Kingdom last heir第19話


そうしてエリフィルが案内した場所は、何とあの乱闘騒ぎを起こした後で

情報屋に出会ったあの酒場だった。確かに人気は無い。

「え? またここかよ?」

グラカスはきょとんとした顔つきになるが、エリフィルは真顔で頷いた。

「ああそうだ。しかし……この酒場にはどうやら普通には入れない場所があるみたいでな。

あの情報屋が酒場に入って行った後に、そのまま窓から様子を窺ってみたら忽然と姿を

消していたんだ。それも姿を窺うまでの僅かな間でな。魔法かと思ったがどうやら違うみたいで……」

それを聞いていたロクウィンがこんな予想を打ち立てる。

「そうだとしたら、どうやらこの酒場には余程知られたく無い事があるらしいな」

「だろうな。あの眼鏡の男が関与していた訳だし、その時の酒場の奴等……グラカスに

襲い掛かって来たって言う赤毛の奴も含めて全員が怪しい気がするのは間違い無さそうだ」


セフリスもそれに同意し、まずはグラカスが窓から様子を窺う。

「誰もいねぇぞ」

「良し、なら俺が先頭で行く。各自武器の準備だけはしておけ」

そう言いつつグラカスはロングソードを引き抜き、それに続いて他の3人も武器を構える。

そのまましっかり用心しながら、限界まで音を立てずに慎重に中の様子を窺い酒場へ踏み込む。

夕方になり、真っ赤な夕日が差し込む酒場の中で4人は手分けして手がかりを探す事に。

「少しでも怪しい所や場所が無いか調べるんだ」

そう言いながらエリフィルも至る所を調べて行く。


……が。

「特に変わった所は無いな」

「こっちもだ」

「そんなバカな。だったらあの男がこの中で消えたのは一体どう言う事だったんだ!?」

エリフィルが驚愕の声を上げる。どうやらここで行き詰ってしまった様だ。

「くそっ、ここ迄来てこれかよっ!!」

怒りと悔しさが交じり合った感情の拳を、グラカスは奥にあるカウンターの更に奥の壁にぶつける。


が、ふとグラカスはその壁の違和感に気がついた。

「…………」

「どうしたグラカス?」

自分が殴った壁を見つめたまま押し黙るグラカスに、思わずロクウィンが声をかける。

「……軽い」

「え?」

「この壁、何だか音が軽いんだ。何でだ?」

木の壁に似つかわしくない、何だか軽い感じの音が確かに叩いてみると聞こえる。

「あ……」

その壁の境目を調べてみると、良く見ないと分からない位の小さな取っ手がついている。

どうやら引き戸の様で、横に引いてみるとその奥には地下に続く階段が現れた!!

「こ、これは!!」


しかしその時、後ろから殺気を感じた4人は即座に回避行動を取る。

そして次の瞬間、隠し扉になっていた場所に3本のナイフが突き刺さった。

「知ってしまったからには、生きて帰れると思うな」

「貴様っ!?」

ナイフを投げて来た人物の方へと振り返ると、そこには肩にかかる程の長さのオレンジの

髪の毛に、顔のキズと鼻のヒゲが特徴的なあの男……グラカスとエリフィルに偽の情報を

流した情報屋がロングソードを構えて立っていた。

「良くも俺達をはめやがったな!?」

「はめた? そもそもそっちがおいどんの偽の情報に引っかかるのが悪いんだろう?」


ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべながら、情報屋の男はいけしゃあしゃあとした態度を取る。

それを見て、情報屋から目をそらさずにロクウィンとセフリスが前へと出る。

「2人は地下へ行け、ここは俺達2人で食い止める」

「え?」

「任せておけ。きっと私達があいつを倒して行くから」

ロクウィンとセフリスの言葉にグラカスとエリフィルは名残惜しそうにしながらも、その言葉に

素直に甘える形で地下への階段を下りて行った。


「小賢しい真似を!」

それを見た情報屋は地下への侵入を阻止すべく駆け出すが、そこはまずセフリスが

ウィンドボール……魔力による風の弾を情報屋にぶっ放して行かせない。

「相手はあいつ等じゃない。ここで観念して貰おう」

「だったらおいどんが御前達を殺せば良いだけだ!!」

そこまでしてよっぽど守りたい物があるのだろうかと、向かって来た情報屋に対して殺気を感じながら

ロクウィンとセフリスは情報屋を挟み込む様な形でバトルする。


しかし、この情報屋はどうやら先程バトルしたあの2人よりも手強い様だ。

この酒場はテーブルや椅子等の障害物がある為、ロクウィンは槍での攻撃をなかなか繰り出せない。

となればセフリスの魔法が鍵になるが、情報屋はロングソードの機動性を活かして

積極的にロクウィンに攻撃を仕掛ける。そんな2人の絡みをセフリスは見て魔法を打ち込もうと

考えても、先程と違って開けた場所では無いので下手すればロクウィンに当たってしまう可能性がある。

なら近付けば良いと思って近付こうとしても、ロクウィンの相手をしながらセフリスの相手をするだけの

余裕もあるらしい。

(こいつ、ただの情報屋じゃない!)

だけどこっちだってこのまま負ける訳には行かない。どうすれば……。


そんな時、セフリスの目に入ったのは今の戦闘で横になって倒れている椅子。

(……あっ、これだ!!)

その椅子を見て1つの作戦を思いついたセフリスは、まずその椅子を持ちながら

情報屋に向かって行き、ロクウィンとの対決に夢中になっている彼の背中を蹴り付ける。

「ぐお!?」

しかし背中を蹴りつけられた勢いさえも利用してそのままロクウィンに情報屋はタックルをかまして

ぶっ飛ばし、セフリスの方へ向き直ってロングソードを突き出す。

だがそのロングソードがセフリスに届く事は無かった。何故ならロングソードが突き刺さったのはセフリスの

持つ椅子の座面であり、ロングソードが突き刺さった所で椅子の座面を下に向ければ当然

ロングソードを握ったままの情報屋の手が引っ張られる事になりバランスを崩す。


「ぬあっ!?」

前のめりになって倒れ込みそうになった情報屋だったが、ロングソードから手を離す事で体勢を

立て直しにかかる。

でも、その体勢を立て直し切る前に背中に大きな衝撃が来た。

「ぐお……」

自分の腹から伸びる槍の先端。彼の背中が前のめりになった事でがら空きになったのを見計らい、

ロクウィンが情報屋の背中から心臓を貫く形で槍を突き刺してバトルは終わりを迎えるのであった。


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