Run to the Another World第99話


もう1度さっきの場所に着陸しようとしたシュヴィリスは、窓の外がすぐ低い塀になっている為に

ゆっくりと降下するしか無い。なのでどうしてもスピードを落とさざるを得ないシュヴィリスは

バサバサと激しく翼を動かして降下体勢に入る為に着陸ポイントに狙いを定める。

だが、すぐ近くの窓から手を伸ばせばドラゴンの背中に手が届いてしまう程の狭いスペースに

その降下体勢で降りる為に、令次の腰に届く程の長い黒髪を何者かに引っ張られて城の中に逆戻りする破目に。

「うお!?」

令次は自分の黒髪が何かに絡まったのかと思いきや、そうでは無くて人間に引っ張られてしまった様だ。


「貴様等だな、この騒動の原因は? 随分と派手にやってくれた様だが、御前の仲間もじきに捕まる」

「聞きたい事は山程あるんだ。さぁ、もう1度俺達と来て貰おうか!!」

令次の髪の毛を引っ張っていた人物は、ハルバードを持っている近衛騎士団長のクラデルだった。

そしてその隣にはロングソードが武器の王宮騎士団長、エルガーの姿も。

「双璧の将軍……!」

その令次の言葉に、大柄な黒髪のクラデルは笑みを浮かべながら答えた。

「もう俺達の事を覚えてくれたのか、そいつは嬉しいな」

しかしここで足止めを食らい、自分だけ置いてきぼりにされてしまう訳には行かない。令次は身体を反転させ、

逆立ち状態のままカポエイラ独自のキックを髪の毛を掴んでいるクラデルに向かって繰り出した!!


将軍2人を相手にする事になってしまった令次は、いやがおうにも戦わなければならないと言う事もあって

絶対に逃げ切らなければならないと言う思いでバトルをする事にした。そうしなければ今迄の苦労がおじゃんである。

「よっ!」

カポエイラ特有の変則的な蹴り技を駆使し、側転蹴りや足払いからのスコーピオンキック等で双璧の将軍を翻弄する令次。

そもそもこの世界に来てからカポエイラの変則的なキックスタイルを披露する機会が無かったので、満を持して今その実力が

発揮される時がやって来た。

だがここに来て何と将軍、しかも2人同時にと言うのは全くの初めての経験だ。それでもこれでも7年間カポエイラを

やって来た意地があるし、このヘルヴァナールと言う世界においては無いであろうテクニックである為に翻弄しつつ

何とか勝負を繰り広げる事が出来ている。しかし、余り時間を掛けすぎると増援の騎士団員達が来てしまう。


それだけは何としても避けなければならないので何としてもこの2人の将軍から逃れたいと思うのだが、流石に将軍とも

なれば簡単に見逃してくれる筈も無いし倒れてくれる訳も無い。向かって来たクラデルの右ハイキックをかわしつつ

足元に頭から滑り込み、もう片方の軸足を掴んで上に引っ張りつつ立ち上がってクラデルを転倒させる。

そしてその足を掴んだままジャンプし、エルガー目掛け身体を捻りながらキックを繰り出して顔面に当てる。

「がはっ!?」

そしてキックを当てた時に勢いを殺し、そのまままだ立ち直って来ていないクラデルに膝を落とす。

「ぐお!」

武器はエルガーがロングソード、クラデルがハルバードだ。


それでも足を掴まれていたクラデルは令次の手を振りほどいて立ち上がりハルバードを振るうが、しっかりと令次は

避けてもう一方のエルガーにも対処。エルガーのロングソードによる振り下ろしに対して、右ハイキックでエルガーの胸に

カウンターを入れる。そしてその反動を使って空中で後ろに回転し、後ろのクラデルの頭目掛けてかかとを振り下ろす。

「うぐぉ!」

そして素早く着地した令次はそのクラデルに向かって振り返り、続けて前蹴りでぶっ飛ばす。

しかもその前蹴りの反動を利用してエルガーに向き直った令次は、エルガーの首目掛けてパンチ。

間髪入れずに右のローキックをエルガーの左ひざに、そして左の中段回し蹴りを右脇腹に連続で叩き込む。

そして回し蹴りの反動を使い、右脇腹に叩き込んだ右足でエルガーの頭にハイキックをクリーンヒットさせた。

「ぐっ!?」

思わずエルガーは地面に倒れ込んでしまう。


勿論もう1人の将軍クラデルが黙っている筈も無いので、すぐに令次はそちらの対処。ハルバードを振り回すが、

この部屋はなかなか狭い客室の様で大柄な武器を余り軽快に振り回す事が出来ない。

それでも将軍と言うだけあって限られたスペースの中においても的確に令次を狙うクラデル。

しかしその理由からそれ以上に身軽に動く事の出来る令次の方が有利なので、しっかりとハルバードの動きを見て

回避しつつ、時にはキックもカウンター気味に入れて対処する。だが大柄な体格には余り効いていない様で、

逆にクラデルが前蹴りを使って令次をよろけさせ、そこに突き攻撃で仕留めに来る。

(ぐ……っ!!)

令次は咄嗟によろけている身体を横に回転させ、突きをギリギリで回避した!!


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