Run to the Another World第78話


だが、隠れる場所を探していた栗山が隠れる前にあの黒い服の男がこの部屋に入って来てしまった。

「うおっ……と、すまない!」

「ろ、ローレン将軍!? あの男……覗きです!!」

「いや、だから違うってよ!!」

メイドに指を差された栗山は必死に否定するが、そのメイドにローレンと呼ばれた男は

手に持っているハルバードを構えつつじりじりと栗山に近づいて来る。

「秘宝を盗み出すだけでは飽き足らず、更に覗き迄企てるとは同情の余地が全く無いな」

「だーーっ、ち、違うって!!」

「違う筈が無いだろう! 御前は早く服を持って外に出ろ。この男は私が仕留める」

メイドにそう命令して、彼女が出て行ったのを確認したローレンはすぐにハルバードを構えて栗山に走り寄って来た。


栗山は突き出されるローレンのハルバードを必死に避け、かわし、時には足でブロック。更にそのハルバードを

持つ手を掴んで体勢を崩そうと試みたが、そこにローレンの蹴りが栗山の腹目掛けて入って来て部屋の隅の

暖炉の横に吹っ飛ばされる。

「ぐぉ!!」

チャンスとばかりにローレンはハルバードを構えて歩み寄るが、栗山は暖炉の横に

立てかけてあった火かき棒を手に取ってローレンの突きを受け流した。

その受け流しから栗山は反撃に出る。武器を手に入れた上に、リーチこそ劣るがその分素早い攻撃が出来るので

ローレンの薙ぎ払いをしゃがんでかわし、逆に彼の足を思いっ切り叩く。

「ぐっ!?」

若干怯んだローレンに対して一気に畳み掛けようとする栗山だが、すんでの所でローレンも持ち直して技の応酬に戻る。

将軍と呼ばれているだけあってローレンもなかなか素早い動きを見せ、再び彼のキックが栗山の腹を捉えた!


「ぐへお!!」

部屋の隅へ吹っ飛ばされ火かき棒も衝撃で手から吹っ飛ばされた栗山だったが、その横には自分が入って来た

ドアとはまた別のドアがあったのでそこに逃げ込む。そっちの部屋は衣装部屋だったらしく、結構衣装がハンガーに

掛けられて並んでいる。それに部屋自体が細長い造りになっていて、ハルバードを横に薙ぎ払う所か

火かき棒を横に振り切れるかどうかも怪しい。なので、その狭さを逆に利用する事にした栗山はまず自分を追って部屋に

飛び込んで来たローレンの足にタックルを仕掛け、足を掴んで転倒させる。

「ぐっあ!」

その衝撃でローレンの手から離れたハルバードを衣装部屋の奥に足で蹴り飛ばし、無理やりローレンを立たせて

脇腹にパンチを入れる。そこから間髪入れずに彼の顔面目掛けて栗山はパンチを繰り出して行くが、これは避けられる。

細長い衣装部屋で、お互いに素手の状態で壁を背にして殴り合う状況だ。ローレンの左のパンチを栗山がキャッチし、

後ろ手に腕を捻り上げるがローレンも右足で後ろに向かって蹴り上げて栗山の脇腹にヒットさせる。


「くあ!」

一瞬怯む栗山だがそれでもローレンに対する攻撃の手を緩める事はせず、

今度は右の肘を使ってローレンの首を押さえつつ壁に押しつける。

「ぐ、ぐぐ!!」

だがローレンも栗山のがら空きの脇腹に左のフックを入れて首の腕を解除させる。

「らっららららっっ!!」

栗山はローレンの頭目掛けてボコボコとパンチを当てるが、ローレンも必死になってガードしつつ反撃に出ようとする。

しかし、そこから今度栗山は自分から見てローレンの左の胸に噛み付いた。

「ぐおあああ!!」

悶絶しながらも両手を使って、今度はローレンが栗山の首に手をかける。このまま締め上げてしまおうと言う

計算だったが、首を絞められている栗山の足は自由なので柔らかい関節を利用してローレンの側頭部目掛けて

スーパーハイキックを繰り出し、右足をローレンの側頭部にぶつけた。

「おがあっ!?」

超意外な所からの側頭部への攻撃で頭に衝撃を受けたローレンはふらつき、衣装部屋に入って来たドアの

前へよろけるが、そこに今度は栗山が追撃でそんなローレンの腹に前蹴りを繰り出して更にローレンをぶっ飛ばす。


「うおごあ!!」

腹を蹴られて後ろにぶっ飛んだローレンと、それを追いかけて来た栗山は再びバトルフィールドをさっきの

メイドが着替えていた部屋に移した。背中から倒れ込んだローレンに右足を叩き付けようとしたが失敗し、

その勢いで今度は体勢を低くしながらローレンの顔目掛けて回し蹴りを放つがギリギリでローレンはそれを回避して、

逆に栗山の腹目掛けて床に倒れ込んだ姿勢のまま右足でキックを放った。

「おああ!」

キックは見事栗山の腹に命中し、少し栗山もぶっ飛ぶ。2人はそのまま痛みに耐えながら何とか立ち上がり、

少し歩きながらお互いを見据えた。

「なかなかやる……ただの人間ではあるまい。どうやら全くその身体から魔力が感じられない特殊な

人間らしいな。名前を聞いておこうか?」

そのローレンの問いかけに栗山はこう答えた。

「俺に勝ったら幾らでも教えてやるよ!!」


「るっ、らっ、やっ、ちゃっ、とっ!」

今度はキック合戦に入って行くが、栗山が出して行くキックのスピードにローレンが合わせ切る事が

出来ずに腹を蹴られてぶっ飛ばされる。

「ぐほっ!?」

「でゅわ!!」

そんなかけ声と共に栗山が放ったキックは、よろけたローレンには当たらなかったがローレンの後ろに

置いてあった高級そうな花瓶を木っ端微塵に粉砕。

「らっ、たっ、ちゃっ、よっ!」

更に栗山はキックを繰り出すがローレンも上手くガードし、お返しに右のハイキックを栗山に向かって放ったが、

そこを狙って栗山はローレンの身体を支える左足を下段回し蹴りでタイミングを合わせて蹴り飛ばす。

「うおあ!!」

栗山は回し蹴りから上手く体勢を立て直し、立ち上がってもまだ体勢を立て直し切れていないローレンに

全力でドロップキックをかます。


「うおおおっ!?」

ローレンは後ろへとぶっ飛び、窓を突き破って下へ落ちようとする。

「やべっ!」

流石に人殺し迄はしたくなかった栗山は、咄嗟にローレンの右足首を掴んで

落下の阻止に成功した……筈だったが、ビリ、ビリッと嫌な音が両者の耳に届く。

「げっ!!」

「う、うおあああ!!」

ズボンの裾がちぎれて、ローレンは地面に……では無く、運良く下の窓に設置されていた

小さなベランダに着地する事が出来て事無きを得た。

「はぁ、はぁ……セーフ……!!」

冷や汗をかきまくった栗山は、呆然とするローレンをそのベランダに残して残りのメンバーが待っている筈の

屋上目指して再び城の中を走り回るのであった。


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