Future World Battle第2部第22話
マドックはそのレイジのセリフに、自分の手首についている端末からブーンとホログラム映像を映し出す。
「今日は平日だから集まらない可能性があると、あの工場地帯の人間は言っていたが……」
自分達の得た情報でそう予想するマドックだが、レイジからこんな質問が。
「時間は今何時だ?」
「今は夜の9時……18分だ。それがどうかしたのか?」
マドックがレイジに問い直すと、レイジは顎に手を添えて頷いた。
「だったらもう少し……夜の10時まで時間を置いてからもう1度港に向かおう。
まだ集会の時間には早いだろうし」
「何故分かる?」
「そう言うのが集まるなら大体夜が更けてからだ。港も昼間なら人の往来も激しいし、
荷物の積み下ろし等もあるだろう。それに今の時間帯ならまだ車通りが多いから通報される
危険性も高い。もう少し夜が更けて、一般車も人も居なくなってからがストリートレーサー達が
動き出す時間帯だ」
だからもう少し時間を遅くして行けば良いだろうとレイジが提案すると、それなら……とマドックが
それまでの時間潰しと捜査協力の礼を兼ねて、港湾区域近くのハンバーガーショップに3人で向かう事にする。
「アメリカに来たのは数回目と言っていたが、ヴェハールシティに来たのは初めてなのか?」
「ああ」
ハンバーガーを飲み込みながらレイジが頷く。
レイジは外科医なので、基本的には同じく医師だった親から受け継いで自分の経営している病院の
経営が忙しいらしく滅多に旅行に来る事は無いのだとか。
オフの日でも急患の対応等が入る可能性もあるのでなかなか家から離れられないのがネック。
しかしそんなレイジも人間故、今日は日本の事を忘れてこうしてアメリカまではるばるやって来たのだが……まさか
そこで自分の車を盗まれたり日本車を探す協力をしたりと言う結果になったのでアメリカに来た
意味が無いじゃないか、とぼやいている。
反対にレイジからはこんな質問が。
「2人は警察官になってどの位なんだ?」
「俺達は大学卒業してそのまま警察学校に入ったから、警察学校時代から数えればもう10年以上にはなるかな」
「長いんだな……」
ニコラスの回答にも相変わらず無口な反応のレイジ。
だけど別に聞き流している、と言う訳でも無い。
ハンバーガーショップでお互いの事を知るそんな時間を過ごした後、3人は再びマスタングのパトカーに
乗り込んで港湾区域を目指す。
しかし、サイレンは鳴らさずにあくまでもこっそりと様子を伺う様にして近づく。
港湾区域にパトカーで向かうのは良いのだが、あくまでも近くまで。
サイレンを鳴らしながらパトカーで港に侵入してしまえば、ストリートレーサー達は「自分達を検挙しに来た」と
思い即座に逃げてしまうだろう、と言うのはニコラスの予想だった。
だから港湾区域まではこっそり近づき、実際にそのストリートレーサー達が居るのか如何かを確かめてみる。
あの聞き込み調査をした場所から少し離れた所にある、レイジのR34GT−Rと出会ったあの場所。
そこに近づくマスタングの車内に乗っている3人の耳……マドックとニコラスはあのレイジのR34GT−Rと
出会った時には聞こえなかった音が確かに聞こえて来ていた。
「……やっているな」
「あれがどうやらそうみたいだ。あれで間違い無いんだな?」
「ああ」
ニコラスの質問にレイジは肯定の返事をして、数は少ししか居ないもののそれでもストリートレーサー達が
集まっている港の様子をチェックする。
夜の港には似つかわしく無い程に煌めいている、多数の車のヘッドライトの光。
それからタイヤのスリップする音や改造されたマフラーから聞こえて来る爆音。
立派な犯罪行為ではあるものの、今回はマドックもニコラスも別に彼等を検挙しに来た訳では
無いのでここは我慢する。
そしていざ身分を偽りつつ、マスタングを近くの倉庫の陰に隠して港へと向かう3人。
「ちょっと良いか?」
とりあえず近くに居るストリートレーサーの1人に声を掛け、レイジが言っていたRXー7の話を聞く事にする。
「RXー7……この辺りじゃあなかなか見掛け無いな。そもそももうRXー7なんて30年位昔の車だろ?」
どうやらこの区域ではRXー7自体が珍しい車の様で、何人かのストリートレーサー達に聞いてみても
「見てない」「知らない」と言った回答しか返って来なかった。
それでも根気良く3人で分担してそのRXー7の聞き込みを続けていると、とうとうそのRX−7を目撃したと
言うストリートレーサーに出会う事が出来た。
「RX−7……それってシルバーのFD3Sの事か? それだったらさっき向こうの方の区域に停まってたぞ。
今はどうなのか知らないけどな」
「何っ!?」
指を差して、港湾区域のもっと奥の方を指差すそのストリートレーサーにマドックの表情が明らかに変わった。
「どれ位前に停まっていた!?」
「んー、大体15分位前かな。倉庫で電気が点いていたから車でもいじってるんじゃねーのか? あそこ等辺は
空き倉庫ばっかりで放置されてるしな」
「感謝する!」
マドックはニコラスとレイジの元に赴き、大急ぎで3人揃ってその倉庫がある区画へと向かった。