バーチャコップ&タイムクライシス小説第3話


「え…? ってことは何、敵じゃないの?」

つんつん頭の男がきょとん、とした顔で、スマーティと2人組の顔を見比べる。

「そうみたいだな。銃を向けたことをお詫びする」

「いや…こっちもすまなかったな。俺がアラン。この金髪がウェズリー」

茶髪のグラサン男が自分を指差し、続いてその隣の金髪男を指差した。

「ジョルジョは俺だ。で、このつんつん頭がエヴァンだ」

渋めの男がジョルジョ、つんつん頭の青年がエヴァンというらしい。

「俺はキース・マーティンだ。よろしく」

1番顔にシワがある金髪男が、キースと言う名前の様だ。


5人組の自己紹介が終わり、続いてはレイジとスマーティの番。

「バーチャシティ警察、第2分署特捜課所属、マイク・ハーディ刑事だ。よろしく」

「同じく特捜課所属のジミー・クールスだ。スマーティって署内では呼ばれてる。

こいつはレイジって呼ばれてるよ」

「ああ、よろしく」

一応VSSEメンバーを代表し、ウェズリーがそれに応えた。


お互い自己紹介が終わり、いまだに激突して悶絶している4人の方を向く7人。

「よし、もう逃げられないぜ? …立てるか?」

スマーティがやや心配そうに声をかけると、壁に手をつきつつも起き上がる4人。

だが、その起き上がってきた4人の顔を見た瞬間に周りの空気が変わった。

「由紀…? 上原…?」

「し、慎太郎?」

「あんたもしかして、直樹じゃないか?」


「………え?」

「…いって〜……」

「は、鼻打った…うぅ」

「何これひどい……あれ?」

起き上がってきた4人も、バーチャコップとVSSEメンバーの顔を

見た途端、その顔にそれぞれ驚愕の表情を浮かべる。

「あ…あんたら…レイジとスマーティだっけ?」

「ジョルジョ! エヴァン!?」

「アラン、ウェズリー…」

「え? 顔見知り…なの?」


その後、ここで止まっていてはまずい、ということで近くの倉庫へと飛び込む11人。

「よし、ここでひとまず、現状確認をしよう。あんたらは全員、東洋人だな?」

ウェズリーが4人に向かってなるべく穏やかに話しかけ、由紀がそれに答える。

「え、ええ。日本人よ。でも、私とこの…隆君は知り合いだけど、このお2人さんは知らないわ」

その言葉に、今度は直樹が口を開いた。

「俺らも…知らないな。俺とこの慎太郎は長い付き合いだが。

…ってか今俺らが知りたいのは、このビルの中で何が起こっているかということなんだ」

「ああ、そうだな」

スマーティが気を落ち着かせ、言葉を選んで4人に説明する。


「また…私達、事件に巻き込まれちゃったって訳?」

全てをVSSEとバーチャコップから聞いた4人。そんな4人の内、最初に声を出したのは由紀であった。

「そう…らしいな」

隆もがっくりとうなだれた。そんな隆の様子を見て、アランが今までの経緯をまとめてみる。

「ともかく、いろいろ勘違いがあったらしいな。…そういえば、あんたらの名前をまだ

聞いていなかったな。慎太郎は知っているが…」

「…わかった」

4人はそれぞれ自分のフルネームと、VSSE、バーチャコップ、それから一緒にいた奴と

お互いにどういった関係があるのかを手短に説明。あまりもたもたしてはいられないからだ。

ここでいつまでもじっとしていると、犯人達に逃げられてしまう可能性がある。


そして慎太郎はレイジに対して、勘違いとはいえ顔面にパンチをしてしまったことを土下座して謝罪した。

「ブタ箱に放り込まれても良い。すまなかった!」

「…別にもう、俺は気にしてはいないが…でも、痛かったな」

その時、ニヤリとレイジの顔に不適な笑みが浮かんでいた。スマーティ曰く、こういったレイジの顔は珍しいことだと言う。


4人の自己紹介が終わり、エヴァンが軽く頷く。

「なるほどねぇ。だったら、ロバートと合流するのもそうだが、まずはここから脱出しないとな」

「…お前にしては、珍しく良い意見だな」

ジョルジョが目を丸くして、エヴァンの言葉に感想を述べる。その言葉に子供のようにエヴァンは反論。

「なっ、俺が普段、良い意見を言っていないとでもいうのか、オッサン!?」

「ああ、だが、成長したな」

「たりめーだよバッキャローッ!」


そんなジョルジョとエヴァンの様子を見て、隆が一言。

