Future World Battle第2部第4話


(俺も車の事に関しては全く詳しく無いからな。しかしそれでも今の時点で

考えられるのは……そのスポーツカーには衛星管理システムが搭載されていないか、もしくは

元々付いていたシステムの装置を取り外せるだけの人間が居るかだろう)

アメリカ全土においては特別な許可が無い限り、この衛星管理システムは取り外すと刑罰の対象になってしまう。

と言う事は取り外している車が普通に走っているとなれば、それだけでも検挙の対象となるのでまずは

そこから洗い出して行かなければいけない。

(右ハンドルだから簡単に見つかると思っていたが……2台のスポーツカーに乗った連中がアジアの人間だって

言う証拠もまだ無いからそれこそ無理があったか。だけど右ハンドルの国って言うと結構限られて来る筈だよな?)


左ハンドルの環境で生まれ育って来たマドックは、右ハンドルの車が走っている国を警察から繋がっている

インターネットサービスで調べてみる。

(イギリスの影響があった国や地域が大体そうだな。インド、シンガポール、オーストラリアにニュージーランド、

香港、タイ、アフリカ、マカオにマレーシア……)

アジアとアフリカとそれからオセアニアの国々が非常に多い事に一種の感動らしき感情を覚えつつ、これだと右ハンドルの

車を絞り込むだけでもやはり手間が掛かると言う事が分かった。

(予想以上に長引きそうだ……)

衛星管理システムに引っ掛からない車をどうやって探し出せば良いのか?

それはもう、産みの親から貰った足で地道に聞き込みをして行くだけだ。


カーショップの聞き込みも数件回っただけで中途半端な状況なので、そこから再開する事にした。

(時代が進化しても、やる事は変わり無いもんだな)

刑事は事件解決の為に長い時間を掛けるものだが、2030年の今でも変わらないものだ。

そう思いつつ地道にシティのカーショップを渡り歩き情報収集に励むマドックだが、その成果は芳しく無い。

右ハンドルの車の目撃情報はまるで集まらないまま、虚しく時間とマスタングのガソリンが消費されて行く。

そのガソリンもかなり減っている状態なので、近くのガソリンスタンドに向かって給油しておく。

本来であれば朝一番で給油は済ませておかなければならない筈なのだが、どうやら給油されていなかったらしい。

元々このマスタングを使っていたのはニコラスの筈なので、ガソリンが入れられていないと言うのはニコラスの怠慢じゃ無いのかと

疑問に思いながらマドックはマスタングをガソリンスタンドへと走らせたのだが、そこで思いがけない光景を

目撃する事になってしまった。


ガソリンスタンドへ向かったマドックは、マスタングの給油口にノズルを突っ込んでガソリンを給油する。

元々このマスタングはヴェハールシティポリスで正式採用されているダッジ・チャージャーやシボレー・カプリスと言う様な

一般的なセダンのパトカーでは無く、試験的にヴェハールシティポリスが導入した車だ。

だが車のスペック自体は高いとは言え、クーペモデルの為に捜査車両としての利便性は低い事が敬遠されてしまい、

何時の間にか成り行きで半ば押し付けられる様にニコラスとマドックがメインで使っていた。

別にパトカーとして使えるのであれば特に不便だとは思っていないのはマドックもニコラスも一緒なので、その証拠にマドックは

このマスタングのパトカーで捜査を進めているのだ。

ガコンとガソリンのノズルに手ごたえがあり、マドックは給油が終わった事を確認して給油口のフタを占める。

アメリカのガソリンスタンドはセルフサービスが当たり前でクレジットカードでの支払いも出来るのだが、今の様にパトカーが

給油する場合はシティで決められたスタンドにパトカー用の給油コーナーがあり、そこで警察官の個人IDとパトカーのIDを

機械に入力してから給油をする事で自動的にヴェハールシティポリスに請求が行き、捜査経費で落とされるシステムになっている。


そのシステムで給油を終えて次のカーショップへと向かおうとしたマドックだったが、そんな彼の横に爆音を響かせて

スタンドに入って来た1台の車が。

(うるさい車だな……)

もし違法改造等をしていたら検挙の対象になるので、その爆音の方に目を向けたマドックは次の瞬間その目を見開く事になった。

「……!!」

普段は冷静な彼が驚くのも無理は無い。

何故ならその車は、青いボディに派手なエアロパーツを身に纏ったスポーツカーなのはまだ良いとして、ドライバーの

座っている位置がアメリカではまず見かけない……。

(右ハンドルのスポーツカー!?)

余り目立たない色だと言っていたが、目の前のスポーツカーは明るめの青……もっと言えば水色に近い青とでも言うべきだろうが、

薄暗いならその明るい青が目立たなくてもつじつまは合う。

そこまで考えてから頷き、マドックは足早にそのドライバーに近づいて行く。

だが、そこで2度目の驚愕がマドックにやって来た。

「あんた、ちょっと良いか?」

腰に届く程に長い黒髪の男がマドックの方に顔を向けると、マドックの表情が固まった。


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