Future World Battle第3部第15話


「へぇ、そのフランス人の女がねぇ……」

ニコラスから「自分にだけは伝えておく」と言う事で報告を受けたマドックは、椅子に座ったまま

右のこめかみに右手の人差し指と中指を当てて足を組んでキザっぽくそう答えた。

「その女は色々と怪しい動きをしていたんだろう? 俺が御前から連絡を貰って踏み込んだ

あのタワービル以外にも、改装中のバーで目撃されていたりな」

「とは言っても朝に見かけたティアナだけが確かに本人だったと言えるだけで、残りの2回に関しては

もしかしたら良く似た他人かも知れないしなー」

そう、今朝の交差点の時以外に見かけたのは2回。それもルイーゼが遠めに見たと言う事が

切っ掛けだったのでもしかしたら他人と見間違えた可能性もあるのだ。

それでもティアナがこのヴェハールシティに居ると言うのは事実だった訳だし、5日前から

滞在しているとなればその2回の目撃に関してもあり得ない話では無い。


それに関係して、そう言えば……とマドックはこんな話をニコラスに振る。

「そうだ、あのメモの解読結果から次の取り引きだか何だかの場所が分かったから、その取り引き現場の

近くにパトロール部隊を増やす様に進言しておいた」

「ああ、それが良いだろうな。何時取り引きがあるか分からねー以上、打つ手は全て打っておくべきだろう」

あの縦に読むメモの解読結果から得られた「35番アベニューにある駐車場の一角で取り引きが行われる」との

情報を手に入れたからには、それに向けて事前に警察の方でも準備をしておくに越した事は無い。

ティアナの目撃情報はマドック以外には伏せておくとして、あのメモの事は既にギルド以外にも

知れ渡っている事から今更隠す事なんて出来やしない。

だったらやれるだけの対策を練っておくだけだと思いつつ、ギルドの2人の勤務は溜まっている

書類整理を始めとしたデスクワークから始まるのであった。


その3日後。

35番アベニューにある立体駐車場の一角にベンツやBMWと言った高級車が勢揃いしていた。

黒塗りの車体もあれば白塗り、シルバーに赤等の様々な色の車が6台程集結し、その車から

それぞれ男女関係無く多人数の人間が下りて来た。

手にスーツケースを持っているのがほとんどで、夜中の時間帯と言う事もあって駐車場には人気が

全くと言って良い程無かった。

そのいかにも怪しげな集団は2つのグループに分かれており、そのグループの片方で指示を出している男が2人。

1人は小柄ではあるものの身長以外の身体つきとしてはガッシリとした体格をしており、

黒の短髪に意志の強そうなグリーンの瞳が印象深い若い男。

もう1人は銀髪を肩に掛かる位まで伸ばした、軽薄そうなイメージの細身の若い男。


共通しているのはどちらも若いと言う事だが、その見た目の年齢に似合わない様なキビキビとした

指示を出してグループを上手く誘導している。

と言うよりは「慣れている」と言った方が正しいだろうか。

その2人の指示で駐車場の一角に取り引き現場が出来上がり、あのタワービルと改装中のバーに

続いて3回目の取り引きをスタートする。

「この前のタワービルの時は残念だったが、その後のバーの取り引きは上手く行ってる。

今回も手早く取り引きを済ませよう」


黒髪の男が物静かな口調で、しかし力強い意志を感じさせるトーンで男がそう言うと

グループの中の何人かから声が上がる。

「でもさー、ヴェハールシティ警察の奴等が動いてるって言うからもうこの街から撤退した方が良いんじゃねえの?」

「そうそう、私も警察が動いてるって話は聞いたわよ。何でも特殊部隊まで動いてるって」

「俺達、別にここじゃなくても取り引きは出来るんだしさぁ……」

「黙れ!!」

銀髪の男から唐突に上がったその大声で、グループの中からの声が一気にミュート状態になる。

コンクリートで囲まれた駐車場内だからか普通に大声を上げるよりもかなり大きく、そして反響して聞こえた。


グループの連中が全員黙ったのを見て、銀髪の男は更に続ける。

「これは俺達のリベンジマッチなんだ。特殊部隊って言うのは最近発足したって噂になっている、最先端装備を

詰め込んだハイテク連中の事だろ? 俺達はそいつ等に用があるんだ。そいつ等が出て来てくれなければ

俺達もこの街に居る意味がねえし、この街は近未来としだと歌われているけど、その実態は脆いもんだって

言う事を俺達がしっかりと証明してやらなきゃなあ。近未来なんて一瞬で滅ぼせる様な物を俺達は

持っているんだし、その恩恵を少しでも授かりたいからそっちの奴等もこうしてこの街に来てくれてるんだしよぉ?」

銀髪の男の演説に黙り込んでしまった一行は、その剣幕に押されたのかあるいは「もう構ってられねーや」と

言う心境なのかは分からないにせよ、黙って取り引きの準備を進めて行く。

しかしその心境は銀髪の男、それから黒髪の男にとってもどうでも良かった。

リベンジマッチはリベンジマッチ。

その特殊部隊の連中が使っていると言う最先端の装備と言う物が、どれだけ愚かで脆い物なのかを

証明する為にこのヴェハールシティまで彼等はやって来たのだから、ここで撤退する訳には行かないのだ。


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