Future World Battle第3部第13話
(じゃあこのメモは、あの現場に着く前から用意されていた物って事になるのかしら?)
そうだとすればやっぱり怪しい。
でも今は、この妙に先頭が整っている文章のメモをもっと良く調べる事の方が大事だ。
(文章の先頭がこれだけしっかり整っていると言う事は……それにこの短い文章の羅列は、
恐らくこの文章自体を読ませる為に書いたんじゃないと思う)
なら……と方向を変えてみてみると、その瞬間1本の線になって自然と答えが浮かび上がって来た。
「あ……これ、これだわっ!!」
今までと視点を変えてみてみれば、何と簡単なパズルだった。
難しく考え過ぎるのも良くないわね、と思いつつルイーゼはその解読した内容を
別のメモ用紙にサラサラと書き写して行く。
そしてその内容に、ルイーゼは思わず呟かずにはいられなかった。
「これ……大変な事になるわよ……」
その時、ちょうどシャワーを終えたニコラスがシャワールームからバスタオルで髪を拭きながら現れた。
警察官らしく鍛え上げられた身体は立派なものだが、今のルイーゼはそんな肉体美に反応する事が出来なかった。
それほどまでのショックを抱えてメモを見つめながら唖然としているルイーゼに、シャワーで汗を流して
さっぱりしたニコラスが声を掛ける。
「どうだ、解けたか?」
しかし、その問い掛けにルイーゼからの反応は無い。
「……おい、どうしたんだよルイーゼ?」
そんなに集中してくれるのはありがたいんだが、応答があったって良いだろうに……と近づいて手の甲で
ルイーゼの肩をポンポンと叩くニコラス。
「すぐに警察に連絡して!」
その瞬間、ルイーゼから返って来た反応はそれだった。
「えっ、一体どうしたんだよ?」
「早く! 早くしないとまた新たな取り引きが始まるのよ!!」
「お、落ち着けルイーゼ! だから何があったんだ!?」
こんなに取り乱したルイーゼを見るのはこれが初めてかも知れないと心の片隅で思いながら、ニコラスは
手に持っていたミネラルウォーターを渡してルイーゼに飲ませて落ち着かせる。
それから話を聞く事にした。
「……落ち着いたか?」
「ええ、少しは……でも急がないと!!」
そう言うルイーゼはあんまり落ち着いて無い様に感じるニコラスだが、それでもさっきの取り乱し様は
尋常じゃ無かったのできちんとそこは説明して貰わなければならない。
「このメモの内容が分かったのか?」
今度は質問にしっかり答えるルイーゼ。
「ええ。このメモはこのまま読んじゃダメなタイプね。この最初の……ええと、文の先頭にある
アルファベットや数字の1文字だけを抜き出して、それを縦に読むのよ」
メモ用紙のサイズは一般的な小さい物では無く、A4サイズのコピー用紙を目一杯使った物である。
「それとニコラス、この折り目って現場から押収された最初からついていたの?」
「それは……ああ、マドックの持って来た状態で折り目が付いていたと言う話だったぞ」
「……だったらこの用紙を折り曲げて、ポケットか何処かに小さく纏めて収納していたって話も考えられるわね」
あたしの推理については後で話すからと言いつつ、解読したそのメモの内容を記した小さなメモ用紙を
ルイーゼはニコラスに手渡した。
それを見たニコラスの表情がさっきの自分と同じ様に変わって行くのを見て、そりゃその内容ならニコラスも
そうなるわよね……とルイーゼは妙に納得してしまった。
あのメモの内容を解読してみて、先頭の文字をそれぞれ繋げて読んでみた結果としては
「今回の取り引き場所はこのタワービルで次回の取り引き場所は改装中のバーで次の取り引きは
35番アベニューにある駐車場の一角で」と言う文章が出来上がったからだ。
この暗号解読結果を見て、ニコラスとルイーゼの頭の中には同時にこの前のドイツ料理店の
帰り道の光景が浮かんでいた。
「なぁ、もしかして俺と御前……今考えてる事同じだったりするのかな?」
「もしかしなくても多分そうだと思うわ。あのドイツ料理屋の帰り、あたしがタクシーを呼んだ場所の話でしょ?」
あのキャデラックCTSが停車したあの場所は、ニコラスの記憶が正しければやっぱり改装中のバーだった。
「偶然の一致と言う事も考えられるが、この街の中だけで改装しているバーがそう何件もあるとは考え難い。
それに、そこでも御前はあのティアナらしき人物を見かけたと言っていたな?」
「ええ……背格好が似てたから。でもその前のタワーの時よりは遠目だったから、人違いって
可能性もあるかも知れないわよ」
しかし、改装中のタワービルのでああ言う銃撃戦が勃発する程の取り引きが行われていた事や同じく
改装中のバーの中に入って行く……それも人通りが少なくなる夜の時間帯を狙ったかの様にして
行動している感じがした、あのキャデラックの連中。
いずれにせよ、これでメモの謎はルイーゼの手によって解けたので自分の妻に感謝しなければならない
ニコラスだが、それと同時にハイペースでまたやらなければならない事が出来たのも事実だった。