Future World Battle第3部第3話


どうせ車で移動してるんだし、せっかくなのであのタワーへともう1度向かってみる。

あの事件以来、タワーは一時的に工事を中止していたが今では再開されている筈だ。

指示を出されて散々移動させられた末にあのタワーに辿り着いたのも遠い記憶になっていたのだが、

まさかまたここに来るとは……とニコラスは多少げんなりしながらも結局やって来てしまった。

実際にルイーゼが見たと言う場所から自分も見てみたいので、少しタワーから

離れた場所にチャージャーを停める。

「どの辺りで見たんだ?」

「ええと……あっち側ね」

チャージャーから降りてルイーゼに案内して貰うと、あのヨーロッパの犯罪組織と戦った時に

自分が入った場所とは別の入り口が出来ているのに気が付くニコラス。

「あれっ、あんな所に入口なんてあったかな……」

「前は無かったの?」

「ああ、確か無かった筈だ」


記憶を手繰り寄せてうん、やっぱり無かったよなとニコラスが納得する横で、

ルイーゼがタワーを見上げながら呟いた。

「中に入ってみる?」

「いや、やめておこう。何があるか分からないし、この地区担当の第3分署に

連絡しておくのが先だ。それとマドックにも連絡しておこう」

腕時計型の端末をいじり、ホログラムを出して指先で報告をするニコラス。

その様子を横目で見ていたルイーゼだったが、ふとタワーの方に視線を戻してみると気が付いた事があった。

(……あら、あれは……?)

格闘船や戦いと言う事にはまるで無縁のルイーゼだが、目と耳はなかなか良いと自他共に認められている。

デスクワークで日々パソコンに向かっていても、現在の視力は両目共に1.5であるからだ。


そのなかなかの視力を駆使し、タワーに向かって歩いて行く人影を分析するルイーゼ。

(あれってティアナじゃ無いかしら? いや、でもこの前あたし達の結婚式に来てくれた時に

休み取っていた筈だし、何より彼女はフランスの警察官だからなかなかフランスからは出て来られない筈よね?)

ヨーロッパとアメリカではそもそも休暇の取り方が違うし、言ってしまえばアメリカとカナダでも

休暇の取り方がまた違うものとなっている。

アメリカが家庭の都合で休暇を取ったり、1年以上前から休暇の予定を入れていたりと

自由の国らしくそれぞれがそれぞれの予定で取る事が多いのに対し、カナダは周りに

気を使う事が多く約1週間程度の休みを貰い、しっかりとスケジュール調整が出来る様にするのだ。

そしてヨーロッパでは国ごとに休暇の取り方が違うのだが、フランスは法律で5週間までは

連続して休暇が取得出来るのでそれを目一杯使う人間も多い。


しかし、警察官である以上はアメリカ人のニコラスもフランス人のティアナも同じ様に休みが余り無い。

何時、何処で、どう言った事件が起こるかはある程度治安の悪い場所を重点的にチェックしていれば

大体予想は出来るものの、未然に犯行を防ぐ事が出来るケースはレア中のレアだと言って良いだろう。

警察官は事件が発生してから現場へと駆け付け、そして捜査をして解決する。

だからこそ非番の日でも用事があれば緊急の連絡で出勤しなければならなくなってしまうし、

ニコラスだって何度もそう言った経験がある。

そんな夫の行動から考えると、こうも頻繁にアメリカまでやって来られるものなのか? とルイーゼは

疑問を持ってしまう。


しかし、自分が今見ている人間がまだティアナだと決まった訳では無い。

なのでニコラスを呼ぼうと振り返りかけたのだが、彼女は振り向く事が出来なかった。

何故なら彼女の視線の先で、その人間は辺りの様子を気にしつつ先程のニコラスが疑問を

持った入口へと姿を消して行ったからだ。

明らかに工事業者の類とは言えない格好、そして辺りを気にしてから入って行くその行動に

ルイーゼは不信感を覚える。

「……ねぇ、ニコラス」

「何だ?」

「今、あのビルに入って行った人が居るんだけど……」

「え?」


報告をしていたニコラスはそのルイーゼのセリフに顔を上げる。

まさに今、と言う出来事がルイーゼから告げられたニコラスは、どんな人間が入って行ったのかを聞いてみる。

……前にルイーゼの口から証言がされる。

「背格好があのフランスのティアナにそっくりだったわ。それから横顔も少し見えたけどかなり似ていると思う」

「ティアナだって……?」

正式にコンビを組む前に、一時的に自分の相棒となって一緒にタワーに乗り込んだ、

ティアナ・クリューガーの事はニコラスも勿論忘れてはいない。

「だけど彼女はフランスに帰った。そしてまたパリで刑事として働いている筈だから、ここに居る訳が無いだろう?」

「ええ、あたしもそう思ったんだけど……良く似た他人かしらね?」

ともかく一応確かめてみるべきかと思い、ニコラスとルイーゼはタワーの前へと向かう。

「今日の工事は休みと書いている。となれば、ますますこの中に人が出入りするのはおかしいな」

建設中のこう言う大きな建物は、今日みたいな工事休業の日にホームレスや悪党が雨宿りで

入り込んだりして治安の悪化に繋がるのをニコラスは知っている。

もしそう言う連中が居たらまずいので、ニコラスはルイーゼに応援を何時でも呼べる様に

スタンバイしておけと命じて1人でタワーの中へと入り込んだ。


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