Kingdom last heir第8話
貧民街へと到着した3人はまずは酒場へと向かう。メリラとロクウィンは
騎士団の制服では無く私服に着替えてやって来たので騎士団員だと
ばれる可能性は限り無くゼロに近い。
3人は王都在住の平民を装って適当に料理を頼みつつ、店員から
何か最近変わった事は無いかと言う事を聞き出してみる事にする。
が、特にこれと言って変わった事は無いと言う。
「ふむ、この辺りは今までと特に変わった様子は無い様ですね」
実際の話では治安が悪いのはやはり貧民街なのだが、変わった様子が
無ければそれで良い。平和がやっぱり一番である。
メリラだってロクウィンだって、貴族としてでは無くこの国の平和を願う
1人の人間として騎士団に入ったのにどちらも変わりは無い。
第3騎士団の団長として活躍するメリラ・サーリュヴェルは今年で33歳になる。
地位だけでは無く、年齢もまたグラカスやエリフィルよりも上の存在だ。
33歳にしては若く見える顔立ちではあり、一見するとちょっと清純そうな女に
見えるのだがその性格で男が引いて行く事の方が圧倒的に多い。
その性格と言うのは、第3騎士団の団長と言う所から来るプライドの高さである。
プライドの高さに対して申し分の無い実力を備えている事は確かだし、そうでも無ければ
第3騎士団の団長に選ばれては居ない。
第3騎士団の団長として王都や王族を守る以上、彼女自身も日々の業務に追われているが
それでも日々の訓練にはしっかり参加して部下達に檄を飛ばしている。
彼女自身はその図体に似合わない大剣を使いこなすパワータイプの戦士であると同時に、
魔法も攻撃と防御の両方で使いこなす事が出来る万能タイプだ。
彼女だけでは無くこの王国、いや何処の国の騎士団でも同じなのだが自分の得意な武器以外にも
一通りの武器が使える様に訓練を受けるのはテンプレートとも言える騎士団の訓練内容だった。
その中で彼女は普段、自分が最も得意とする大剣を使いこなす為にインナーマッスルを始めとした
ボディバランスと筋力アップのトレーニングをしているので、一見すると着やせして見える彼女も
実は腹筋がうっすらと割れていたりするのが自慢らしい。
しかしながら何時の間にかその地位が彼女を傲慢で尊大な性格にしていった事もまた
事実であり、身近な存在として彼女をサポートしている副官のロクウィンはそんな彼女の
性格に日々頭を痛めている。
そんな副官のロクウィン・バラルラックは相手から見て右目、自分から見て左目に走っている傷で
左目が塞がれてしまい見えなくなってしまっているのが大きな特徴の若き副団長だ。
年齢も30歳のグラカスと32歳のエリフィルの丁度中間、メリラの2個下である31歳。
生真面目で正義感の強い性格で、そんなメリラの命令にも忠実。得意な武器は
槍であり、正義感の強さから正々堂々と勝負をする事を良しとする。
それは演習でもそうであり、1vs複数の時でもそれなりに強いのだが1vs1の
戦いの練習の時が彼が最も実力を発揮する場面として部下からは恐れられている。
が、一旦彼に対して1度でも卑怯な手を使ってしまったらもうメリラでさえも
彼を止められなくなってしまう。ロクウィンは卑怯な手段や姑息な作戦が大嫌いであり、
戦術を立てる時もなるべく正面から相手を撃破出来る様な作戦を立てる事が
圧倒的に多い。勿論戦場では彼の意見ばかりが通る訳でも無いので却下される
事も多々あるが、そこは仕方無い事であろうと本人も納得している。
しかし、彼と刃を交える事になるとすれば話は別だ。戦場で多くの敵が一斉に
かかって来るならば彼はその多くの敵との距離を上手く計ってしっかりと相手を仕留めに行く。
厄介なのは1対1の合意の上で戦う時だ。戦場ではその様な場面は滅多に無いのだが、
何回かそう言う場面に出くわした事が王城ではあった。その内の1つが王城に忍び込んで
盗みを働こうとしていた盗賊と対峙した時に、1対1と見せかけてその盗賊の仲間が
後ろから彼を羽交い絞めにして動きを封じた事があった。
その時に自分の理性が切れてしまったのを実感してしまったロクウィンだったが時すでに遅し。
まず後ろから羽交い絞めにして来た盗賊の腹を槍の柄の先端で何度もど突き、盗賊が
怯んだ所でその顔面目掛けてエルボーを全力で叩き込む。
その間に前から向かって来た盗賊の太ももに槍の先端を突き刺し、悶絶して前屈みになった
そっちの盗賊の背中に垂直に槍を突き立てて絶命させてしまった。
この様に卑怯な手を使って来る相手には絶対に容赦はしない事を決めている。
何故なら、彼の片目を塞いでいるその傷はその昔まだロクウィンが第2騎士団に居た時に
繰り出した任務での出来事が大きく関連しているからだった。