Run to the Another World第73話
「どーしてあの時、俺達の前から姿を消した!?」
栗山が1番聞きたいその疑問を率直に鉄格子越しにぶつけると、セルフォンは
詰襟の灰色の上着の下からごそごそと鍵の束を取り出して、鍵を1つずつ錠前に
合うかどうかを試しながら答え始める。
『あの時はすまなかった。しかし、あの別荘でアクセサリーから波動を感じられなかったんだ』
「アクセサリーの波動?」
洋子が問うと、セルフォンは鍵穴に集中しながら返事をする。
『そうだ。某のアクセサリーは御前達と同じ波動が感じられるんだ。某だけでは無く別の場所に
向かったドラゴン達も同じだ。だからこそ、あそこにアクセサリーが無いと踏んだ某は波動を探す為に
あそこから御前達を置いて逃げるしか無かった。そして辿り着いたのがここだったんだ』
「て事は、この城の中にアクセサリーがあるって言うのか?」
大塚の問い掛けに、やっと錠前に合う鍵を見つけたセルフォンは静かに素早く錠前を解錠しながら
嬉しそうな声色で続ける。
『ああ、間違い無い。だから某はこうしてここまでやって来た。風の魔導を使ってな。転送装置だと
この城の人目につく所に出てしまうし、そもそも某が遺跡に戻るより直接こっちに向かって来た方が
早かった。まずはとにかくここから出るぞ』
しかし6人にはまだ疑問が残っている。
「それは良いけど……どうしたの、その鍵?」
何故彼が錠前を外す事が出来る鍵を持っているのかと言うのも大きな疑問だったが、それを尋ねた
洋子に対してこの後、凄い事がセルフォンの口から語られる。
『風の魔導でここに潜入した後、牢屋の見張りをしていた兵士を気絶させて奪い取った。
モタモタしていると見回りが来るから急ぐぞ』
「えっ、それって犯罪……」
『良いから』
自分の言葉を遮られた岩村は心の中で思わず良くない、と呟いたがもう後の祭りだろう。
こうなったらこの城の中でアクセサリーを探す事になりそうだ。セルフォンがそのアクセサリーから
感じる事の出来る波動を辿っていけば間違い無くそのアクセサリーの保管場所に辿り着く事が出来る。
こうして所々で見張りの兵士を倒しつつ、ステルスを念頭に置いての行動で6人は保管場所の
部屋へと難なく向かう事が出来た。勿論その部屋へのルートに居る見張りの兵士も気絶させて行く。
「良し、ここら辺はあらかた片付いたな。行こう」
『ああ、某のもう1つのアクセサリーはバングルだな」
と言う訳で、6人はセルフォンの先導でその部屋に向かってラストスパートをかけた……筈だったが。
「む? 何奴!!」
「はっ……!?」
すぐ先の通路からいきなり6人の前に出て来たのは、明らかに軍人だと言う雰囲気を纏った
黒い制服に赤髪の男であった。
「てきしゅ……むぐ!!」
男は増援を呼ぼうと大声を上げかけたが、それは栗山が飛び掛かって阻止する。
「おっと、騒ぐなよ。大人しくアクセサリーの保管場所を教えて貰おうか」
栗山がクラヴマガ仕込みの拘束術で赤髪の男の動きを的確に封じ込め、一方で博人が男の口を
指で挟みこんで大声を出せない様にしておく。
「大人しくしていれば命迄は取らない。俺達はそのアクセサリーのバングルに用があるんだ。
必要な物はそれだけだから、教えてくれれば大人しく俺達も退散するんだぜ? だから教えろ」
「だ、だひぇがそにゅなことぅぉおしゅいえ……」
「そっか。ならこれはどうだ?」
その赤髪の男の首を今度は大塚が締め上げて行き、窒息させようとする。
「ぐぐぅ、ぐえ……」
「教えるなら命は助ける。で、どうすんだ?」
大塚が冷静に男の耳元で囁き、男は観念したのか苦しそうにもがきながらも話し始める。
「こ、こにょへやうぉでとぅえ、みふぃにうぃってつくぃあたるぃをひどぅあるぃにまぐぅあっちぇ、
すぬぉすあくぃぬぃありゅうぉうぉくぃぬあちょぶぃるあぬづぁ」
洋子が翻訳すると、『この部屋を出て右に行って突き当たりを左に曲がり、その先にある
大きな扉の先がそのバングルのある場所だ』と言う事になるらしい。
「そうか。だったら少しだけここで眠ってて貰うぜ?」
ニヤニヤと薄気味悪い笑みを浮かべながら男に詰め寄る博人。完全に悪役だ。