バーチャコップ&タイムクライシス小説第5話(最終話)
直樹のJZX81マークKには由紀、慎太郎のJZX90マークKには隆、西山のMA60セリカには木下が乗り込む。
その3台のチューンドカーが入口へと消えて行ったあと、ジョルジョがプッ、と噴出した。
普段の彼はこんな表情を滅多にしないはずだ。
「…何だよ、オッサン」
「いや、お前があんな気障なセリフを言うとはな…くくっ」
「わ、悪いかよ!」
「いーや、男優賞ものの演技だったぞ」
「……」
エヴァンは何だか馬鹿にされてるような、いたたまれないような気持ちになるのであった。
その後、ジョルジョとエヴァンの2人は再度ビルの中へと戻り、他のメンバーと合流した。
「ジョルジョさんとエヴァンさんが合流したようね」
「らしいな。ジャネットもあと少しだ、頑張ってくれ」
「もちろんよ」
スマーティがジャネットに労(ねぎら)いの言葉を掛け、最後の戦いが始まった。
ローカルポリスは地下駐車場を含めた、全ての客の出入り口を封鎖しているため、下の連中もじき逮捕されるであろう。
1人1人確実に、バーチャコップとVSSE達がしとめていく。もう少しでこの戦いも終わるのだ。
そしてついに…!
「…これで…全員か?」
最後の1人を倒し、この戦いに終止符が打たれた。
「お疲れ様。それで全員ね。後はローカルポリスに任せて、帰還して…」
「ちょっと待て」
ジャネットの言葉をさえぎり、ロバートが何か腑に落ちないと言う表情をしている。
その表情を見ると、スマーティも何だか考え込む。
「…」
「おい…どうした?」
「主犯は一体どいつなんだ?」
そういえば、同じような奴らは何人も倒してきたのに、主犯らしき奴の姿が無い。
そしてそれに追い討ちを掛けるかのように、ウェズリーがポツリと呟く。
「まさか…!」
続けてアラン、エヴァン、ジョルジョ、キース、レイジもはっとした顔になった。
その10分ほど前、広い地下駐車場内には、出口へと向かう3台のトヨタのマシンがあった。
「低速トルクが全然無いな」
「ああ。首都高用のセットアップなんだ。低速ギアなんてあまり使わないさ。ところでD1に出るのか?」
先にしゃべりかけてきた木下に対し、西山が質問した。
「ん? ああ。でもこの状況じゃきついだろうな。いろいろ事情聴取とかありそうだし」
「確かにな。…まぁ、災難だったな」
しかしそんな会話をしていた西山と木下のセリカの前に、1台のワンボックスカーが飛び出てきた。
「うわ!?」
とっさにブレーキを踏み込みワンボックスを回避する西山。後ろの2台も急停止。
「な、何だよあいつ?」
「あっぶねぇなぁ!」
「ちゃんと周り見てるのかしら?」
「全くだな」
後ろのマークK2台の搭乗者も、不満と驚きの声を漏らした。
しかしそこから出てきたのは、何と現代には似つかわしい、剣を持った男であった。
「な、何だ?」
それも3人。三つ子…とはまた違うようである。3人とも片手剣を持ち、もう片方の手にはアタッシュケース。
そして格好なのだが、1人は白のTシャツにジーンズ、1人は灰色のシングルスーツ、
最後の1人は中世ギリシャの物語に出てきそうな、甲冑を着込んでいる。
その3人は剣を振りかざし、甲冑の奴が西山のセリカへ、スーツの奴が慎太郎のマークKへ、シャツとジーンズの奴は直樹のマークKへ向かう。
「っ!? バックバック!!」
あわてて3台はバックするが、この大きなボディはあまり旋回性能が良く無い。
バックなんてせいぜい使うのは車庫入れくらいのものだ。
しかもやたら動きが速いこの3人。
分散して3台ともバックで逃げているとはいえ、狭い地下駐車場では逃げ切れなさそうだ。
そしてついに、慎太郎のマークKのボンネットが斬りつけられた。
「うわ!? な、なんてことを!」
更に直樹のマークKは助手席のドアを、西山のセリカはフロントバンパーに傷を付けられた。
「これじゃ埒が明かないな…」
バーチャコップとVSSEは上で戦っているはずだ。何とか時間を稼ぎたいが、このままでは車どころか、自分達もいつか斬られてしまう。
少し直線部分で剣士を引き離した西山は、サイドブレーキを引きエンジンを切ってセリカから降りた。
続けて木下も。更には慎太郎と直樹、隆と由紀も。
別々の場所で、3つのバトルが同時に開始された。由紀&直樹vsシャツとジーンズ、隆&慎太郎vsスーツ、木下&西山vs甲冑。
まずは由紀&直樹vsシャツとジーンズの戦いから。
とりあえずこいつをどうにかしないと先へ進めないわけだが、素手で剣に立ち向かうとか、まず素人だと120%無理。まともに近づくことすらできない。
直樹は柔道、由紀は木下から習っていた空手で応戦。しかし2vs1でもやはりリーチの差は大きい。
「うわ!」
「くっ…!」
素早い剣術で襲いかかってくるシャツとジーンズ。とんでもなく危なっかしい。
このままだとやられる。なら、人数で有利な分一気にけりをつける。
由紀と直樹は作戦を立てて行動することに。まずは由紀が疲れた振りをして座り込む。するとシャツとジーンズは油断をして、直樹のほうに気が向く。
(ちっ、1対1か!)
