Run to the Another World第84話


だが、茶髪の男の力強い声が出て来た瞬間だった。

「……!?」

突然、緑髪の男の顔に驚愕の色が浮かぶ。

「な、何だこれは……霧!?」

霧と言う単語が男達の口から出て来たのだが、異世界人6人の目に移る光景には特に変化が無い。

「?」

「お、おい……どうした?」

「分からない……けど、何か只事じゃ無いみたい」


一体何が起こっているのか騎士団員も異世界人達も双方が分からないその状況に、

今度は只ならぬ乱入者が現われた。

『さぁ、今の内に早く!!』

「えっ、お、おう……!!」

シュヴィリスが素早く元のドラゴンの姿に戻って、右往左往する6人の異世界人達は

同じく右往左往する騎士団員達を尻目に上空へと飛び立った。

「ドラゴンだ!!」

「うろたえるな!! あいつ等が逃げたぞ!!」

下の方が大騒ぎになっているが今はそんな事に構っては居られないので、

とりあえずはさっさと王都のクリストールに向かう事にする。


だけどその途中で、シュヴィリスは異世界人達にこんな質問をぶつけて来た。

『さっき、僕が霧を出してくれて良かったでしょ?』

「えっ? どう言う事だ?」

霧なんてそんな物出て来て無かったぞ、とハリドが言うとシュヴィリスの声色が一気に変わる、

『え……? どう言う事?』

「どう言う事も何も……俺達には何の変化も無かった様にしか見えなかったですよ」

「そーそー。突然騎士団の奴等があたふたし出したからどうしたんだろうって俺達も不思議でさぁ」

令次とハリドのまるで嘘をついているとは思えないその声色に、シュヴィリスは黙り込んで何かを

考え込んでしまった。


だが、そんな状況の中で明と岸が口を開く。

「……もしかして、俺達には魔法が効かない?」

「そうかもしれない……魔力がどうのこうのって話なら、魔力が無い僕達は……」

「どう言う事だ?」

横からそんな2人に弘樹が口を挟んで来る。

「つまりだ。この世界の生物には必ず魔力が存在するってさっきの奴も言ってたけど、俺等にはその

あるべき筈の魔力が無い。と言う事は何らかの原因があって、魔法が俺達に効果が無いって事なんだろ」

「このドラゴンがどんな事をしたのかは分からないけど、霧がどうのこうのって言ってたって事は恐らく

濃い霧を出したとかそう言う事なんじゃ無いのか?」


その岸の問い掛けに黙り込んでいたシュヴィリスが口を開いた。

『ああそうだ。さっきの魔法はディープミスト。濃い霧の膜を作り出して騎士団員達の視界を遮って、

その間に君達を救出したんだ。だけどそれが見えなかったって事は……』

「って、おい真由美!?」

シュヴィリスの話の途中でいきなり弘樹の叫び声が上がり、思わず他のメンバーの視線もそちらの方へと向く。

一体何があったのだろうと、ドラゴンの最後尾に乗っている真由美の方を向いた他のメンバーの目に

飛び込んで来たのは……。


「はは……や、やられちまったみたいだぜ……」

真由美の背中に1本の矢が不思議な角度で刺さっていた。貫通はしていないのだが、

このまま放っておくと危険な状態である事に間違いは無さそうだった。

「お、おい何だよそれ!!」

「まさかさっきの奴等か!?」

信じられない光景に明も岸も呆然とするしか無かった。だけど今ここで抜いても飛行中の

不安定なドラゴンの背中の上ではまともな治療が出来そうに無いし、下手に抜いてしまえば

大量出血の危険性が大だ。

「くっ、と、とにかく何処かで一旦下ろしてくれ!! 治療しないと!!」

『それならクリストールまで行った方が早いよ。けど飛ばすからね!! 掴まっててよ!!』

シュヴィリスはそう言ってなるべく揺らさない様なデリケートな飛び方を心がけ、一気に

クリストールへとフルブーストで加速して加速して行くのであった。


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