Future World Battle第3部第16話
同時刻。
35番アベニューの立体駐車場で何かの取り引きが行われる、との情報をあのメモから手に入れていた
ヴェハールシティポリスでは、マドックの進言通りに張り込み周辺のパトロールを強化していた管轄の
警察部隊によって奇襲作戦が行われていた。
奇襲部隊の隊長が事前に人員を振り分け、各自位置について準備完了。
しかしまだ奇襲をかけるタイミングには早い。
何故ならこの警察部隊がここに来る前に、1度別の場所でギルドの2人と合流しているからである。
そのギルドの2人でまず陽動をして貰い、それから一気に畳みかけると言う作戦を今回は考えて来た。
張り込みやパトロールを続けていた隊から「怪しい車の集団が駐車場に集まっている」と聞いて、
すぐにギルドのニコラスとマドックもマスタングのパトカーで現場に駆けつけた。
その向かう途中で突入班のメンバーと無線で連絡を取り合って、陽動からの一斉検挙と言う作戦で
サッサと片付ける事を決定。
最初に2人しか居ないと思わせて油断させ、その後に奇襲部隊が襲い掛かる事で敵が動揺している所を
叩き潰す心理的作戦もあるのだが、この時点ではニコラスもマドックもまだ自分を待ち受けている
予想外の事態等を知る由も無かった。
それは奇襲の為に陽動を掛けた所から徐々に判明して行く事になる。
「良し、ではまず俺達が先行してあいつ等の死角から忍び寄って奇襲を仕掛ける。その間に奇襲部隊の一部で
各出入り口を封鎖しておき、逃げようとする奴等を絶対に逃さない様にするんだ」
マドックの指示で奇襲部隊のメンバーとニコラスが頷き、ギルドの2人はボディアーマーの状態を
確認してから歩き出した。
インカム付きのモノクルのゴーグルのスイッチをオンにして、そのゴーグルに取り付けられている
システムの中の1つである熱量センサーを起動する。
これで例えば建物内部であれば、3階上まで床を突き抜けて生物のサーモグラフィーを
表示してくれる範囲を持つセンサーとなるのだ。
そのサーモグラフィーシステムを使ってニコラスとマドックは駐車場内の熱源が何処にあるかを確認する。
「1……4……8……んん、結構多いな」
駐車場の中に入って行った車の数を奇襲部隊から聞いてギルドの2人も把握していたのだが、実際に
サーモグラフィーで熱源を観測してみた結果、その車に乗っていたであろう人間の数がかなり多い事が改めて分かった。
「軽く見積もっても20人は超えているな。どうするマドック?」
「集団で一気に向かって来るパターンか、散り散りになって逃げ出すパターンかのどちらかだろう。
どちらにせよ俺達2人だけでは対処しきれないだろうから、少しでも優位な状況に立てる様に
フラッシュバン用意しておけ」
フラッシュバンはスタングレネードとも呼ばれている閃光弾であり、強烈な音と光によって一時的に
敵の視界を奪ったり難聴状態にして戦闘能力を著しく低下させる。
基本的に殺傷能力は無く、比較的怪我をさせたりする事無く犯人を逮捕出来る兵器である事から
人質を取って立てこもった犯人の制圧から逮捕までの流れを作る……と言う事等に使われる物として有名だ。
警察の特殊部隊にもフラッシュバンは何年も前から装備されているが、このギルドの2人に対しても同じく支給されている。
市民の税金で購入した物なので余り易々とは使えないのだが、今回の奇襲作戦の様に
敵の人数が多い場合ではこのスタングレネードで一気に制圧してしまう方が早いだろうとの結論に達する。
あのメモに書かれている事が本当であれば敵も幾らかは武装している筈なので、だったら尚更の事
一気に制圧してしまった方が早いし安全だ。
前回のあのタワービルと同じ奴等が関係しているのであれば、それこそこちらもそれなりの武装が
必要だろうとも思いながらニコラスとマドックがまず先行して駐車場に入り込む。
立体駐車場の明かりは薄暗く、何処に敵が潜んでいるかはパッと見た限りではなかなか分かりにくい。
しかしそこはハイテク装備満載のボディアーマーを着込んでいるので、こちらが人数的に圧倒的に
不利であると言う事以外はそのハイテク装備を駆使して不利さをカバーする事が割りと出来そうなので、
特に心配する事は無いだろうと思っていた。
……この時までは。
「俺はそっちから回り込む。マドックはそっちからアプローチしてくれ」
「分かった」
2人で一気に突撃するよりも、まずはニコラス1人で相手の気を引いて人数や取り引きの現場の様子等を確認。
そしてその状況の確認があらかた出来た所で、今度はマドックが別方向から敵に声を掛けると同時に
フラッシュバンを投げ込む手筈になっている。
もし声を掛けられない状況になった場合はすぐにフラッシュバンを投げ込む作戦だ。
「お互いに連絡を取り合って、問題が発生した場合はすぐに知らせるんだ。御前はすぐ熱くなって
突っ込み過ぎる傾向があるからな」
「分かってるよ。それじゃあ行くぞ!!」
念を押す様な口調のマドックの忠告に、ニコラスは何処か投げやりな口調で返事をして了解の意を示してから動き出した。