Kingdom last heir第13話
グラカスに斧で殴りかかろうとした男の手を咄嗟に横合いから
掴んで止め、そのまま男の勢いを利用してぐるっと明後日の
方向へと投げ飛ばす。その方向は運悪く赤毛の男と眼鏡の男が
座っているテーブルの方向であり、見事にテーブルに背中から
直撃した斧の男はテーブルを粉々に破壊して倒れ込んだ。
「もっもも、もう許さねーっ!! ぶちのめせぇっ!!」
エリフィルは咄嗟に反応してしまった自分に酷く後悔しながらも、
もうこうなってしまっては仕方が無いとばかりにグラカスと共に腰の
ロングソードを抜いた。
まずは向かって来た女の短剣使いに足払いをかけてグラカスが転ばせ、一方では
エリフィルがロングソードで斬りかかって来た小柄な男の攻撃を受け止めて
代わりに前蹴りを腹にお見舞いしてやる。
「ちっ!!」
その光景を見ていた眼鏡の男は懐から短剣を2本取り出し、それを両手に
それぞれ1本ずつ持ってエリフィルに襲い掛かる。
それと同時に赤毛の男は両手剣を持ってグラカスに向かって行った。
「俺達とやんのか? 騎士団相手にこんな事をしたら公務執行妨害だぞ?」
「今更もう、後には退けねーんだよぉぉーっ!!」
叫びながら襲い掛かって来た赤毛の男に対して、グラカスは傍に転がっていた椅子を
赤毛の男に向けて蹴り飛ばす。
「うお!?」
足元に飛んで来た椅子に気を取られただけで無く、勢い良くグラカスに向かっていた
赤毛の男はその勢いを急にストップさせる事が出来ずに椅子につまずいて転んでしまう。
それでもまだ立ち上がって抵抗しようとした赤毛の男の手を踏みつけて武器を握れなくしつつ
素早く背中に馬乗りになって逮捕する事に成功した。
「公務執行妨害の現行犯で逮捕するっ!!」
エリフィルはエリフィルで短剣による素早い攻撃をして来る眼鏡の男相手に若干苦戦していたが、
どうやらワンパターンな動きをしていると気がついたのは少し男の動きを観察していた時だった。
(大体の動きは……読めた!!)
酒場は色々テーブルや椅子等が並べられている為、攻撃範囲が広い分取り回しが短剣よりも
圧倒的に悪いロングソードでの戦いを長引かせるつもりはエリフィルには無かった。
自分はグラカスと違ってスピード重視の戦い方を得意とするので、こうしたスピードを武器にする
相手の方がどちらかと言えば同じパターンの相手なだけに自分の動きを感覚で理解している分
戦い易いと常日頃からエリフィルは思っていた。
そしてそこにワンパターンな戦法の攻撃を見破る事が出来たと言う事が加われば、攻撃後の
隙を突いてガッと鈍い音をさせて上手く男の左手から短剣をロングソードで弾き飛ばす事に成功。
「くっ!!」
残った右手の短剣を男は突き出して来たが、その手を今度は先程別の男を投げ飛ばした時と
同じ様に掴む。しかしそのまま投げ飛ばすのでは無く、相手の勢いを利用するのは同じで
そのまま床に滑らせる様にして引き倒して一気に眼鏡の男を制圧しようとしたが、別の男が
そこに襲い掛かって来た為に中断せざるを得なかった。
その後、グラカスに酒場の荒くれ者達を拘束して貰っている間にエリフィルが呼んで来た第3騎士団の
応援があの逃がしてしまった眼鏡の男以外の荒くれ者達を全員逮捕一掃して行った。
しかし結局乱闘騒ぎを起こしてしまっただけで、その噂になっている情報屋には会えずじまいだった。
「あーあ、とんだ無駄足だったぜ、くそっ」
ぼやきながら歩くグラカスだったが、そんな彼にエリフィルは深い溜め息をはぁーと吐いた。
「後先考えずに行動するからこうなるんだ。全く、少しは自制心を身につけたまえ」
「俺の横から突然出てきたと思ったら、何時の間にか1人投げ飛ばしているお前に言われたかねーよ」
「君も絡んで来た男を殴り飛ばしたくせに良く言う物だ」
「んだとぉ!?」
そのままギャーギャーと言い争いをしながら2人の騎士団長は城へと戻る事にしたが、酒場から離れようとした
その時に1人の男がパチパチと拍手をしながら歩み寄って来た。
「流石は王国騎士団長コンビ、か」
「何者だ!」
いきなり2人の元へと歩み寄って来た男に2人は身構えて武器を構えようとするが、
男はそれを見て手を前に突き出して拒絶の意を示す。
「おっとっと、待ってくれ。別においどんは何かしようって訳じゃない。あんた等が捜してるって言う男だよ」
「何?」
「まさか……」
呆然とする2人の騎士団長を目の前にして、男は薄ら笑いを浮かべた。