Future World Battle第2部第5話


「俺に何か?」

マドックにそう問い掛けた事で、自分から職務質問で問い掛けた筈なのに逆に問い掛けられたマドックは

ハッとした顔付きで職務質問を再開。

「この車、右ハンドルだな? 少しあっちのパトカーの中で話を聞かせて貰いたい」

白い手袋をはめた左手の親指でクイッとマスタングの方を指差すマドックだが、男は渋い顔付きで答える。

「……手早く済ませてくれ」

「時間が無いのか?」

「ああ、この後に俺は用事があってね……だから早めに済ませてくれ」

ますます怪しい。

後の用事次第によってはこの男の要望を聞き入れる事は無理だろうなと思いながら、そのスポーツカーを

マスタングの横まで移動させて貰いキーを一旦預からせて貰った。


マスタングの中でリアシートに座った男に、ドライバーズシートに座っているマドックがタブレット片手に色々質問をして行く。

「名前は?」

「レイジだ」

「年齢は?」

「52」

「何か身分証明出来る物は持っているか?」

そう聞かれ、レイジと名乗った男は自分のダブルボタンのジャケットの内側を白い皮手袋をはめた親指で指差す。

「この内ポケットに俺のパスポートが入ってる。それから俺の車の中に国際運転免許証が入ってるから必要ならそれも確認してくれ」


その一連の受け答えを見て、マドックはこの男がやけにこうした受け答えに手馴れている事に気が付いた。

パスポートと運転免許証を確認し、身分を証明された側のマドックはその点について聞いてみる。

「……やけに慣れている様だが、アメリカには何回か来た事があるのか?」

「ああ」

「こっちの警察の厄介になった事は?」

「……少しはあるが、もう昔の話だ」

「そうか。今回はアメリカに何をしに来た?」

「旅行だ」

寡黙な性格なのか、非常に口数が少ない受け答えの仕方をするこのレイジと言う男。

しかし警察の厄介になったと言う過去があるのなら、もう少し時間を貰って調べる必要がありそうだとマドックは決めた。

「何故あんたは右ハンドルの車に乗っている?」

「日本から持って来た。自分の車でこの街を走ってみたかったから、個人の使用が認められる特例の輸入方法で一時的な許可も

貰ってある。こっちの言葉ならテンポラリーインポーテーションだ」

「……ああ、それなら聞いた事がある」

ちょっと聞きかじった程度だが、留学生や出張のビジネスマン、それからこのレイジと言う男の様に1年以内の期間限定で

尚且つアメリカ国外へと持ち帰る事が条件の特例法である。


それを使ってこのスポーツカーを持って来たなら法律上の問題は無いのだが、問題はここからの話の受け答えだと

マドックは気を引き締めた。

「それじゃあ次の質問だ。アメリカに来て今日で何日目だ?」

「3日目だ」

「3日……? その間に港に行ったり、この街のカーショップを回ったりはしたか?」

「いや、まだ回ってない」

「まだ?」

「港は行ってみたいとは思うがまだ行ってない。カーショップは俺の車に何かトラブルでも起きない限り行く必要が無い」

レイジは相変わらず冷静に受け答えをする。

焦る様子も全く見られないので、この男は本当の事を言っているのだろうとマドックは解釈した。


ならば……と別の角度からレイジに対してマドックは質問をぶつけてみる。

「それなら質問を変えよう。誰かと一緒にアメリカに来たか?」

「いや、俺1人だ」

「ふむ。では……このシティの中で今までに右ハンドルの車を見た事はあるか?」

この質問にレイジがどう答えるかによって、この後のマドックの対応も変わって来る。

だからその答えを絶対に聞き逃さない様にする為にも、マドックの視線はレイジに釘付けになっていた。

質問された方のレイジはマドックの厳しい視線に居心地の悪さを感じつつも、とにかくこの3日間で自分が見た事実を述べる。

「俺の車以外の右ハンドルの車だったら、確か2台位見掛けた記憶がある」

「本当か?」

冷静に聞き返しながらも、思わずレイジの方に身を乗り出してしまうマドック。

思わずレイジは若干仰け反った。

「……そんなに右ハンドルの車が気になるのか?」

「ああ。ある事件で右ハンドルの車を追い掛けていてな。アメリカでは右ハンドルの車自体が非常に珍しい。

あんたが見掛けたと言うその右ハンドルの車の情報を教えて貰おう」

あの港湾作業員の時と同じ様に断片的な情報で構わない。

見掛けたと言うのであれば些細な情報でも手掛かりになるのだから。


その必死さが天に通じたのだろうか? レイジからこんな情報がもたらされた。

「車の車種で言っても構わんか?」

「分かる範囲でなら」

「そうか。俺が見かけたのは2台だった。1台は黒のマツダロードスター。こっちだとMX−5だ」

「MX−5……それともう1台は?」

「もう1台は水色に近い青の86……こっちだとサイオンFR−Sって呼ばれてる車だった。どちらも右ハンドルだったから

アメリカでは右ハンドル仕様は販売されていない筈だ」

レイジの話を聞き、マドックは感心した表情を見せた。

「やけに車に詳しいんだな……。ちなみにあんたのその車、それは何て言うんだ?」

「日産のR34スカイラインGT−Rだ」


Future World Battle第2部第6話へ

HPGサイドへ戻る