Kingdom last heir第10話


「……え?」

「だから早く準備して!! レフナス陛下の一大事よ!!」

真っ赤になって怒鳴るメリラに、未だに状況を飲み込めていない

グラカスはきょとんとした顔つきで固まりながらも何とか身体を

動かして自分も準備を始める。

何故なら、巡回を終えて城へと戻って来たグラカスが城の自室で

執務をする為に机に向っていた時に血相を変えたメリラがいきなり

ノックもせずに部屋に飛び込んで来て再び城下町へと繰り出す事に

なるのであった。


何と、あろう事かレフナスが誘拐されてしまったらしい。貧民街から

平民街へと向かい、そこも無事に視察を終えたまでは良かった。

だがその後が問題だった。平民外から最後の区画である貴族街へと

入ろうとした時に事件は起こる。レフナス達の目の前で引ったくりが

起こってしまい、その引ったくりがレフナスにぶつかって来た。

「うわぁ!?」

思いっ切りぶつかられたレフナスは背中から地面に倒れこんでしまい、

引ったくりはすぐさまメリラとロクウィンによってレフナスから引き剥がされて

近くに居た騎士団員に引き渡される。


しかしその引ったくりに護衛の2人が気を取られてしまった時に、1台の馬車が

レフナスの傍に急停車して中から数人の男が出て来たかと思うとレフナスを

1人の男が抱え上げてそのまま目にも止まらぬスピードでその場から走り去ってしまう。

「なっ!?」

「お、おい待てぇ!!」

勿論メリラとロクウィンも追いかけない筈は無かったのだが、いかんせん人間の足と

車輪のついた乗り物を引っ張る馬のスピードの差にはかなわなかった。

魔法も届く範囲外まで逃げられてしまっては打つ手無しであり、すぐさま近くの

騎士団員達に馬車を追う様にメリラは指示を出し、更にロクウィンにも捜索を頼んで

自分は城へと一旦戻って来た訳であった。


勿論この話はグラカスやバリスディのみならず、エリフィルやヒーヴォリー、更には魔導師

部隊のアーロスにセフリス、そして宰相のアルバスの耳にも届く事になった。

逃げられてから早々時間は経っていない上に、ロクウィン達の手によって王都から外に

出る事が出来ない様にすぐに城門が全て閉鎖された。

そのまま全ての騎士団と魔導士部隊による、レフナス陛下大捜査網が展開される。

「良いか、人間が隠れられそうな場所は全て探し出せ。しらみつぶしに全てだ!!」

グラカスの激が城下町に響き渡り、勿論その檄を飛ばした自分自身も捜索活動に参加する。


(私の……油断ね……)

一方で自分自身が油断したせいでレフナスがさらわれてしまった事に大きな責任を感じている

メリラは、今までに見せた事が無い位の落ち込み様を捜索中にも見せていた。

そんな彼女の肩にポン、と手を置く男が1人。

「過ぎた事を悔やんでも仕方が無い。今はとにかくレフナス陛下を探し出すのが先決だ。挽回はそこでしよう」

「……ええ、そうね」

「私達も全力で捜索に当たる。そっちは頼むぞ」

同じく捜索の任に当たっていたヒーヴォリーが慰めの言葉をかけ、エリフィルも最大限の協力を約束する。


しかし、捜索結果は捜索に当たっていた騎士団全員に衝撃を与える結果になった。

「駄目だ……見つからない」

「そんなバカな!?」

非常に暗いトーンで結果を報告するロクウィンに、有り得ないと驚愕の声を上げるグラカス。

「真面目にしらみつぶしに、全ての家と店を隅々まで探した。だが……」

その先の言葉を続けられないバリスディに、そのロクウィンの報告が嘘では無いと確信したグラカスは

目の前が真っ暗になりそうであった。


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