Future World Battle第2部第10話


実業家の実家では良い事ばかりでは無く、太いパイプがあればそれだけトラブルが

舞い込んで来る確率も高くなる。

その時に狙われるのは実業家本人だけで無くマドックを含めた家族全員になる可能性も高いので、

護身用にと柔道と合気道を習わされていたのだった。

それが今のヴェハールシティ警察に入る時に、体力テストの面で大いに役立つ経験となったのだ。

護身術として習っていた柔道や合気道を、こう言う形で何か他の人に役立てる事を知ったマドックは

ヴェハールシティ警察学校でも体術の成績に関しては頭1つ同期の人間よりも飛び抜けていた。

射撃術に関してはニコラスの方が上で、体術に関してはマドックの方が上。勉強に関してもマドックの方が上だった。

だが犯人を追い詰めると言う執念深さではニコラスの方が上なので、周囲からもこうした点を比較されて

「何でコンビを組んでいないんだ?」と不思議がられる事が多い。


そんなマドックも決して完璧超人と言う訳では無い。

現にこうして今、自分の失態が原因で尾行を続けていたあの謎の車のドライバーとその仲間達に

拉致されてスラム街まで連れて来られてしまったのだから。

自分を拉致して来た犯人グループは全部で今の所4人だとマドックは推測する。

内訳は男が2人に女が2人の丁度男女比のバランスが取れており、誰がリーダーなのかまでは

分からないものの話し振りからするとかなり親しい間柄だと言うのが分かった。

男の1人はメガネを掛け、緑の上着と灰色のズボンを着こんでおり足には黒いブーツを履いている。

この男がマドックをあの駐車場で踏みつけた男だ。

女の1人は栗色の髪の毛を後ろで何かのアクセサリーに巻き付け、ピンク色を基調とした服装に身を包み、

何故かニンジャ・ムービーに出て来そうな剣を持っている。

この女はあの駐車場で見かけた車の内、青い方のスポーツカーを運転していたドライバーだ。


(だとすると残りの2人も……)

残る2人の内、男の方はこれまたピンク色の上着を着ており体格はマドックよりも大きい。あの展望駐車場で

自分を引きずり倒した時のパワーからしてもそれが分かるこの男は顔に顎髭を生やしており、年齢的には

自分と大差無い様にマドックは思えた。

そして最後の1人……金髪に茶色い目で黒いシャツに茶色いズボンを着ている女こそが、さっきからずっと

自分が追い掛け回していたあの黒いオープンスポーツカーのドライバーだと確信するマドック。

4人の中で1番喋っていないので無口な性格なのは分かるが、その顔にも感情が余り見られないので

それ故に何を考えているのかさっぱり分からない。


何処か不気味ささえ感じさせるその女が、何と1番最初にマドックに向かって口を開いた。

「……誰?」

英語では無い言葉で問い掛けられたが、マドックは耳のインカムに翻訳機能がついているので普通に答える。

「ヴェハールシティ警察の者だ。警察相手にこう言う事をするのなら完全に御前達は公務執行妨害だ。

御前達を逮捕する」

「……」

品定めと言うよりは汚い物でも見るかの様な目つきでマドックを見下ろす女だが、マドックもそんな事でビビったりはしない。

伊達に10年もの間警察官として勤務して来た訳では無いのだから。

それを見た茶髪の女がフーっと息を吐き、仲間の3人に問い掛ける。

「それでどうするの? この刑事さん……ここで殺しちゃう?」

剣を抜いてマドックの目前に突きつける女だが、それをメガネの男が制止する。

「いや、それはまずいよ。色々足がついちゃいそうだし……自殺に見せかけよう」


そう提案したメガネの男に対して、体格の良い男がどうするのかを訪ねる。

「自殺かぁ。それならそれで良いけど、具体的にどうするって言うプランは決めてあるのか?」

「えっと、この刑事が乗って来たソルスティスがありますよね? ほら、俺の運転で運んで来た奴」

「あああれね。こいつの車か?」

そう言われ、体格の良い男はその事を思い出した。

それに対してマドックは、自分のソルスティスがここまで運ばれて来た事に気が付いていなかった。

何せ縛られてしまった上に青いスポーツカーの中に押し込まれ、そのままここまで連れて来られてしまったのだから。


「そうらしいですね。だから睡眠薬で眠って貰って、そのソルスティスの運転席に押し込んで後は港から海に向かって

アクセル全開。居眠り運転で事故死した様に見せかけておけばそれで良いかと思いますけど?」

そのメガネの男の提案に納得した様子を見せた茶髪の女は、ポンっと手を打って頷いた。

「分かったわ。それじゃ確か、私は京ちゃんに貰った睡眠薬が車の中にあった筈だから取って来るわね」

(まだ仲間が居るのか?)

女の口から出て来た、睡眠薬を貰ったと言う仲間らしき人物の名前。

しかしそれはまだ確定出来ない。何故ならここに居る4人は一切、自分の名前も相手の名前も

呼んでいないからである。

なのでこの4人の中の誰かの名前の愛称、と言う事も考えられるからだ。


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