完全に由紀に気が向かなくなるまで、自分の方にシャツとジーンズの気を向かせる直樹。
(もう少し…相手も相当の場数を踏んできているだろうから、焦らず冷静に…!)
そして完全に由紀に対し、背中を向けたシャツとジーンズの身体が由紀の瞳に映った時だった。
由紀が後ろからシャツとジーンズの腋(わき)に手を入れる。
「なっ!?」
「かかったわね…! 私はまだ全然平気なのよ!」
そして気を取られたところに、シャツとジーンズの顔面めがけ直樹がドロップキック。由紀は顔だけ下に向けて回避。
「ぐわ!?」
シャツとジーンズはそのキックをもろに受け、気絶してしまった。
「「はぁ、はぁ、はぁ…」」
2人とも疲労困憊になり、やっと戦いから開放されたと言う安堵感に包まれるのであった。
隆&慎太郎vsスーツの戦いは、意外にも互角。ス−ツの剣の腕は悪くはない。しかし2人も粘る。
反射神経と動体視力を駆使し、何とか攻撃を避けては打撃や蹴りで応戦。
(まだ死にたくは無いからな!)
(マークKに傷つけた分、たっぷりお返しさせてもらうぜ!)
本当は慎太郎も剣が欲しかったのだが、代用できそうなものが見当たらないので素手で応戦。
スーツが大きく剣を振りかぶってきたのを見て、隆はジャンプ、慎太郎はしゃがんで回避。
次に切り返してくる前に、隆が腹に思いっきり蹴りを入れる。
しかしこのままではいつか限界が来る。上の様子も気になる。ならばこいつをさっさと倒す!
慎太郎はしゃがんだときに手元に当たった、やや大きめの石を力いっぱいスーツに投げる。
「おっと…ん!?」
スーツは難なくかわすが、そこに一瞬の隙が生まれる。隆が間髪いれずにそれを衝き、スーツの懐に飛び込む。
「そこだ!」
スーツは隆を振りほどこうとするが、そこに慎太郎がもう1個石を投げつける。
その石は綺麗…とまではいかないものの、そこそこの威力でスーツの側頭部に命中。
「ぐ!?」
「もらった!」
スーツの男が着ているジャケットの後ろに手をねじ込んだ隆は、しっかりとそこをつかみ男の身体を固定したままボディブローを連続で入れる。
続けざまに顔面に1発入れ、最後に思いっきり顔の逆側からアッパーを決めてフィニッシュ!
