Future World Battle第3部第27話
(もし俺があいつ等の立場だったら、俺は軍の連中を恨むだろうな)
ちょっと上と衝突しただけで、若きエンジニアとして期待されていた自分達を呆気無く
除隊させてしまう様なアメリカ軍に対して反感を抱く若者2人の気持ちも少しは分からないでも無いニコラス。
だけど、一般的なベンチャー企業等ならいざ知らず。
軍隊と言う場所は年功序列、上官の命令には絶対だと言う雰囲気と規律が大昔から決まっている
場所であるからこそ、上と衝突する様な人間は置いておけないと判断した上での除隊だとも言える。
(その若いエンジニアの連中が除隊を言い渡されてから、実際に除隊するまでは幾らかの時間があったと言う話だ。
そしてその時間の内容は、俺達に支給されたあの最先端テクノロジーが搭載されたボディアーマーの
開発に従事していたって事になると……)
そのタイミングだったら、恨みから想定外のシステムをあのアーマーに組み込む事も不可能では無い話だ。
その考えは、ショッピングモールが見える位置まで離れて張り込みをしているマドックも同じだった。
ニコラスから送られて来た情報を元に考えた結果、あの若い男2人がやろうとしている事は恐らく「復讐」なのだろうと。
(開発段階だったら俺達も知らない様なプログラムを組み込む事も可能だろうし、納品さえしてしまえば
後は軍を除隊になって復讐するにしてもそのボディアーマーを使って俺達の任務をことごとく
失敗に終わらせる事が出来るだろうからな)
そこまで考えたマドックは、ふと自分のボディアーマーに起こった出来事を思い出した。
(……ん、待てよ? そう考えてみるとあのルイーゼを保護した時のメッセージの行き違いと
言うのもその類なんじゃないのか?)
あのタワービルに向かう途中で、ニコラスから入った連絡により一緒に突入する予定だった警官の
何人かをルイーゼの保護に向かわせた。
そしてその後に連絡が何時まで経っても来ない事に対して警官達を問い詰めに行ってみたものの、
その警官達はしっかりとルイーゼを保護していたばかりか「ルイーゼを保護した」と言う連絡もきちんとしていた、と
言う事でマドックの方が疑って悪かった、と警官達に謝罪する事になった。
もしかしたら本当にメッセージシステムのバグか何かだったのかも知れないが、今の時点での予想から
考えてみるとメッセージの件も「意図的に連絡を取り合えない状況にする事が出来る」と言う
あの開発者達の復習の1つだったのかも知れない。
段々疑心暗鬼になって来るマドックだが、そこまで考えていた彼の端末に新たなメッセージが入る。
(……ニコラスからだ)
メッセージを開いてみると、短い文章で「今そっちに向かっている。到着するまでそこを動くな」と言う指示が記されていた。
そしてそのメッセージの添付ファイルに新たなテキストファイルが組み込まれており、タイトルが「情報屋の情報2」と
言うものなので追加の情報を纏めたファイルらしい。
一体何の情報が今度は記されているんだ? と思いつつマドックがそのファイルを開いてみると、
そこには自分の目を思わず疑ってしまう位の情報が記載されていた。
(何だ、これ……!!)
情報屋からの追加情報と言うのは、ヴェハールシティの地下に眠っている大きな爆弾の存在についてだった。
駐車場での取り引きで押収された「商品」の中に爆薬が含まれていたのは記憶に新しいが、
その爆薬はあくまでも一部。
爆薬は本当は敵の本拠地となっている、今のマドックの視界から十分見えているショッピングモールの
跡地に大量に保管されている。
その爆薬を一体何に使うのかと言うと、このヴェハールシティがまだ第2次世界大戦が終わったすぐ後の時代、
1963年まで……森と林と荒れ果てた大地ばかりの場所だった頃まで時代はさかのぼる。
その時にアメリカ軍が、今のヴェハールシティの市街地がある場所の地面の下に秘密の基地を造っており、
その秘密の基地の中に大量の核ミサイルを始めとした様々な核兵器を格納していた。
しかしその後、1975年にこの場所に新たな市街地……つまりヴェハールシティを少しずつ
建設すると言う計画が持ち上がった。
アメリカ軍のその核ミサイルはその時点でもう10年以上保管されっ放しになっており、その核ミサイルを
保管していた人間達もどんどん軍から退役して行き、建設業者が核ミサイルの事を知らないまま家やビル、
それから高速道路等を建設し始め、地下鉄を造ったりし始めた。
核ミサイルの情報はそれ等の建物や設備をあらかた建設した後に、思い出したかの様にアメリカ軍から知らされた。
だがその時点ですでに30年以上の時間を掛けて、ここまでの都市の前身となる状態までに発展していた
ヴェハールシティの前の名前である「ブラボーシティ」が出来上がっていた状態だったので、
もう既に地下施設を今更壊す訳にも行かず巨大なコンクリートの壁を造ってその開発施設に誰も入れない様にした。
その後にヴェハールシティに名前が変わり、一般市民に公開される事が無くここまで来てしまったのだと
言うのが情報屋のガイレルからの情報だった。