Run to the Another World第76話


今度は洋子が先頭で、ジェイノリー、大塚、博人、セルフォン、岩村、そして最後に栗山が

引っ張り上げて貰うつもりであった。

「良し、栗山も良いぞ」

「ああ」

栗山は窓の柵に足を掛けて上へとジャンプしようとした……が!!

「ぬっ!?」

寸での所でジャンプを止め、一旦その柵から窓の内側へ飛び降りる栗山。

いや、正確には誰かに足を捕まれて引き摺り下ろされたと言う方が正しい。


「おい、どうしたー!?」

上から博人の呼び掛ける声が聞こえて来るが、栗山はそれに大声で何とか叫んだ。

「き、緊急事態だ!! 先に行け!」

そう言いつつ窓を閉め、その足音の主がこちらに辿り着く前に駆け出す栗山。

勿論足音の主も栗山を追い掛けて来る。

「あれ、栗山は?」

「何か緊急事態だって言ってたのが聞こえたんだが……どうなってるんだ!?」

尋ねて来た岩村に苦々しい表情で博人が答える。

その横からジェイノリーがこんな予想を口にする。

「まさか……敵に捕まったとか?」

「その可能性も有り得るかも知れないわね。と言うか、間違い無いと思うわ」


冷静にそう言う洋子だが、その表情には焦りの色が出ているのが分かる。

「くそっ……! おい、どうする!?」

「しょうがない、ここは大人しく上に行こう。あの男を信じて待つ!!」

「分かった!!」

大塚の切羽詰った疑問に的確にそうジェイノリーが指示を出し、それに博人がうなずく形で

今はとにかく屋上へと避難する事になった。なので残った5人はその屋上に辿り着き、そこで

セルフォンに変身して貰おうとしたがセルフォンはそれを拒否。

「何で!?」

『この城の周りを飛べばそれだけ目立ってしまい、逃走も困難になる。もし魔法で城の周りに結界でも

張られてしまえば、某はこの城の敷地から出られなくなる可能性だってある』

「あ……」

「そうね、それもそうだわ」


そう言われて大塚と洋子は、自分達が地球の常識が通用しない場所に居るのだと言う事を改めて再認識した。

ここは地球では無い。自分達の世界では無い。だから自分達の世界の

常識が通用しないし、魔法は自分達に効果が無くてもこのセルフォンには効果がある。

それを考えてみれば、そうして魔法でバリアを張られてしまえば身動きが

取れなくなるだろうと言う話も有り得なく無いと言う事になってしまうと言う訳だ。

『某達はここでその栗山が上って来るのを待つしか無い』

セルフォンがそう言って今は我慢の時だと信じながら待つ事にしたのだったが、この屋上に居るメンバーにも

栗山と同じく緊急事態が襲い掛かる!


その2階層下の5階においては、その栗山が赤髪の黒い服の男に追い掛け回されていた。

良く良く見てみればこの男、あの時宝物庫の場所を聞き出した男では無いか。

その男に追い掛け回されながら、とにかく栗山は振り切る事を念頭に置いて

5階のフロアを走り回って時折出て来る兵士をいなして行く。

「敵だ! 捕まえろ!」

その兵士達が出て来るとこうして男が命じているので、この男も軍人で

しかも隊長クラスであると言う想像がつく。だがその隊長クラスの男が追って来ているとしても、

自分はこの城から無事に逃げ出さなければならないのである。

その為にも今はひたすら走って逃げて行かなければならないのだが、その目論見は

脆くも数秒後に崩れ去ってしまう事になる。

「……っ!?」

次の角を曲がった瞬間、突き当たりは行き止まりになっていた。


その横にはドアが1つあるので迷わずそこへ飛び込んだ栗山だったが、中では

メイドがまさに着替えの最中であった。

「きゃあああっ!!」

「え、いや、ち、違う!!」

まさかこんな事態になるとは思っていなかったので栗山もパニック状態になるが、

そのメイドを部屋から追い出している時間も惜しいので、隠れる事の出来る場所を

すぐに探し始める。この状況では引き返せる様なシチュエーションでも無い。

後ろからはあの黒い服の男が追い掛けて来ているのだから、今は隠れてここから

逃げ出せるチャンスを窺うしか今の栗山には残されていないのであった。


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