急事態だからと言って慌ててはいけない。
かといって、落ち着きすぎるのもまた問題だが…。
それでも、やはりまだ残党と言うのは居る訳で。
「…! 待て、奴らだ」
「ああ、たぶん足止めだろうな。どーするオッサン?」
「決まっているだろう。倒すんだ」
「そー来るだろうと思ったぜ! あんたら、血が嫌だったら向こう向いてろよ」
「あ、ああ」
ジョルジョとエヴァンが敵を迎撃し、木下達は撃ち合いを見ないように目を伏せておく。
「よし良いぞ。行こう」
「ああ。でも、エレベーター動かしたほうが…」
そんな慎太郎の提案に、直樹が首を横に振った。
「いや、途中で止められたらアウトだろう。災害のときと同じだ」
「そ、そうだな」
木下達はなるべく撃たれた男達を見ないようにして、非常階段へと急ぐのであった。
道中組織の連中と遭遇しつつも、何とか地下駐車場までたどり着いた6人。
VSSEの2人、木下、直樹、西山はケロッとしているが、隆、慎太郎、由紀は息切れしている。
「はぁ…はぁ…今日これで何度目だろ、こんなに歩いたの?」
「2度目…じゃね…?」
「そうだ…な…」
ジョルジョはここで、レイジ達に通信を入れてみる。
「こちらジョルジョ、そっちはどうだ?」
「こっちはまだ銃撃戦が続いてる! そっちは!?」
「地下駐車場まで来たところだ。後どのくらいかかりそうだ?」
「何とか挟み撃ちにはしたんだが、攻撃がすさまじすぎる! VSSEも俺らも苦戦しているぞ!」
「…わかった!」
レイジとの通信を切ったジョルジョが、深刻な顔をして振り返った。
「応援が今すぐ必要らしい。あんたらは車で来ているのか?」
「いや、私達はバスだけど…」
「俺らは3人とも車だな」
「そうか。なら、そこまで案内してくれ」
と言うわけでD3の3人と木下達のグループは、D3の車の元へと移動させられた。
「マークKと…セリカ?」
「かなりのハイチューンだな」
「金かかってそうだな」
D3の車を見た木下達3人は、それぞれ口々に感想を漏らしていた。
それを見ていたジョルジョが、6人に対して質問。
「お互いのケータイ番号は知ってるのか?」
「いいや。さっきも言ったけど俺ら、面識無いし」
「そうか…ならとりあえず、ここから出たほうが良いな」
ジョルジョは冷静に指示を出す。
「この地下駐車場内には、奴らの仲間がいる可能性大だ。だから早急にここから脱出してくれ。6人全員で固まって脱出するんだ」
「俺もオッサンの意見に賛成だな。あんたらは一般人なんだから、奴らには俺らの仲間だとばれずに通過できるはずだぜ」
「わかった。色々ありがとうな」
「…礼には及ばないさ」
木下の言葉に、エヴァンは気障(キザ)っぽくそう言って見せた。