Run to the Another World第7話


「武器も駄目、防具も駄目って一体これは……」

「これじゃあ、武器の体験なんて出来ないな」

武器を手に取ろうと握る、防具を身につけようと手に持つ。そうするとこの現象が11人全員に例外無く起こるのである。

「私達もこんな現象は初めて拝見しました」

リアンがそう言った様に、ラシェンも訓練をしていた騎士達も驚きの表情やざわめきを隠す事が出来ない。

「だが困る事はあるまい。訓練をする事は無いのだろう?」

そう問いかけたセヴィストだったが、和美の口から予想外の言葉が。

「いえ、出来れば皆さんが居ない時にここを使わせていただけたらなと」

「ほう、特訓でもするのか?」

「はい」


予想外の答えにセヴィストを始め若干驚きの表情を浮かべる異世界人達。

「剣の素振りなら棒切れでも使って教えてやるが?」

「いや、私達がやるのはもっと違う物ですので大丈夫です」

「なら今やっても良いぞ。向こう側なら場所も空いている」

シャラードの申し出を丁寧に断り、そのルザロの申し出には快く応じる和美。

「それじゃアップから始めるよ」

和美の直接の弟子の流斗、岸、令次、洋子以外の7人もそれぞれ参加する事になった。


その7人もそれぞれ違う武術を習っているが、強いのはまずグレイル。グレイルは元々身体が余り強くは無いので、

書道における精神修行も含めて体力をつける為に格闘技をオーストラリアで生まれ育った時から始めていたのである。

5歳からまずは空手を始め、それからカポエイラ、ムエタイ、キックボクシング、カンフー、太極拳(剣術、槍術含む)、

クラヴ・マガと15年に渡って日本に来る前日まで続けていた。その甲斐もあり今では首都高でトップクラスの走り屋に

なれただけでなく、実際にプロレーサーとしてサーキットで活躍していた事もあるのだ。

東京には道場もカポエイラや太極拳等種類が沢山あるので、書道家として活動する傍らで精神修行の一環として

道場には今現在も頻繁に通っている。白人の為に筋肉もアジア人と比べてつきやすく、大抵の事であれば

パワー負けをしないのも有利な条件になっている。

和美とは首都高では同じ「Be Legend」に所属しているだけでなく、横羽線でトップクラスの走り屋として御互いに

有名な存在であったので、自然と武道の面でもお互いの実力を知り尽くしている存在だ。

「ゾディアック」時代からのメンバー同士でもあり、長い付き合いの1人でもある。


そんなグレイルにハリドが声をかける。

「グレイル、だったか?」

「お、何だ?」

「どんな格闘技をやってたんだっけ? いっぺんに覚え切れなくてさ」

「俺はまず空手。それからカポエイラ、ムエタイにキックボクシング、それからカンフー、

後太極拳と、最後にクラヴ・マガだな。そう言えばハリドは刑事だったっけ?」

「ああ」

「システマとかやってるのか?」

そのグレイルの問いにハリドは若干首をひねりながら答えた。

「やっていると言えばやっているが、俺は元々のベースが柔道だからな。

投げ技や関節技が得意だから、その要素も自己流で取り入れてるよ」


すると、それを傍らで聞いていた永治が反応する。

「ほう、それは興味深い物だな」

「ん?」

「ああ、こいつは柔道5段でかなり強いんだぞ、ハリド」

だが、グレイルの言葉に永治は否定から入った。

「いや……5段は長くやってれば誰でも取れる。6段からがきついんだ。

俺は時間が無くて取れなかったんだけどな……。

それでも長くやっている分、そんじょそこらの奴に負けない自信はあるがな」


そう言い放った永治に、ハリドのこめかみがぴくりと動いた。

「そうなのか。なら今の問題が全て解決したら俺と勝負だ」

「良いだろう。見せてもらおうか、刑事とやらの実力を!」

ここに日本に留学してまで柔道を習った刑事と、幼少から柔道を嗜んでいる

某ロボットアニメオタクのバトルの約束が取り交わされた。

そんな3人はさておき、和美からは一向に基礎トレーニングをやめる指示が出て来ない。

「何時までやるんだ、これ?」

「……そろそろ終わりにしないか?」

「そうね、そろそろやめましょうか」

丁度向こうのトレーニングも終わったみたいだし、と和美が付け加え基礎トレーニングは終了した。


「何だ、意外と普通の練習だったな。腕立て伏せとか……」

「もっと凄い物をやるのかと思ってましたが、やっている事は平凡な事でしたね」

そんな11人の基礎トレーニングを見ていた異世界人達は、口々に拍子抜けだと言う感想を漏らした。

そしてそれを聞いていたセヴィストがこんな提案をし出す。

「良ければ、手合わせをして見ないか?」

「え?」

まさかの、しかも皇帝陛下からの発言に目を丸くする11人だったが、良く考えてみれば

この帝国は武人国家と呼ばれるだけの事はあってか手合わせを申し込まれるかもしれない、と

確かに以前リアンから言われた。ある程度それは11人も予想していた事でもあるので、

その皇帝からの申し出の勝負を受ける事にした。


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