Future World Battle第3部第19話
「一体何だったんだ、あの現象は……」
マドックは第5分署の医務室で手当てと検査を受けつつ、あの駐車場での出来事を思い出してポツリとそう呟いた。
あの黒髪の男がリモコンのボタンを押した瞬間、全身を駆け巡ったあの物凄い痺れ。
あれは一体何だったのだろうか?
(リモコンのボタンを押したと言う事は、あれであの痺れが発生するシステムになっていた事は確かだな。
となるとあの男が持っていたリモコンは……まさか、俺とニコラスが使っているアーマーを
コントロールする事が出来るのか!?)
自分でも突拍子も無い考えだとマドックは思っている。
しかし考えてみると、あのリモコンを操作した後に自分達の身体に痺れが走った。
自分もニコラスも、そんな痺れがいきなり襲い掛かって来る様な身体を持っている訳は無い。
だったらやっぱり、原因は自分達が着込んでいるボディアーマーにあるとしかマドックには考えられなかった。
あの後、痺れて地面に倒れたまま動けなくなっている2人を奇襲チームの隊長が発見。
若い男2人の部下、それから相手の取り引きグループは全員逮捕出来たものの結局若い男2人には
逃げられてしまった訳だし、その責任は余りきつくは問われなかったもののやはり重いだろうと
ニコラスもマドックも感じてモチベーションがダダ下がりである。
犯人が目の前に居たのに、みすみすその目の前で取り逃がしてしまった事による後悔と自己嫌悪。
主犯格の人間達の目の前に回り込んだ事で少なからず油断が生じていたのは否めなかった。
(こんな事になるなら、危険な人物だと判断してさっさと足を撃ち抜くなりすれば良かったな……)
そんな「たら、れば」のIF論を展開した所で、時間を撒き戻して過去に戻れる訳でも無い。
重要なのはここからいかに今回の失敗に対して挽回して行くかどうかなのだ。
あの犯人達を追い掛ける手掛かりはまだ見つかったかどうか分からないものの、取り引きグループの
メンバーの取り調べや現場から押収された取り引きの商品の調べは進んでいる。
別の医務室に居るニコラスにもその話は伝わっており、お互いに手当てが終わって体調が
問題無いと判断すればすぐにでも現場復帰する予定だ。
しかし、その現場復帰に関しては今までと明らかに違う所も出て来るだろうとマドックは確信している。
(あのボディアーマーは色々と調査が必要な様だな……)
そう、今回の事件で最も気になっている部分はまさしくそこなのだ。
ギルドは確かに新規の部署であり、ボディアーマーを始めとして今の部署で活動するに当たって
色々と装備を整えて貰ったとは言えどもまだまだその内容には未知の部分が無いとは言い切れない状態だ。
ギルドが発足してまだ1年も経っていない訳だし、まだまだ発展途上と言うのが否定出来ない以上は
ニコラスもマドックもボディアーマーのシステムで使いこなせていない部分が多い。
となれば、あのボディアーマーにはまだ未知数の部分があると言えるだろう。
あのリモコンを持っていた男とボディアーマーの関係を何とかして割り出す事が出来れば、あの男達が
何を企んでいるのか、それからボディアーマーにどんな仕掛けをしたのかと言う事がそこから
連続的に分かって来る筈だとマドックは病み上がりの身体でありながら考える。
(ニコラスが合流してからまたじっくり考えたい所だが……今思いつくだけの事を整理しておくだけしてみよう)
頭の中で整理してからニコラスに意見を聞いてみるだけでも大分違う筈だと思い、ギルドの頭脳担当である
マドックは冷静な判断力と考えを用いてあの時起こった事や最初に支給された時の
ボディアーマーの説明を思い出して考える。
(あの時、リモコンを操作した事で俺とニコラスは同時に痺れて動けなくなってしまった。
やはり何か仕掛けられていたのは間違い無いと思うが……)
医務室で治療を終えたのは良いが、体の不調が回復するまでベッドでもう少し安静にしていてくれと
医師から指示を受けたのでベッドに潜り込んでまた考える。
ボディアーマーに何か細工をしていなければあのリモコンで痺れを起こす事は出来ないだろうと思うが、
今のボディアーマーの保管場所を考えてみると細工をするのは不可能である可能性がかなり高い。
(俺とニコラスがあのアーマーを保管しているロッカーは、第5分署の中でも厳重なセキュリティの下で保管されている。
指紋認証に声紋認証、それから網膜スキャンも潜り抜け、更にギルド専用の特殊な改造が施された
IDカードを使わなければロッカールームに辿り着く事すら出来ないからな)
だったら、自分達がそのボディアーマーを着込んでいる時しか何か細工をするチャンスは
無いだろうと言う結論にマドックは達する。
(ロッカールームから出していると言う事は俺達がアーマーを着用していると言う事なので、あの痺れる仕掛けを
仕掛けるとしたらその時なのだが、あの2人の男は俺達も見た事が無い。つまり初対面の連中が
俺達のボディアーマーに細工を出来る筈が無い……)
考えれば考える程、ますます謎は深まるばかりである。