Future World Battle第8話


「はぁ〜……」

溜め息が出るのも無理は無かった。何せ1日に2度も犯人を

目の前で取り逃がしてしまったからである。それでも次の日の朝は

必ずやって来るので、ニコラスは市警察の寮のベッドに寝転がって

身体を休ませようとしていた。

しかし、その時ベッドサイドに置いてある自分のスマートフォンの

着信音が部屋に響き渡った。

「誰だ、こんな時間に……」

時刻は夜の10時を過ぎた遅い時間。一体誰だろうとスマートフォンの

ディスプレイを見てみると、そこには自分にとっての1番大事な人間の

名前が表示されていた。


「もしもし?」

『もしもし、あたしよ、ルイーゼよ』

「ああ……どうした、こんな夜遅くに。仕事が長引いたのか?」

『そうなのよ〜!! 急な修正案件が入っちゃって!! もう、勘弁して欲しいわよね!』

電話の向こうから聞こえて来るのは、近々婚約が決まっている自分の彼女。

彼女は生粋のアメリカ人では無く、16歳の時にヨーロッパはドイツからやって来た移民である。

まだ現在20歳の若者であり、高校を卒業してからヴェハールシティのIT企業に就職して

ポスターや広告等のDTPから企業や個人のWEB制作をしている若手のデザイナーだ。


そんな彼女ではあるものの、やはりと言うかこの業界では深夜まで作業が及ぶ事も珍しくは無い。

今日は夜10時まで残業していたが、彼女曰くこれでもまだまだ早く帰れた方らしい。

もっと繁忙期になると夜中まで残業になる事も多く、実務経験をもう少し積んでから自分で

自営業で仕事を請け負って行きたいらしい。そんなまだ入社3年目のルイーゼは今電話している

婚約者のニコラスに対してこんな事を言い出した。

『それよりもぉ、あたし今度の土曜日にオープンパーティーに出席する事になったのよ』

「オープンパーティー? 何処の?」

『12番アベニューに30階建てのビルがあるじゃない。そこにあたしの関わったポスターが使われる

企業が入るって言うから招待されたのよ。で、今度の土曜日にあたし達予定入ってたけど、

そう言った事だから……』

「ああ、それなら別に問題無いが。こっちも色々と今大きなヤマが立て込んでてな」


今度の土曜日には久々のデートの予定だったのだが、ルイーゼがオープンパーティに

出席する事になったのとニコラスが今回の事件の捜査を続けて行かなければならなくなった事で

どうやら駄目になってしまった様だった。

『まぁ〜、仕方無いわよね。でも来年辺りにはあたしもクライアントが色々今つく様になったから、

何とか独立の目処が立ちそう』

「分かった。こっちもなるべく仕事を溜め込まない様にするよ」

『そうしてね〜。それじゃ!』


電話を切ったニコラスは再びベッドに横になる。

(あいつが独立ねぇ……あんなに補導されまくっていたあいつが…)

彼女と出会ったのは3年前。当時まだ17歳だったルイーゼは移民と言う事もあり学校では

差別の対象にされてしまっていた。それが原因で非行の道に走る様になってしまい、万引きや

強盗仲間の見張り等をして学校でも荒れてしまう存在になっていた。

それが切っ掛けで当時すでに刑事だったニコラスに目をつけられる事になってしまい、累計5回の

補導を彼にされる事になってしまう。


それでも、何とかその度に立ち直る様に根気良くニコラスはルイーゼを説得し続けた事と、

強盗仲間がニコラスの手で逮捕された事で次第に非行をしなくなって行き、最終的には

きちんと高校を卒業するまでに至ったのであった。

ニコラスはそんな自分を最後まで見放す事無く気にかけてくれた事もあり、

ルイーゼは次第に彼に対して信頼と仄かな恋愛感情を抱く様になって行き

就職した後に初めての給料でニコラスを食事に誘ったりもする等急速に

2人の仲は近付いて行った。


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