Future World Battle第3部第18話
フラッシュバンを投げ込み、それからマドックは取り引き集団の中に突っ込んで行く……予定だったのだが
ここでまたしても想定外の出来事が。
「……な!?」
確かにフラッシュバンを投げ込んで、その内の大多数は突然の音と光に成す術も無く目と耳を押さえて悶え苦しむ。
ここまでは良かった。
だがそんな状況になっているにも関わらず、さっきの若い男2人と他の数名だけは
そのフラッシュバンを物ともしない様子でマドックに向かって襲い掛かって来た。
「くっ!」
マドックが隠れていたのは、丁度ニコラスから見た敵の裏側の柱である。
その柱の影からフラッシュバンを投げ込み、そして自分の方に銃口が向けられているのが分かった
マドックも、ニコラスと同じ様に別の柱の影に向かって飛び込む。
(どうなってるんだ!?)
フラッシュバンをいきなり投げ込んだ筈なのに、それが平気だと言うことは常識的に考えても有り得ない。
その奇襲作戦の為に、自分やニコラスを始めとした今回の奇襲チームはフラッシュバンに対しての
防護もしてあると言うのに……とマドックは驚きを隠せない。
(となれば……こいつ等は俺達が来る事を分かっていたと言うのか!?)
タワービルの時に見つかった、あの縦に読むメモの話もそう考えてみると今更だが
「自分達警察の人間をここに誘い込む為の罠だった」と言う結論が思い浮かんだ。
とにもかくにもこのままでは取り引きを壊滅させるどころか、逆にこっちが壊滅させられてしまいそうな状況であると
マドックは思いながらも自分の愛銃であるCZ75を引き抜いて応戦する。
奇襲部隊も同じくフラッシュバン使用等の荒っぽい状況に備えて万全の体制と装備を整えて来たつもりだったのだが、
敵の中にこうして平気な状態の人間が居ると言うのは余り予想出来ていなかった。
それでもこうなってしまったからには、まず今の自分が出来る限りの事をするだけであると奇襲部隊の誰もが思っている。
そしてそれはニコラスもマドックも同じ。
柱の陰から陰へ、それから駐車場に停まっている車の陰に隠れて弾丸をリロード。
フラッシュバンを凌ぎ切った平気な連中の位置をゴーグルのセンサーで確認すると、
数は大分減っている様なので今の所はこの奇襲チームが有利である。
「マドック、状況は!?」
『こっちは粗方片付けた! だが主犯格と見られる人間が下に向かって逃げている! 追うぞ!』
この取り引き現場の後の始末は奇襲チームの人間に任せて、ニコラスはその逃走情報を
伝えて来たマドックと合流して2人で逃げた連中を追いかける。
マドックからの情報によれば、さっきインカムの通話で言っていた若い男2人が自分達の部下を
数人引き連れて駐車場の下の階へと走り去って行ったのだと言う。
(やっぱり3階から飛び降りるのはきついんだろうな)
2階から飛び降りるならまだしも、3階からだと飛び降りても間違い無く足を骨折するのが
最低ラインだろうとニコラスは考えながら自分達も下の階へと向かう。
だけどそんな2人の目の前に行く手を阻むかの様にまた新しく敵が数人現れる。
恐らくこの新しく現れた敵が、主犯格と見られる若い男2人と一緒に逃げたとマドックが言っていた部下達なのだろう。
そう思いつつも、ニコラスとマドックはその敵達の処理をなるべく落ち着いて終了させる。
そうしてさほど時間を置かずに処理が終わったのもあって、ニコラスとマドックは2階部分から
飛び降りて若い男2人の行く手を阻む事に成功した。
「くっ……!?」
「ちっ、なかなかやるじゃねえか!」
若い男2人は身構えるので、ニコラスもマドックも油断無くグロックとCZ75の銃口を向ける。
「ヴェハールシティ警察だ。この前のタワービルの事件とも関係ありそうだが、まずは
公務執行妨害の容疑で御前達を逮捕する!」
「両手を頭の後ろに組んで、ゆっくりと地面に膝を着くんだ」
ニコラスが罪状を口頭で説明し、マドックが冷静ながらも力強い口調で指示を出す。
だが、主犯格の若い男2人の内黒髪の男の方が薄ら笑いを浮かべてポケットからリモコンを取り出した。
「膝を着くだと? はっ……バカ言っちゃいけねーよ」
「何だと?」
「御前達の方だよ、膝を着くのは!」
そう言って男がリモコンのスイッチをオンにした瞬間、ボディアーマーから強烈な痺れが
ニコラスとマドックの身体に襲い掛かった。
「ぐぅあああああっ!?」
「ぬぐおおおおおおっ!?」
いきなりの出来事に何が起こったのか把握出来ないまま、強烈な痺れにニコラスとマドックは
男の予言通りに膝を着いてハンドガンもそれぞれ手から落としてしまう。
そんな2人の横をゆったりとした足取りで若い男は通り抜け、近くに停まっている赤いBMWのM2クーペに乗り込んだ。
「じゃーな、刑事さん。俺達のこれからのリベンジ、楽しみにしてろよな!」
その声すらも、痺れに悶え苦しみながら立ち上がれないニコラスとマドックにはうっすらとしか聞こえなかった。
「くそっ……!!」
ニコラスは悠々と走り去って行くM2クーペのテールをその視界に捉えながら、痺れつつも歯軋りをするしか無かったのである。