Kingdom last heir第1話
「よーし、全軍……攻撃開始!!」
金髪の騎士団長が、配下の騎士団員達に指示を飛ばして制圧戦がスタートした。
この地方で暴れ回っている盗賊達の本拠地を壊滅しに、夜の闇に紛れて遠征を
して来た王国騎士団の第1騎士団がいよいよ総攻撃を仕掛ける。
その第1騎士団の騎士団長を勤めているのが、この金髪のグラカス・リレデバルドだ。
このシュア王国の治安を守る騎士団は3つ存在しているが、その内の第1騎士団長に
29歳と言う若さでなった男で、それから1年の月日が流れた今では30歳になった彼も
すっかりその騎士団長としての生活が板についている。
騎士団長である自分もただ部下に指示を飛ばすだけでは無く、むしろ自分の性格故に
積極的に前へと出て行くスタイルだ。主にロングソードを使いこなす彼は
パワー重視の荒削りな戦法で相手をねじ伏せる豪快な戦い方である。
最も、騎士団に居る以上はロングソードだけではなく弓、槍、斧、体術と言う様に
色々な武器を使いこなせる様に訓練されるし、馬術や礼儀作法等もしっかりと
見習い騎士の頃から叩き込まれる。と言うのもこのシュア王国の騎士団の編成は少し
特殊であり、その特殊な部分が騎士団のレベルアップに繋がっていると言っても過言では無い。
向かって来た盗賊をまずは前蹴りでぶっ飛ばし、バランスを崩したその盗賊目掛け横一文字に
鎧ごと腹を切り裂く。そこからクルッと身体を反転させ、後ろからやって来ていた別の盗賊の頭に
回し蹴りを食らわせてふらつかせ、そこから盗賊の心臓にロングソードを突き刺す。
まだまだ30代になったばかりなので身体が良く動くし、こうして治安を守る王国騎士団員で
ある以上こんな所で負ける訳には行かない。中には自分達に対して奇想天外な戦法を
取ろうとして来る連中も居ない事は無いのだが、実際の話そう言った時はなるべく遠距離から
敵の本拠地に向けて矢の雨を降らせたり、部隊を上手く分ける等して効率良く作戦を
実行すると言う戦術面での活躍と王国直属の組織故の数の多さで一気に制圧すると言う
作戦を使い分けを取っている。
第1騎士団はどちらかと言えば後者、数の差で相手を制圧する事を得意としている
勇猛果敢な騎士団として王国内では有名だ。反面、素早さや機動力に関しては若干
苦手な部分があるもののそう言う戦術を必要とする場面が自分達第1騎士団の受け持っている
管轄内においては余り無いので、数で押し切る戦法が多くなっているのが現状だ。
「おらぁ!!」
最後の盗賊のリーダーを切り伏せ、今回のミッションも数の差で達成する事に成功。
「よーし、これで全部だな?」
グラカスは後ろを振り返り、傍に控えている自分の副官……第1騎士団の副騎士団長で
騎士学校時代からの友人でもあるヒーヴォリー・ジェヴァザートに確認を取る。
「ああ、間違い無い。後は盗品の回収と後始末だ」
上官でもあり友人でもあるグラカスとは違い、冷静沈着な判断力が持ち味の彼は
淡々と事を進める事が多い。今回の任務でもまた、部下に後始末を落ち着いた口調で
命令するのであった。
こうして1つの任務を終えた第1騎士団員達は、意気揚々と王都に向けて帰還する事に。
結構遠くまで、日数で言えば1週間以上かけて今回の場所まで来てしまった為に
戻るのも馬を使っても一苦労だが、これが仕事なのだから仕方が無い。
だがそんな苦労も、任務が無事に成功した事を考えれば苦労であるとは思えなかった。
「あーあ、退屈でつまんねーぜ。もっと骨のある奴は居ないのかねぇ?」
飄々とした口調で心底物足りなさそうに、グラカスは馬の上でグルグルと肩を回してストレッチを
しながら隣を進むヒーヴォリーに訪ねる。
「そうか? 今回は結構手強かった様な気がしたが」
なかなか骨があったと言わんばかりのヒーヴォリーだったが、グラカスにとってはそうでも無かった様だ。
「ぜーんぜん、あんなの鼻糞だよ。俺をもっと熱くさせてくれる様な、手ごたえのある奴の挑戦を
どしどし待ってます、ってな!」
「……そうか」
余裕綽々の上官を何処か冷めた横目で見ながら、ヒーヴォリーは早く疲れを癒したいとばかりに
小さく欠伸をする。この様な自信満々のグラカスとそれをクールに受け流すヒーヴォリーと言う光景は
第1騎士団では日常茶飯事だが、そんな第1騎士団……いや王国にこの時、少しずつではあるが
確実に危機が迫っている事等誰も知る由は無かった。