Run to the Another World第77話


6人とセルフォンが、脱出する為に宝物庫から窓の外と向かって走っている頃まで時間はさかのぼる。

「何だと!? 秘宝が宝物庫から盗まれた!?」

「はっ! あのバングルが何者かによって盗み出されました!!」

兵士部隊総隊長のヴィンテスと副総隊長のパルスは、部下の兵士から伝説のドラゴンの

遺跡から発掘された秘宝のバングルが盗み出されたとの報告を受けていた。

その兵士の報告によれば、宝物庫を警備していた筈の王宮騎士が何者かに倒され、

魔力によって厳重にロックが掛かっていた筈の扉もたやすく開けられており、バングルがこれまた

魔力でガードされているケースごと持ち去られていたらしい。


そして今城中に鳴り響いている警報は、そのバングルを盗み出したとされる謎の人物達が作動

させた物であるらしい。この様な非常事態に備えて、ケースを守っている結界を消さないでケースに

触ってしまった場合にはこうして大音量で城中に警報が鳴り響くシステムになっていたのである。

「で、そのバングルを盗んだ奴等は今何処へ?」

「はっ、現在城の中を走り回っている様です。いかが致しましょう?」

パルスの問い掛けにそう答えた兵士は、逆に今度はヴィンテスとパルスに指示を仰ぐ為に質問をして来た。

「分かった。ならそいつ等を生かして捕らえる様にしろ。城の内部は狭いから

挟み撃ちにするのも良いだろう。とにかく殺すなよ、良いな!」

「はっ!!」

兵士はビシッと敬礼をしてから走り去って行き、ヴィンテスとパルスも動き始める。

「俺達も行こう」

「ああ、身の程知らずな奴等だな、ったく!」


一方で王宮騎士団団長のジアルと副団長のラルソンも、この騒ぎに気づいていない

筈は無かったのでもう既に武器を持って動き出していた。

「失態だな」

「ああ。だけど魔法でしっかり防壁を張って置いた筈なのに、こうも簡単にあのバングルが

盗み出されるなんてそんな話は……」

「それが俺も引っかかるんだよ。あの結界を解除しなければあの扉は開かない筈だし、バングルも

盗み出せない筈なのに、一体盗み出した奴等はどうやって宝物庫に入ったんだ?」

宝物庫はその名前の通り国の宝をしまって置く場所であるから、ロックが厳重なのは当たり前の

話になっているのだが……それをいとも簡単に突破されたとなればそのロックも緩かったと言う事になってしまう。

「とにかく俺達も行こう。既に宝物庫の2人がやられてるんだ。すぐに捕まえるぞ!!」

「ああ、そうだな!」

決意を固めて、それぞれ愛用の武器を片手にジアルとラルソンも出動して行く。


更にその一方で、気絶から立ち直っていた近衛騎士団長のローレンと彼と合流した副長のジャックス、

更にこの国の皇帝であるリュシュターと宰相のモールティは、皇帝の執務室で今回の事件に

ついての話し合いをしていた。

「その謎の人物達は全部で7人だったと?」

「はい、見た限りは……ですが。しかしこうも易々と城に侵入され、更に

私がこうして気絶させられてしまうとは……申し訳ございません」

ローレンは自分の未熟さと、主君を危機に晒してしまった事を悔やみ深々と頭をリュシュターに向かって下げる。


「怪我が無くて何よりです。近衛騎士団も城内の警備に当たっていた筈ですから、

王宮騎士団、それから兵士部隊の者達と共にその侵入者を捕まえる様に」

「「はっ!!」」

ローレンとジャックスは完璧に声を揃えて返事と敬礼をし、それぞれ愛用の武器を片手に皇帝の執務室を出て行った。

その執務室に残ったリュシュターとモールティは、まずその謎の人物達の正体を探るべく情報を纏め始める。

「今の所は7人……しかも、ローレン将軍が言っていた事も気になります。

その6人の身体から魔力が感じられなかったと。そしてもう1人の謎の男の身体からは常人では考えられない位の

魔力が感じられたと。後者はともかく、前者のその様な人間はこの世の中では見た事も聞いた事もありません。

もし本当にそんな人間が居るのだとしたら、これは世界を揺るがす大発見になりそうですね」

実際の所、このヘルヴァナールと言う世界に生きている人間や魔物を含めた動物達は皆全て魔力を

生まれながらにして大小の差はあれど持っているのが当たり前なのだ。

だがローレンを縛り上げてバングルを奪って行ったあの人間達は、ローレンが言うには魔力をその身体から

感じる事が出来なかったと言うのだ。

となればもう認めるしか無いであろう。魔力を持たない人間がこのイディリークに入って来たと言う事を。


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