「VSSEって、2人一組なのか?」

「基本的にはな。俺とウェズリー、ジョルジョとエヴァンでコンビを組んでいるんだ」

「ふーん…それにしては、仲が良いのか、悪いのかよく分からないな」

「「何?」」

「ほら、今は息ピッタリだ」

「「……」」

何だか、ジョルジョとエヴァンの2人は、隆におちょくられているような感じが胸をよぎった。


「よし、ならここでこの4人の見張りと護衛を、誰かがしなければいけないな。

グループを2つに分けたほうがいいと思うんだが」

レイジが他の10人に向かって口を開く。

「そうか。なら、そちらの刑事さんの2人に案内役を頼みたい」

ウェズリーの言葉に、スマーティが名乗りを上げた。

「よし、俺が案内する。そっちは誰が行くんだ?」

「俺とエヴァンが残る」

「わかった」

由紀達はここで休ませておいたほうが、被害が少なくてすみそうだ。


その様子を見ていた直樹が、さっきの隆と同じように質問してみる。

「なぁ、1つだけ聞いていいかな。もしかして、あんたらはコンビ組んでるのか?」

「? …そうだが」

「ああ…そうか。…いや、2人は相当長い付き合いに見えたもんで、つい、な」


その直樹の言葉に、スマーティは軽く頷いた。

「そうか。人を観察する目があるんだな」

「…一応、これでも税理士だし」

「なるほどな。それじゃ、行くとするか。後は頼むぞ、ジョルジョ、エヴァン」

「任せておけ」

ジョルジョの言葉を聞き、レイジ、スマーティ、アラン、ウェズリー、キースの5人が部屋を出ようとする。


しかし、ふとレイジが歩みを止めた。

「……」

「どうした、レイジ?」

「いや、さっき自己紹介してもらった時から、引っかかっていたことがあったんだが…慎太郎と直樹は「D3」のメンバーだと言ったな?」

「ああ」

スマーティの返事を聞いたレイジは、慎太郎と直樹に視線を向けた。

「まさかとは思うが、D3というからには3人組……もう1人がここに来ているなんてことは」


が、レイジが全てを言い切る前に、直樹と慎太郎の表情に驚きの表情が浮かぶ。

それを見たレイジは、嫌な予感が的中してしまった、と苦虫を噛み潰したような顔になった。

「いる…んだな?」

「うーわ、あいつのこと、すっかり忘れていた! メンバー失格だよ!」


しかし、その表情は隆と由紀にも出ていた。

「そういえば、木下君は…?」

「そっちもか!?」

アランとウェズリーもこれには驚きだ。

「しまった〜…」


木下という名前を聞き、レイジとスマーティの顔に更なる驚きが表れる。

「木下ってまさか…耳が聞こえない…」

「そうだ、そのまさかでそいつだよ。木下も世話になったとか言ってたな…。逃げている時にはぐれたもんな、そういえば」


とにかく、今やるべきことをスマーティ、ウェズリー、ジョルジョでまとめる。

「そのロバートというエージェントとまずは合流だな。それで、ここにあんたらは残る」

「ああ。俺とエヴァンで見張りだ」

「そして、そのD3の最後のメンバーと、木下という男を捜す。そして取引を阻止する。この4つだな」

また面倒ごとが増えてしまった。

やるべきことを全て確認し、レイジ、スマーティ、アラン、ウェズリー、キースは倉庫から飛び出していった。




「ロバート、今どこにいる?」

キースがマイクを通じて、イヤホンの向こうのロバートに話しかける。

「俺は今、22階にいる。そっちは?」

「その2階上の24階だ。状況はどうだ?」


するとその言葉にロバートから、切羽詰った声が聞こえてきた。

「すまない…こっちは1人、怪しい奴を追っていたんだが、逃がしちまった」

「そうか…格好は思い出せるか?」

「茶色のジャケットを着ていたな。それから、髪の色が派手な奴だった。顔はわからなかった」

「そうか。なら、すぐにそっちへ向かう」

「了解」


通信を切り、アランとウェズリーとキースはレイジとスマーティに、2階下へ行こうと指示。

それを聞いたスマーティがビルの説明を始める。

「わかった。確かこのビルは、20階から28階までがホテルになっている。パーティ会場もあっただろう。

そしてその中には、飲食店やら何かしらのテナントが入っている。29と30はそのホテルのスイートルームとかだな。

20階より下は、商社や一般企業が入っているんだ」

