Run to the Another World第86話
こうなってしまった以上、異世界に来てしまった35人が元の住処である
地球に戻りたいと思うのは当然と言えば当然であった。これが今流行りの
アニメとかライトノベルとか言う類の物であれば異世界に留まると言う選択肢も
あるし自由に異世界を行き来できる作品もあるし、35人の考えと同じく元の世界に
戻りたい考えを持ちながら行動する主人公の作品だってある。
でも今の状況はリセットがきかない。自分達の行動1つでどう転ぶかが変わって
来るのだが、その変わった方向が必ずしも良い方向に転がる保証は何処にも無い。
そして悪い方向に転がってしまった以上はどうにかしてよい方向に持っていく事が
出来なければどんどんゲームオーバー……つまり最悪の場合は死ぬ事に繋がって行くのだ。
生物である以上はどんな生物にも平等に死と言う物は訪れる。自分達人間だって
今人間の姿になっているこの青いドラゴンだって例外では無い。
だけど、少なくとも今ここに居る6人全員の考えとしてはまだこんな世界で死ぬ訳には
いかないと言う事であった。今までそれなりに長い人生を歩んで来た訳だが、正直
それでもやり残した事だってまだまだ存在している。
「だからこそ、この世界でのミッションを達成して俺達は地球に帰ります」
令次がそう言うと、シュヴィリスも腕を組んでうんうんと頷いた。
『分かったよ。さっきも言ったけど、別にそう言う考えなら僕は止めはしない。だけどこれだけは
覚えておきなよ。ここは君達の世界じゃないんだ。僕は君達の味方として動いているつもりだけど、
もし君達が敵として行動する様な事があれば僕は容赦無く君達を潰しにかかるからね』
「ああ、それは十分に分かってる。だって俺達が今頼りに出来るのは正直に言えばあんた等
ドラゴンしか居ない訳だ。あのエスティナって女も協力してくれている様だが、今ここにエスティナは
居ない訳だからな」
ハリドがそう言うと、シュヴィリスの口元に笑みが浮かんだ。
『分かっているなら良いさ。それじゃあさっきの話……えーと、君達は僕の事を知りたいんだっけ? 人間って
言うのも物好きだねぇ。まぁそれでも仕方が無いか。君達は元々この世界で生まれ育った人間じゃないし、
このヘルヴァナールに来て全然時間が経っていない訳だから僕等ドラゴンが珍しいんだろ?』
「珍しいって言うより、俺達の世界にドラゴンなんて居ないぜ」
弘樹の発言に驚愕の表情になるシュヴィリスは、腕を組んだまま再度頷く。
『へーそうなの? 君達の世界にも興味はあるけど、行く方法って分かる?』
「知らないよ。あったら僕等が聞きたい」
何処かぶっきらぼうに岸がそのシュヴィリスの疑問に答えたが、シュヴィリスはそのまま会話を続ける。
『だろうね。僕だって知ってたらわざわざ聞かないもん。でも君達の世界の事にも興味があるし、君達自身の
事にも興味がある。僕の事は君達の事を聞いたら話す事にしようかな』
「えっ、俺等の事?」
明がきょとんとした目で問い直せば、シュヴィリスは組んでいた腕を解いて左の腰に左手を当てた。
『そうだよ。せっかくこうして異世界の人間に出会えたんだ。何も別に全部1から100まで聞き出そうとか
思っちゃ居ないから、話したくない事があれば話さなくても良いよ。ここならそうそう騎士団の連中に
見つかる心配は無いと思うし、お互いの事をきちんと知る事が出来る良いチャンスだと思うけどなぁ、僕は』
と言う訳で、シュヴィリスの前にまずは異世界人6人がそれぞれ自己紹介をする事になるのであった。