Future World Battle第3部第4話
タワーの中は前回と同じ様に薄暗く、足下に気をつけて進んで行かなければ何処で何に
足を取られてもおかしくないし、吹き抜けの穴が作られたままの状態もあるかも知れない。
だけど、ニコラスの装備している腕時計型の端末には様々な機能がある。
その中の1つとしてフラッシュライトがあり、光量を調整して近くから遠くまで状況に応じて
照らす範囲をコントロール出来る。
そのフラッシュライトで最低限の光量を出しながら、ニコラスはこれまた何かあった時の為に
何時も持ち歩いているハンドガンが、ジャンパーの下のショルダーホルスターに
しっかり入っている事を1度だけ胸に手を当てて確認してから先に進んで行く。
(俺も結局、刑事だって事か)
自嘲気味に苦笑いを漏らしながら進むニコラス。
休日も家でじっとしているよりは、どちらかと言えば外で身体を動かすのが好きな今の自分。
そして犯罪を見る、もしくは犯罪の予感がすると放っておけない性分でもある自分は、
やはり頭の先から足の先まで刑事なのだと改めて認識した。
そんな根っからの刑事であるニコラスは、辺りの気配に十分に気を配りながら警戒を怠らない。
待ち伏せやトラップと言った物が何処かに仕掛けられている可能性も十分に考えられるからだ。
だからこそ何時もの突っ走りがちな自分の性格から来る感情的になりやすい部分を抑えて、
相棒のマドックの様に冷静かつ的確で迅速な行動が出来る様に心掛ける。
その様にして息と気配をなるべく殺しながらタワーを上へと昇るニコラスだったが、
そんな彼のポケットの中でブルブルと震える気配が。
(……ん、俺の電話か?)
ホログラムが一般的になったこの2030年の時代とは言え、まだまだタブレットや
スマートフォンと言った前時代の携帯端末を使う人間は多い。
それはセキュリティ的な意味もあるし、ただ単にホログラムに慣れないから旧時代の
端末を使い続けると言う人間も居る。
警察や軍の一部でもまだタブレットやスマートフォンを使い続ける理由としては、
新しい世代のシステムであるホログラムの端末が普及すればする程、ウイルスだの
ハッキングだのと言った犯罪もそれに呼応して複雑化する。
そしてそれは同時に、前時代のシステムに対しては段々と関心が薄れて行くと言う事でもある。
スマートフォンが普及すれば、それまで使われていた縦長の携帯電話が少しずつ世の中で
見かけなくなって行った。携帯電話が普及して行けば行く程、街からは公衆電話が無くなって行った。
そう言う時代の流れを逆に利用して、例えば諜報機関等であれば回線を盗聴されない様に
する為に携帯電話での連絡をNGとして公衆電話での連絡をさせる所もある。
「注目されない」からこそ利用価値が出来ると言うのは割とある。
例えば機密文書等を扱う時は、メール添付だと万が一データが流出してしまえば大問題になるので
フロッピーディスクに保存した文書データを厳重なセキュリティの下で郵送する、と
言う事をアメリカでは一部の機関でやっていた。
テクノロジーの進歩は確かに素晴らしい事だが、それの弊害も考慮するとあえて前時代の
システムを利用する価値も十分にあるのだ。
アメリカの警察では、警察官が警察のホログラム端末を使用するのは仕事関係のみ、と
当たり前の取り決めがされている。
それから個人では出来る限りホログラム端末では無く、スマートフォンやタブレットを
持ち歩く様にと推奨もされている。
個人のホログラム端末にデータをコピーする事が出来ない様に十分なセキュリティシステムが
設けられているし、もしコピー出来たとしてもそのコピー情報はすぐにシステム管理センターに
情報が届く様に2重3重の防衛策が練られている事もあって、今の所ではコピーされた
データがあったと言う話は無い。
また、スマートフォンやタブレット等の前時代のシステムを使ってホログラム端末を使っている警察の
セキュリティに個人で侵入する事は出来ない様に、そう言ったシステムからのアクセスは対応していない。
ニコラスもその例に漏れず、報告関係だけは先程のタワー侵入前の様にホログラム端末を使う。
しかし普段の生活ではスマートフォンとタブレットを使って電話やメールをしている。
その個人所有のスマートフォンがブルブルと振動していると言う事は電話かメールのどちらかに
なるのだが、断続的にそれが止まらないのでこの振動の仕方は電話だ。
一旦物陰に身を隠し、暗がりの中でスマートフォンのディスプレイを確認してみるとそこには「ルイーゼ」の文字が。
通話ボタンを押し、なるべく小声での会話に集中するニコラス。
「……どうした?」
わざわざ自分の方に連絡するだけの用事があるのか? と思いながら応答した
ニコラスの耳に、次の瞬間とんでもない事実が告げられた。
『気を付けて、ニコラス。今……武装した男の人達が貴方が入って行った入口から同じ様に入って行ったわ!』
「何だと……っ!?」
タワーの下に居るルイーゼからの、まさかの急展開を知らせるそのセリフ。
思わず叫びそうになってしまい、寸での所でボリュームダウンしたまでは良いがその
ルイーゼからの報告を考えてみると……。
(俺の後を追いかけて来るって事になるよな?)
依然、周りでは人の気配や話し声はしない。
だとするとこのままタワーの上に向かってスピードを上げるか、もしくはこのまま隠れ続けて
その連中がここを通り過ぎるのを待つかの2択だ。