Run to the Another World第91話
この瑞穂が首都高でめきめきと実力を付けて行くのを、彼にアドバイスを
しながら見ていた令次は自分の心の中でまた車に対する情熱が
再発して来たのを感じ取れずには居られなかったのである。
そして瑞穂の成長を見て決心した令次は、V35スカイラインを売り払って
R34GT−Rを買おうとしたが当時の貯金では買えなかったので、街道サーキットで
使っているインプレッサから2モデル後の当時最新型のGDBインプレッサを購入し
首都高サーキットへと舞い戻ったのであった。
この瞬間、首都高サーキットに「迅帝」こと宝坂令次が復活した瞬間として
彼の中では忘れられない出来事になっているのだ。
そうして復活した令次は瑞穂とバトルを繰り広げるものの、結果は敗北。
瑞穂も本来の仕事の為に首都高サーキットから下りて行ってしまった。
しかし、令次自身は今でも首都高サーキットを走り回っている。結局
インプレッサは首都高では自分に合わないと思い、もう1度金を貯めて
R34GT−Rを買い戻してもう1台のインプレッサと共に乗り回しているのだ。
こうしてまた車が趣味の1つとなった令次だったが、彼にはもう1つの趣味が出来た。
それはカポエイラだった。2006年になり、もう30歳を目前にしていた令次は
その時は彼女が死んでしまって抜け殻の様になってしまっていたと言う事もあり
別の事にもチャレンジしてみようと思い立つ。そこで以前サーティンデビルズの
メンバーだった事がある百瀬和美に頼み込んでカポエイラを始めた。
カポエイラを始めた理由としては和美のアドバイスだ。令次は足が
長いからその足の長さを活かす事が出来る武術、そして変則的な技を
繰り出すには正確さもそうだがスピードも大切なので、車で走る事によって
「スピードだけがこの世でたった1つの真実である」と言う令次にはピッタリでは
無いか、と言うのが彼女の意見であった。その意見に従ってカポエイラを始めてもう8年。
36歳になった宝坂令次は今も元気に異世界を旅している。
『……何か、色々苦労して来たんだね』
その令次の話を聞いたシュヴィリスは、遠い目をしながら哀れむ様な口調で呟いた。
「もう昔の話だ」
元々口数の少ない寡黙な性格である令次はそう言ったっきりだが、そこにハリドが
この重い空気を払拭しようと口を開く。
「……さて、最後は俺だな……」
『ああそう言えば君も居たね。じゃあお願い』
「分かった」
ハリド・エンリスは41歳になったばかりのドイツ警察の刑事だ。ミュンヘン出身の彼は荒れた生活を
14歳迄送っていたがその後警察に捕まって改心し、日本に柔道の為に16歳から5年間留学した経験もある。
それから合気道、プロレス、ブラジリアン柔術を習得し、今はコマンドサンボの修行中だ。
手技と足技もそれなりには出来ない事は無いが、専門が投げ技と関節技なのでサエリクスやジェイノリーには敵わない。
そんな彼が今では地元のミュンヘンで刑事として働いている。日本の短大を卒業して帰国後すぐに警察に採用され、
警察学校で2年半過ごしてから巡査として働き始める。それから記録や経験が豊富な人材だけが通える
警察内部の警察大学に通い、警部補になる為に勉強。そして晴れて卒業した彼は40歳になった今でも刑事を続け、
階級も5つ銀星の警部にステップアップして来たのである。基本的には昔の経歴もあって直情的な性格をしているのだが、
刑事として経験を重ねて行く内に冷静な判断も出来る様になっている。ミュンヘン警察の刑事としては警部の立場に
あるだけの事はあり、なかなかに執念深く捜査を続ける事もあってか事件の解決率はやはり高い方だ。
今では中堅刑事からそろそろベテランの域に達して来ており、若手刑事とコンビを組む事も珍しくは無い。
ただしそんな彼もヨーロッパの5人組の中ではサエリクスとジェイノリーでトリオを組む事もあるが、基本的には
単独行動をする事の方が圧倒的に多い。