Future World Battle第3部第22話
マスタングのパトカーに乗り込み、ダブルボタン仕様の青と赤の制服に
身を包んだ刑事2人はスラムへと向かって街中を走っていた。
スラムに行くのにパトカーで向かうとなると、それこそ警察を目の敵にしている連中も
ゴロゴロ居るのでやや手前で降りてそこから徒歩で向かう予定では居るのだが。
しかし、そのスラムに向かう途中でニコラスはまたもや自分の目を疑う光景を見つける。
赤信号なので安全運転で停車するマスタングの中から、何の気無しに目の前の
横断歩道を渡る人間を見つめるニコラス。
そのニコラスのボーっとした目が急に見開かれる光景が、フロントガラス越しに映ったのはその時だった。
「……んんっ!?」
「何だ、どうした?」
「あれは……ティアナじゃないか!?」
大都会ヴェハールシティのラッシュの中でも、そのティアナの容姿はニコラスは見間違えない。
そもそも横断歩道を渡っている人間がたまたま少な目だったのもあり、ハッキリとニコラスには
その人物がティアナだと言う確信があった。
「ティアナ……ああ、何度かここ最近で見かけているフランス人の女か?」
「ああ、パリで刑事をやっている女だ。観光でこのヴェハールシティにやって来ていると言っていたが、
どうにもそんな雰囲気じゃ無い気がする」
勿論確固たる証拠がある訳では無いのもニコラスは自分で分かっている。
自分の勘でしか無いのだが、それでもティアナをこうしてこの数日で何度も何度も見かけると言う事は
単なる偶然では無い様に思えて仕方無いのだ。
「何か嫌な予感がしやがるな。気のせいだったらそれに越した事は無いんだけどよ……」
今はスラム街の情報屋の元に向かうのが先決だと言う事で、横断歩道を渡り切ったティアナを
見つめ続けるニコラスにマドックからこんな声が掛かった。
「俺が尾行するか?」
「え?」
「気になるんだったら俺が調べてみるか? 俺はあのフランスの女刑事とは面識が無いし、
尾行するにはうってつけだと思うがな」
そう言われてみれば確かに、自分とルイーゼとは面識があるがマドックはヨーロッパにその時旅行に
行っていた事もあってティアナの事は自分からしか聞いていないよな……とニコラスは考えた。
「……分かった。それじゃあ頼めるか?」
「ああ。だがこの赤い服装は目立ち過ぎる。後ろに確かトレーニング用のシャツとズボンが
あった筈だからリアシートでそれに着替える。それまであの女を見失わない様にしてくれ」
「よっしゃ、任せておけ」
素早くシートベルトを外してリアシートへ移動し、ボタンを外してネクタイも外して……と早着替えに挑戦するマドック。
その一方でニコラスは交差点を右折し、ティアナを見失わない様にコンソールパネルに付いている
ボタンをカチカチと操作する。
コンソールパネルに取り付けられているボタンも、以前の物から色々とシステム面で進化しているのだが
今のニコラスがいじっているボタンもその1つだった。
そのボタンはGPSセンサーを遠隔で取り付けられる様になっており、物でも人でも関係無い。
ボタンをいじるとフロントガラスに照準が現れる。
その照準を運転席から手が届く位置についているスティックをグリグリと片手で動かして、対象物に対して
ロックオンしてからスティックの上についているボタンを押す事で、遠隔操作でGPSをセット出来る様になっている。
こうする事で、わざわざ車のスピードを遅く調整して人間の歩くスピードに合わせる様な
尾行の仕方をしなくても良くなる。
車が尾行して来ているとなればそれだけでも目立つし、スピードを落としてノロノロ運転をすれば交通の
妨げにもなってしまうし、何よりこのマスタングはヴェハールシティ警察のパトカーでありかなり目立つ上にティアナも
マスタングのパトカーがニコラスが乗っている車だと知っている。
だからこそ、その色々なウィークポイントをこの遠隔GPS捕捉システムは一気に解決してくれる。
勿論GPSを取り付けた側にしか「取り付けた」と言う情報は分からないので、使い方によっては
犯罪の防止にもなるしストーカーを始めとしたプライバシーの侵害が出来てしまうシステムでもある。
だからこそパトカーに搭載するシステムとしてはかなり開発部署と警察上層部の間で揉めたらしいのだが、
物は試しと言う事でこうしてマスタングのパトカー「だけ」に搭載されている状態だ。
GPSの数にも限りがあり、今の搭載システムでは同時に3つまでしか捕捉出来ない。
だけどそれだけあれば今の状況では十分なので、その捕捉した状況できちんとフロントウィンドウの
ディスプレイの一角にその捕捉している情報が出ているかどうかを確認するニコラス。
「良し、捕捉したぞ」
余り近くで減速し過ぎるとティアナに尾行作戦がばれてしまうので、あくまでも気が付かない振りをしながら
ニコラスは彼女の横を他の車のスピードに合わせて自然に通り過ぎる。
「こっちも着替え終わったぞ」
黒の長ズボンに白いTシャツ、グレーのスニーカーと言う格好にチェンジし終えてナビシートに
戻ったマドックを見て、ニコラスは「作戦開始だ」と頷いた。