スーツはきりもみ回転をしながら吹き飛び、地面に強く叩きつけられた。
「ぐう…あ…!」
「よし、行こう!」
「ああ!」
気絶したスーツを尻目に、2人は駐車場入り口へと駆け出して行った。
残るは木下&西山vs甲冑のバトル。こっちも互角だ。しかもレベルが違う。隆&慎太郎vsスーツのバトルに比べれば、その差が歴然。
甲冑はシャツとジーンズと同じくらいの素早い剣さばきを見せ、なおかつ威力もある。
これは手強い。甲冑の重さを微塵も感じさせないのだ。
だが木下も、武術家として負けられない。数多くの空手のタイマン勝負で培った技術とプライドがある。
素早さでも、パワーでも甲冑に引けを取っていない。
一呼吸置いて甲冑に向かっていく木下。剣が振り下ろされる…前に素早く腹にミドルキック。よろけたところに小ジャンプからの膝蹴り。
しかし甲冑もすぐに立て直し、木下の腕を切りつけた。
「くっ…!」
「はっ!」
間髪入れずにジャンプして斬りつけてくる甲冑。だが、それをとっさに転がって回避した木下の横から、
西山が素早くジャンプ斬りを空ぶった甲冑の後ろに回り込んだ!
「何!?」
「隙だらけ!」
振り向きかけた甲冑の右腕を、西山は回し蹴りで蹴り飛ばし、剣を甲冑の手から落とす。
そのまま懐に素早く飛び込んで腹にストレートパンチを3発入れ、最後に思いっきり一本背負いを決めてフィニッシュ!
「ぬおっ…!」
木下は剣を拾い上げ、柄の部分を逆手に持って甲冑に投げつける。刺さったのは甲冑の顔面……ではなく、そのすぐ横だった。
「俺は武器は使わない。素手だからと言って、なめてもらっちゃ困るぜ!」
「悪いな! あばよ!」
甲冑の目の前まで行き、首にチョップを入れて気絶させ、木下と西山はその場を立ち去った。
「あいつら…無事か!?」
「だといいがな!」
地下駐車場へとたどり着いたバーチャコップとVSSE達は、そこで驚くべきものを見る。
気絶した剣を持ったシャツとジーンズの男。更に同じように気絶している、同じく剣を持ったスーツの男ともう1人…甲冑の男。
そして入り口では、疲れた様子の木下と西山達がローカルポリスの保護を受けていた。
「どうした? 何があった?」
「いやあの…とりあえず、今はゆっくり休ませて欲しいんだ。色々疲れちゃったから…」
ウェズリーの問いかけに、慎太郎が疲れきった様子で答えた。
そしてバーチャコップ達は、その後の調べで主犯と判明したあの3人の剣士を確保。VSSEも証拠を手に入れ帰還し、これで一件落着となった。
一方の木下達は、取調べが終わった後急いでD1の会場まで、D3の3人に送ってもらった。
サーキットの駐車場をコースに改造して、ドリフトの大会が行われる。
しかし…。
「終わりましたよ? もう。どこに行っていたのかは知りませんが…」
会場の後片付けをしていた係員は、あきれ返った様子でそう3人に伝えた。
予想していたこととは言えども、現実として目の前に突きつけられるとかなりショックだ。
せっかく高い旅費と車の空輸代を支払って、はるばるアメリカまで来た結果が事件に巻き込まれた挙句の不戦敗である。
「終わった…いろんな意味で…」
「仕方ないわ…今回はあきらめましょ」
「ああ…そうだな」
ポツン、と会場だった駐車場に取り残されたインプレッサ、フェアレディZ、ステージアの前で、それぞれのドライバーががっくりとうなだれた。
日本に帰ればまたそれぞれ仕事がある。
このまま悪い思い出しかないまま、帰るしかなさそうだ。
だがそんな3人を見ていた、西山達D3のメンバーが木下達に対して声をかけた。
「あ、あのさ。日本に帰ったら今度、富士スピードウェイのドリフトコースにでも行こうぜ」
「え?」
「まぁ、走れないのは仕方が無かったがな。……これ、俺らのケータイの番号と木下用にアドレスだ。今度、6人でMSCチャレンジにでも出よう」
「…いいのか?」
木下のその言葉に、D3の3人はこくりと頷いた。
「そうか…ありがとな。あんたらはもう帰るのか?」
「ああ。そっちもか?」
「ここにもう、用はなくなったしな。飛行機も予約してあるから」
「そうか。なら、行くか」
6人はそれぞれ自分の車に乗り込み、空港へ向けて出発した。
D1で走れなかったのは残念だったが、代わりに良い仲間が出来た。
そしてもう、この6人はよっぽどのことが無い限り、海外へ行くのはやめよう…とも思うのであった。
挿入歌:Full Metal Cars/Daniel
完