「そうか…。下の一般人には、まだ被害が出ていないみたいだな?」

「ああ。だが、犯人の半分くらいは一般人と似たような服装をしていたから、紛れ込まれたら追跡不可能だ。その前にしとめるぞ!」

「わかった!」


5人はロバートと合流すべく、非常階段を使って22階へと急ぐ。

その木下と、西山という男の安否も、自分達が追っていたとはいえ安否が気にかかる。

「まずいことになってなければ良いが…」

ウェズリーがポツリと呟く。

「そうだな。…よし、このドアだな」

レイジがそれに同感し、22階へのドアを開ける。そこは正方形の通路があり、真ん中は吹き抜けになっていた。

そこで5人の目に飛び込んできたのは、取引現場にいた奴らと銃撃戦を繰り広げるロバートだった。

「くっ、ここもかよ!」

「俺とレイジは左から回りこむ! そっちは頼んだぞ!」

「ああ!」


アランとウェズリーとキースは隠れる場所が多くある右から、レイジとスマーティは少ない左から。

その代わり、レイジとスマーティには「ロックオンサイト」という便利なものがある。

アイサイト・ゴーグルからのデータをガーディアンが受け取り、瞬時に弾頭の硬度を変化させ、スタン弾として発射する。

これがガーディアンの最大の特徴である。

が、レイジは野生の勘を頼りにするため滅多にゴーグルを着用しない。なので、自分で硬度の切り替えを行っている。

スタン弾は、スタンガンの能力を併せ持った銃弾であり、相手をしびれさせて戦闘不能に陥らせる。


対してアランとウェズリーとキースはと言うと、普通のハンドガンだ。

バーチャコップ達が使っているガーディアンについては、全く知らない。

ここらへんは自分たちのやり方でやるしか無い。


「よし、合流だ」

敵を一掃した5人が、ロバートの元へ向かう。

「アラン! ウェズリー! キース!」

「はー、疲れた疲れたっと。あ、この2人はこの街の刑事さんだ」

アランがレイジとスマーティを、キースとロバートに紹介する。

「バーチャシティ警察、第2分署特捜課所属、マイク・ハーディ刑事だ。よろしく」

「同じく特捜課所属の、ジミー・クールスだ。スマーティって署内では呼ばれてる。こいつはレイジって呼ばれてるよ。それから、オペレーターもいる」

さっきと同じく予備のインカムを2人に渡し、ジャネットも自己紹介をしておく。

「特捜課のオペレーター、ジャネット・マーシャルです。よろしくお願いします」


続いてロバートも自己紹介。

「こちらこそ。心強い味方が出来てうれしいよ。俺はVSSEのロバート・バクスターだ」

「ああ、よろしくな」


簡単に挨拶を済ませ、今度は木下と西山を探しに行く。その途中で、ウェズリーがバーチャコップに向かって口を開く。

「そういえばあんたら、木下って人のこと、知ってるみたいだったな?」

「ああ。前にちょっとした事件があってな。その時に人質になってた男だ。耳が聞こえないって言ってたから、よく覚えてるよ」

「耳が?」

その言葉に、VSSEの4人は言葉を詰まらせる。

「……それはまずいな。足音や銃声が聞こえない以上、どこから危険が迫っているのか判断出来ないだろうな」

「ああ。一刻も早く、見つけ出さねば!」




だが。バーチャコップ達とロバートが22階で出会ったその下では、闘争が繰り広げられようとしていた。


D3のメンバーは、直樹&慎太郎と、西山の二手に分かれて逃走。

後ろから追っていた男達の内、赤いジャケットの金髪男が直樹と慎太郎を追いかけて走っていく。

青いジャケットの黒髪の男が自分を追いかけてきた。

そんな光景を舌打ちしながら見ていた西山は、非常階段をそのまま下へ走り続けて21階へ。

20階から22階までは吹き抜けており、21階にあった近くの部屋に飛び込む。

何とか青いジャケットの男を振り切ることに成功したようだ。


「はぁっ…はぁ、はぁ…疲れた…」

ぜぇぜぇと息を切らし、飛び込んだのは小部屋であった。

どうやら倉庫として使われているようで、「STORE ROOM」の札がドアに

掛けてあるのが一瞬だけだが確認できた。

とりあえず携帯電話を取り出して警察に連絡しようとした西山だったが、

自分が入ってきたのとは違うもう1つのドアのほうから、物凄い音が響いてきた。

(な、何だ?)


