Future World Battle第3部第23話


一先ずGPSを取り付ける事には成功したので、ニコラスとマドックはティアナから見えない位置までマスタングを走らせる。

このGPSシステムはヴェハールシティ中を網羅しているので、ヴェハールシティから出ない限りは

地下だろうが空の上だろうがGPSの追跡システムに引っ掛かる位の精度と範囲を持っている。

「捕捉しているか?」

「ああ、バッチリだ。俺は御前をその辺りで降ろしてスラムの情報屋の所に向かうから、御前は尾行を頼むぞ」

「分かっている。何かあったらお互いに連絡し合うんだ」

もしかしたらこれが切っ掛けで一気にあの事件の核心へと近付く事が出来るかも知れない。

だからこそ失敗が許されないミッションである為、マドックの責任は重大だ。


GPS機能が作動している事を確認し、マドックはマスタングから降りてここからはニコラスと別行動だ。

「スラムの方も今は落ち着きがあるみたいだが、何が起こるか分からんからそちらも油断するなよ」

「ああ。御前の方もな」

拳と拳を合わせ、お互いの健闘を祈り合ってニコラスとマドックは別れる。

マドックがティアナの方向に歩き出したのをサイドミラー越しに見ながらマスタングを発進させたニコラスは、

再び進路をスラム街の方へと取った。

ヴェハールシティはアメリカの大都会の1つである為、良い奴も居れば当然悪い奴も大勢居る。

そして、その悪い奴は必然的に悪い奴同士で固まる傾向がある。

それはこの前マドックが拉致されてしまったダウンタウンでもそうだし、それから市街地の中でも

同じく悪い奴等のアジトと言うのは存在する。


けどやはり治安が悪いと言えば、誰が何と言おうと真っ先に思い浮かぶのがスラムだ。

悪い奴等の吹き溜まりとも言えるその場所では、ホームレスが雨風を凌ぐ為にスラムの

廃墟を寝床にしている位ならまだ分からないでも無い。

しかし治安の悪さが他の地域とは桁違いな場所なのがスラムであり、麻薬の密売や警察官による

銃火器の横流し、それから殺人事件も起こる。

ヴェハールシティ警察としても勿論対応はしているのだが、担当としてはそのスラムばかりを重点的に

取り締まる訳にも行かないのが現状だ。

それに警察官も真面目な人物ばかりでは無く、スラムの悪党と結託して甘い汁を啜っている

警察官だって1人や2人ばかりでは無いのだ。

人間が10人居れば、その10人はそれぞれ性格も考え方も生まれ育った環境も性別も違う。

それが人間だからこそ、警察官だって悪の道に進みたくなる事があるのだ。


だがニコラスはこの街の治安を守る警察官の1人として責任を感じ、そして警察官としてのプライドもある。

自分やマドックの様にヴェハールシティの平和を守る為に日夜奮闘している警察官が居るからこそ、

このヴェハールシティがここまで大きくなれたのだと思っている。

ヴェハールシティは近未来の大都市として、アメリカのメディアからも少しではあるが注目されている街だからこそ、

これからもますます発展して行って欲しいのがニコラスの思いだ。

(スラムはなー……あの辺りのパトロール部隊も腰が重い場所だから俺も正直不安な所はあるが……)

スラムは無法地帯となっているからこそ、たまに訪れるパトロール部隊も早々に引き上げるか悪徳警官が

悪の道に手を染める為に訪れるか位でしか警察官の姿を見かける事が出来ない場所だ。


それに、スラムには警察官に潰された犯罪組織の下っ端が流れ着いて住み着いたと言う事も

数え切れない程あったりするし、そうで無くても悪人達から見て警察官と言うのはただでさえ目の敵にされる存在だ。

だからなるべく警察官だと言う事で目立たない様に、ニコラスはスラムに入る少し手前でマスタングのパトカーを

停めて徒歩で情報屋のガイレルの所に向かうのが当たり前になっていた。

相棒のマドックもこれは同じであり、幾ら悪党がのさばっている地域とは言えども大事な事件の捜査に

向かう前に余計なトラブルを起こさない様にしたい所である。

(何時来ても薄気味悪いって言うか、居るだけで生気を削がれそうな場所だぜ……)

真昼間なのに、漂っている雰囲気は薄暗いスラム街。

本音を言ってしまえばニコラスも余り来たくは無い場所だったが、スラムだからこそ

手に入れられる情報はやはり存在するのだ。


金さえ出せば情報屋は、知りえる情報なら売ってくれるのが常識である。

自分達の利益の為なら警察にもギャングにもくっ付くのが情報屋で、ニコラスの知っている

情報屋のガイレルもまた同じくその利益優先の商売をしていた。

(……来てしまった……)

げんなりした表情を隠そうともしないまま、ニコラスはガイレルの情報屋として機能している

薄汚い料理屋の看板が掲げられたレンガ造りの建物の前で立ち止まった。

ここまで来てしまったのならもう後戻りは出来ないし、何か情報が手に入れられるのであればそれはそれでラッキーだ。

情報量が幾らになるかは分からないが、後で捜査費用として経費で請求させて貰うと

心に誓ったニコラスは黒い手袋をはめた手で料理屋のドアをギィィ……と軋ませつつ押し開けた。


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