Run to the Another World第75話


バングルは透明なケースに入っており、更にケースごと台座に置かれているので

よっぽどこの国にとって大事な物であろうと言う推測が出来る。

「こんなに厳重に保管されてるけど、元々はセルフォンの持ち物だよな?」

『ああそうだ。あのバーサーク何とかって言う奴等が居た某の別荘から持って来たんだろうが、

これは返して貰うぞ?』

セルフォンが未だに縛られたままの赤髪の大男に向かってそう言うと、男が声は出せないものの

目を見開いて驚愕の表情を浮かべているのがはっきりと分かった。


「後はこれを持ち出してこの城から上手く脱出するだけだ!」

博人がそう言って、ケースごとバングルを持ち上げた……その時!!

「……!?」

突然、入り口の扉がばたんと音を立てて閉まる。更に次の瞬間、城中にまるで

避難訓練の時の様な警報が鳴り響いた。

「げぇっ、まずい!!」

「は、早くここから出ないと!!」


入り口のドアは勝手に閉まったにもかかわらず簡単に開いたが、段々上の階が

騒がしくなって来ているのが足音で分かる。

「あーくそっ!! 全部今までの脱出と潜入がおじゃんだぜ!!」

「そ、それよりも今は逃げるぞ!!」

悔しがる栗山を大塚が引っ張り、赤髪の男を宝物庫の端の方に縛ったまま放置して

6人はセルフォンと一緒に元来た螺旋階段を駆け上がる。

だが上の階では既に、大量の騎士や兵士が武器を片手にばたばたと走り回っていた。

「くそっ、まずいな!!」

「どうする?」

「こうなったら強行突破だ。行こう!!」


戸惑っていても仕方が無い。とにかく城から出てしまえば良いだけの話なので、

6人は脱出ルートを探して城の中を駆け抜けて行く。

正面玄関の場所は分からないからまずダメで、窓から脱出しても城の敷地内に出てしまう為に簡単に

捕まってしまうのは時間の問題なので無理だ。それだったら裏口があれば良いのだが当然場所が分からないし、

隠し通路なんてそうそう都合の良い物があったりする筈も無いだろう。だからこそ、今考えられる脱出ルートとして

最も有効なのは恐らく屋上だ。そこからドラゴンのセルフォンに元の姿に戻って貰い、一気に空へと飛び立てば良い!!

が、ここでふと大塚が立ち止まる。

「……」

「どした?」

「ショートカット出来るかな……」


声を掛けて来た博人にそんな事を呟く大塚。突然の発言に博人は大塚の言っている意味が分からない。

「え? ショートカット?」

大塚はその博人の疑問に手近にある窓を開けて答える。落下防止の柵がそれぞれ窓に取り付けられており、

それを使って上へと移動すればわざわざ城の中を通らなくても屋上迄行けるのでは無いかと言う提案を大塚がする。

「あー、それはありかも。兵隊がまだ全然居ない今がチャンスね」

「ならやってみよう。まずは俺が最初に上に行く」

博人がそう言って窓の柵に足を掛け、上へと思いっ切りジャンプ。


何とかギリギリで上の窓に取り付けられている落下防止用の柵へと手が届き、腕の力で身体を引っ張り上げて

今度は下に居るメンバーを引っ張り上げる事に。

「良いぞー! 次は誰だ?」

「私が行くわ!」

今度は洋子が窓の柵に足を掛けて飛び、博人に手を掴んで引っ張り上げて貰う。

洋子が飛ぶ前にあらかじめ博人は上の窓を開けておき、対策も抜かりは無しだ。

こうして4回この動作を繰り返し、1階からスタートして2階分窓を上がって更に1階分

窓を伝って上へ上がって来たので、今は4階に居るのだ。

「じゃあ次は俺が」

今度は栗山が最初に上へ移動し、次にジェイノリー、大塚、博人、セルフォン、岩村、洋子の順番で

5階部分へ移動。屋上はどうやら7階部分の様で、後2階分上がれば屋上へと出る事が出来る筈だった。


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