バッ、と顔を上げ、恐る恐る状況を確認しに行こうと立ち上がる西山。向こうも倉庫らしい。

そしてドアを開けてみると、そこには自分と同じく息を切らせながら座り込んでいる

1人の男の姿が。しかも東洋人だ。だが、こちらには気がついていない。

西山は警戒心を最大にして、男にゆっくり、ゆっくりと近づいていった。

すると、男もようやく気がついたのか顔を上げる。何と東洋人だった。

西山は先手必勝、とばかりに話しかける。


「……お前、日本人…か?」

その言葉に、男は肯定の言葉で返した。茶色とオレンジを左右2色で分けた髪の毛をしている。

「そうだ。名前は木下だ。悪いがそこ、どいてくれないか? 俺はここで待ち合わせしてるんだよ」

木下という男の待ち合わせ、という言葉に、西山の顔がわずかに変わる。

こんなところで待ち合わせだなんて、怪しい。

「待ち合わせ? ……誰とだ?」

「大勢の仲間達…だけど?」

ますます怪しさは募る。この男はあの兵士たちの仲間だ、と自分の直感が告げている。



そこではったりを掛けてみることにした西山。

「それは出来ない相談だ。ここから先は誰も通すなって言われてるもんでな。

それに、俺にも仲間がいるんだぞ?」

しかしその言葉に、木下もぴくっと反応する。

「お前も仲間がいるのか?」

「そうだ。それがどうかしたのか?」


その言葉に対し、こんな質問を木下は西山にぶつけてみる。

「その仲間ってのは、2人組か?」

「……何故そんなことを聞く?」

「いいから答えてくれよ。俺はどうしてもそれだけを知りたいんだ」

「……ああ。それがどうかしたのか?」

その瞬間、木下の顔が固くなるのを、西山は見逃さなかった。

「ここにもうすぐ俺の仲間が来る。実力行使に出てもいいんだが、

怪我したくなければ俺と一緒に来てくれ」


だが、西山はふっ、とそんな木下の言葉を鼻で笑う。

「何がおかしい?」

「そう言って、俺を罠にかけて倒すつもりなんだろ? だがそうはいかない」

西山はこの男があいつらの仲間であると確信。

下手にのこのこついて行けば、直樹と慎太郎に余計な手間をかけさせてしまう。

だったらこの待ち合わせ場所から、少しでもこの男を引き離すべきであろう。

「悪いが交渉決裂だ。俺はお前にのこのこついて行って、やられるほどアホでもないんでね?」

「そうか。同じ日本人だから、俺は結構親近感を感じていたんだけどな?」

「俺だってそう思っていたさ。武器はお互い持っていないみたいだな?」

「……ああ」

2人はお互いに、どちらからともなく相手に向かって1歩踏み出した。



「ぐわ!?」

木下は木の扉を突き破って、自分が飛び込んできたドアに吹っ飛ばされた。

西山が木下にタックルをかましたのだ。

「あいつらと合流させるわけには、行かないんだよ!」

そう言って西山は、倒れた木下が着ている茶色いジャケットの襟首をつかみ上げ、綺麗に一本背負いを決めた。

突き破ったドアの向こうはどうやら改装中のバーらしく、しかも吹き抜け。

そこに置いてある机の上には、新聞紙がひいてあった。

木下の体は放物線を描いて、後ろにあった机に直撃。しかし、新聞紙ではクッションにはならない。


しかし木下も、このまま黙ってやられるわけには行かない。

机の上には空のペンキ缶が置いてあり、それを引っつかんで西山の顔にぶつける。

「ぐぅ!?」

西山がひるんだところで、ペンキ缶を投げ捨てて飛び膝蹴り。さらにローキックからミドルキック。

