Future World Battle第2部第11話


とにかくこの状況から自分で出来るだけの事をして脱出するべきだとマドックは考えてみたものの、

4人相手と言うのは厳し過ぎる。

銃を奪われてしまっている上に後ろ手に手錠をはめられているので、下手に抵抗しても潰されてしまう

可能性が高いと思ってしまい、今はまだ脱出のチャンスでは無いと判断する。

(1人が出て行く……)

あの剣を持っている茶髪の女が睡眠薬を取りに向かったのを見て、マドックは床に倒されたままでは

きついと感じて身を起こす。


……だが。

「ぬん!!」

「ぐほっ!?」

体格の良い男がマドックの頭を片手でいとも簡単に押さえつけ、あえなく元の体勢に戻されてしまう。

「あんたも聞いてたんだろ? 俺達の会話……まぁ、翻訳機があるかどうかで内容を理解しているか

どうかは知らねえけど、俺達の事を色々と嗅ぎ回って貰っちゃ困るんでね。ブンブンハエみたいに

纏わりつかれちゃ困るんだよ」

ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべて男がそう言い、その表情に対してギリッと歯軋りをしたマドックの耳に

遠くの方から微かにサイレンの音が響いて来た。


「……!!」

「おい、サイレンが聞こえて来てねえか?」

「やべぇ、こっちに向かって来てますよ!!」

「……この刑事が手引きしたみたいね。ここは早く逃げるわよ」

最初に体格の良い男がサイレンに気が付き、メガネの男が危機を感じて叫び、金髪の女は

落ち着き払った口調ですぐに逃げる様に男2人に促した。

マドックの口を封じるのは諦めた様で、そのまま後ろ手に手錠を掛けられたヴェハールシティの刑事は

その場に放置される結果に。


そしてその3人が出て行った数秒後に、サイレンを鳴らして応援のパトカーが到着しマドックは救出された。

勿論マドックはそのままで終わらせる筈も無く、複数台でやって来た応援のパトカーに対して

あの男女4人組を追い掛ける様に指示を出す。

(今日はどうやら寮に帰れそうに無いな……)

今回の出来事で報告書やら事情聴取やら何やらで朝まで署に篭りっ切りになるのか……と流石にキザな

ポーズを出来る訳も無く、こうなったらもう仕方無いと腹を括ってマドックはソルスティスで署へと

逆戻りを始めるのだった。


「逃げられた!?」

署に戻ったマドックに告げられた報告はそれだった。

あのスラム街で自分を殺す相談をしていた4人の人間達は、ヴェハールシティポリスから応援のパトカーが

やって来た後にすぐに追い掛けられて行った筈だし、マドック自身もそれを目撃していたので捕まるのは

時間の問題とばかり思っていた。

だが、まさかその警察の追跡を振り切ってそのまま逃げられてしまうなんて思ってもいなかった。

「俺の元にはそう報告が上がって来ているからな。そして今も行方は分からないそうだ」

かれこれ10年以上の付き合いを持っているニコラスがマドックにそう話した事で、その報告の

確実性は更にアップする。


「何処で見失ったとか、そう言う手がかり位はあるだろ?」

それでも少しの手掛かりがあるのなら、そこから何としても刑事としての経験と勘と執念深さと

そしてプライドで追い詰めて見せる。

このヴェハールシティの治安を守る事が出来るのは自分達警察官がそうであり、それがれっきとした

仕事であるからだ。

その考えで捜査を進めて行ければ何時かはきっと犯人達の尻尾を掴む事が出来るとマドックは考えていたが、

ニコラスからはデジャヴの如く曖昧な答えが返って来た。

「ん、んー……」

「どうした?」

「いや、それがだな……そいつ等、まるでNINJAの様にテレポートしたみたいでな」

「は?」


思わず間の抜けた声を上げてしまうマドック。

しかしそれも無理は無いのかも知れない。何故ならニコラスの言っている事の意味がまるで分からなかったからだ。

当のマドックはこめかみでは無く、今度は眉毛の斜め上辺りに人差し指と中指を当てて眉間にもシワを寄せる。

「……悪い。俺に分かる様にしっかりと説明してくれないか」

もっと具体的な説明を求めるマドックの要望に対して、ニコラスはその4人組を追跡して行った部隊から

上がって来ている報告書を手渡した。

「これを見た方が早いだろう」

基本的にデータ媒体でデジタルのやり取りがされている報告書だが、万が一そのデータ媒体が紛失や消失等の

事態に陥ってしまった時の為に2030年でも紙の報告書で一時的に保存されており、一定期間が過ぎれば

機密保持の為に破棄される管理システムだ。

なのでその紙媒体の報告書を手渡されたマドックが目にしたものは、にわかには信じられない結果報告だった。

「ダウンタウン方面から2台の車でそれぞれ逃走を図り、その後港湾区域方面と郊外方面へと逃走し、

そのまま行方が分からなくなってしまった……バカな。あの4人組は嫌でも目立つし俺の方で衛星システムで

捕捉もしている。それからヘリコプターでの追跡も行ったんじゃないのか?」

捕捉システムは余程の事が無い限り地下でもその物体を捕捉出来る程の高性能な物である。

それをかいくぐって逃げたと言う事は、あの4人組は一体何処へ行ってしまったのだろうか?


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