Future World Battle第7話
そうしてニコラスの思惑通り、屋上へと出てしまった女は逃げ場が無く追い詰められていた。
「まぁ、そう怯えるな。少し聞きたい事がある」
「な……何?」
「君が持って行った物があるだろう、あの銀行の人質……君の知り合いは
残念だったが、その時に君がその知り合いの懐から何かを抜き取るのが
俺には見えた。だからこそ、俺はその抜き取った物について話を聞きに来たんだ。
大人しく俺の質問に答えてくれないか?」
少々キザっぽく尋ねるニコラスだが、女は凄く冷めた目つきだった。
「……あの場所に居たから警察関係の人ね。刑事なら納得するわ。
でも、私は私でやるべき事があるの。だから今はその質問には答える事は
出来ないわ。色々守秘義務って言うのが私にもあるから」
そう女が言うと、ニコラスはため息を付いて彼女に向かって次の質問をする。
「そうか、だったら質問を変えよう。何故こんな逃げる真似をする? 俺が警察だからか?」
「……」
「やましい事が無ければ素直に俺と一緒に来ても良いだろう。だがそれが素直に
出来ないと言うのは、俺達警察に対して何か隠しておきたい事があるからだ。そしてそれは
自分が今持っている光り輝く物に全ての秘密が詰まっている。これでどうだ?」
だが、それでも女はだんまりを続ける。
「…………」
「これも駄目か。だったら次。誰かに頼まれたのか?」
「…………」
「全く、しょうが無いな。どうやらここで聞くのは無理な様だし……そろそろ警備員も来る。
俺と一緒に署まで来てもらうぞ」
そう言いながら手錠を取り出して、ニコラスが女の方に1歩踏み出した瞬間だった。
「来ないで!!」
「!?」
突然の大声に一瞬たじろいだニコラス。そのたじろいで動きが止まった瞬間を女は見逃さず、
そのまま踵を返して走り始める。
しかしその先に待っている物は、ニコラスが入って来た出入り口では無く屋上の柵も無い端だ。
「な、何をするつもりだっ!!」
ニコラスは長い足を生かして女に追いつこうとするが到底間に合わない。
そしてその女はついに、ニコラスの目の前で全速力で飛び降りた。
「……!!」
しかしニコラスが見たものはとんでもない光景だった。
その女は屋上と言う高さを利用して、隣のビルとの高低差を使った大ジャンプをかまして見事に着地。
そのまま1度だけニコラスの方を振り返り、次のビルからビルへと身軽に飛び越えて行く。
(……正気の沙汰じゃ無いな。人間の祖先が猿だとは良く言ったものだ……)
それでもここまで来て逃がしたく無いので、インカムで女が逃げて行く方角を他の部隊に伝える。
「現在9番アベニューで見かけた不審人物を追跡中。人物は金髪の黒いコートを着た女。
かなり身軽だ。方角からして7番から4番アベニューの方へと逃げている。そちらに部隊を回せ」
ニコラスはそこまでの身軽さは持っていないのでエレベーターまでダッシュし、素直にマスタングで
女の逃げて行く方角に街中を走って追いかける事にした。
だがこの状況になってしまえば人間の方が有利だ。車やバイクと違って人間で
あれば身体を折り曲げる事も出来るからある程度のスペースがあれば何処にでも
身を隠す事が出来るし、昼下がりのオフィス街と言う事もあってまだまだ人通りも
多い為に人込みに紛れ込まれてしまえば見失う可能性の方が遥かに大きい。
ニコラスも女が逃げて行く方角へ、最大限に早く辿り着く事の出来るルートを通って
マスタングのハンドルを切り、アクセルを踏み込むがやはり女は身軽であった為か結局
見失ってしまった。これで本日2度目の大失態となってしまった。
「くっ……不覚だ……」
1日に、しかも2度も追いかけていた人間に逃げられてしまった。こうなってしまえば自分の
信用が落ちる事も勿論なのだが、シティの中に悪人達が解き放たれてしまった事になる。
そうなると新たな犯罪の火種になる事は十分に考えられるので、至急今日逃がして
しまった2人の行方を追わなければいけない。
(それにしてもあの女……あの高さから飛び降りる事に全く躊躇が無かった様だが……)
もしかしてこう言う事を良くやっている経験者なのだろうか? とニコラスは思いながらも
まずは事件の結果報告が先だと言う事で自分の所属する分署に戻る事にしたのである。