ミドルは西山の股間を蹴り上げた。

「がぁ!」

「おりゃあ!」

西山の肩をつかんで、勢いのまま膝蹴りをする木下。そのままハイキック、

ミドルボディブロー、更に回し蹴り。間髪いれずに西山の顔めがけて、

2発右と左のパンチ。そして再び回し蹴り。その蹴りは西山の腹に食い込み、

彼は後ろの壁に吹っ飛ばされる。

だが、壁にもたれたままずるずると倒れこむ西山の目にあるものが目に入った。

小型の電動釘打ち機。これは拳銃の代わりになると考え、片手で構えて木下に向ける。

それを見た木下は、とっさに傍の柱の後ろに隠れた。

その瞬間、カンカンと火花を散らしながら釘が飛んでくる。かなり危険だ。

(くそっ!)


が、それも10発くらい打ったところで釘がなくなってしまう。

(釘切れ!? ちっきしょう!)

木下が柱の陰から飛び出して向かってくるので、西山は釘打ち機を投げつける。

そのまま木下がひるんだところに前蹴り、顔にパンチ2発。

しかし、木下は空手の名手。大会での優勝経験こそないが、立派な空手家だ。

両手で攻撃を受け流し、代わりに西山の腹と顔に左手で連続でパンチをお見舞いする。

それでも隙は必ずできるもので、西山は木下の一瞬の隙を見逃さず、

ミドルキックを繰り出して彼を吹っ飛ばす。


「ぐは!」

今度は木下が壁にもたれかかって崩れ落ちる。その木下が見つけたものは、ビリヤードの球。

何故こんなところにあるのかはわからないが、とりあえず武器として投げつける。

しかし、西山は飛んできた球を間一髪で避け、ダッシュで木下の元へ。

立ち上がりかけた木下に向け、大きく振りかぶってパンチ。

さすがの木下も反応できず、もろに喰らってしまう。

「ぐえ!?」

バランスを崩した木下は、後ろにあった落下防止用の手すりに掴まったは良いものの、

勢いがつき過ぎて20階へ落ちて行ってしまった。


西山も後を追って飛び降り、倒れこんだ木下の腹に蹴りを入れる。

「ぐぁ!」

そのまま西山は間髪入れず、傍に立てかけてあった棒を手に取り、大きく頭の上に振りかざす。

「おりゃあああああ!」

(やべ…!)

力を振り絞って、何とかそれを避ける木下。そのまま西山に足払いをかけて倒し、

マウントポジションを取って殴りつける。


「おらおらおらああ!」

なすすべなく西山は殴られ続け、その西山の襟首をつかんで立たせる木下。

最後に、精一杯の左ストレートを西山の顔面に叩き込んだ。

「があ!?」

かなりの衝撃で殴ったため、木下の手にも痛みが走る。

(いってえ!)

西山はそのまま気絶してしまった。


どさっ、と尻から倒れこんだ男を見て、木下はほっとため息をついた。

(はぁ、何なんだよ一体! 空手やってて良かったぜ!)

次に携帯を取り出し、警察に電話を掛ける…事は叶わなかった。

携帯は持っているのだが、木下は…。

(無力、だな…!)

悔しさのあまり、一粒の涙が零れ落ちる。自分は耳が聞こえないのだ。


「電話掛けられないなんて…弱ったな!」

この状況では八方塞がりだ。時間が経てばこの気絶している奴も起きてしまうだろう。

かといって今の状況では下手に動けない。まだ銃を持ったさっきの奴らが

うろうろしているはずだ。うかつに行動するのは危険すぎる。

あの時二手に分かれなければ…と思っても、もう後の祭りなのだが。

バーチャコップとVSSEの、偶然が重なり合って出来た共同戦線の物語は、後半へ続く。


第4話へ